これまであまり起こりえない、登記の事例を御紹介して来ました。
今回の事例も日常生活をしている上では、全く関係のないできごとですが、知っていると思い悩まないで済むかもしれません。
かなり専門的で、難解な部分もありますので、こんなこともあるのかと、読み流してみて下さい。
今回の事例は、割とよく起こる部類かもしれません。
1つ土地を分けて別々に相続をする場合
亡くなった方の土地をAさんBさんの2人の相続人で分けることにしました。
1つの土地を2つに分筆して、それぞれの名義にしたいのですが、一旦相続人名義にしないと分筆登記ができないのですか?
遺産分割協議前に法定相続をする場合
先に名義の変更登記をすると、土地の所有権が共有となり、それぞれの持分でを所有することになります。
その後に分筆登記をすると、それぞれ2名の共有土地土地が2つできあがります。
その後、土地をそれぞれの単独所有にしようとすると、お互いに持分を移転する登記をしなければなりません。
※名義変更の登記にかかる登録免許税が、2回必要になります。
- 「共有物分割」という原因で、それぞれの持分を交互に移転する必要があります。
均一の面積でなかった場合には、面積の大きい筆を取得する側は、登録免許税の割合が高くなります。 - 登録免許税については、共有物分割を原因とする移転登記は、原則20/1000ですが、一定の場合に限り登録免許税は4/1000となります。
※共有物分割の登記申請前に分筆登記をした土地で、かつ、分筆登記で生じた他の土地と同時に申請された場合には、共有物分割による持分移転登記の前に有していた持ち分に応じた、土地の価額に対応する部分にのみ、安い税率の4/1000となります。
遺産分割協議を整えてから分筆する場合
遺産分割協議が終わる前の場合、共同相続人全員で、分筆登記をします。
遺産分割協議が終わっていれば、取得する相続人だけで、分筆登記ができます。
この場合、土地の名義は、亡くなった被相続人名義のままです。
分筆登記後、被相続人名義から相続人に移転登記をします。
※名義変更の登記にかかる登録免許税は、1度で済みます。
但し、遺産分割協議書でしっかりと、分筆後の土地を記しておく必要があります。
分筆後の予定地番や予定面積、若しくは図面等で特定をしておかないと、所有権移転登記に支障がでる可能性があります。
測量して境界が確定された後に、作成する方が無難です。
境界確定と分筆には、おおよそ3ヶ月程時間がかかります。
相続人が亡くなり、印鑑証明書がない場合
印鑑証明及び戸籍謄本のない遺産分割協議書が出てきました。
これに基づいて相続登記をすることはできませんか?
相続登記は可能です。
戸籍謄本等の相続証明書は、取り直さなくてはいけません。
また、保存期間の80年が過ぎてしまった場合には、「他に相続人がいない旨の証明書」を残った相続人で作成しなくてはなりません。
印鑑証明書は亡くなると取得できなくなりますが、残った相続人間で下記の様な「遺産分割協議書は真正である旨の証明書」を作成すれば所有権移転登記は可能です。
証 明 書
令和〇年〇月〇日死亡した甲野太郎にかかる遺産につき、甲野太郎の相続人である甲野花子、甲野一男、甲野恵子で協議が調い、平成〇年〇月〇日付けの遺産分割協議書を作成しました。
しかし、その後、相続人甲野花子がしぼうしたので甲野花子の印鑑証明書を添付できませんが、上記遺産分割協議書が上記相続人によって正しく作成されたことに間違いありません。
平成〇年〇月〇日
〇市〇町〇番〇号
甲野花子相続人 甲野一男 印
〇市〇町〇番〇号
甲野花子相続人 甲野恵子 印
※現存している相続人の印鑑証明書は、添付しなくてはなりません。
家を建築したが、妻との持分割合を間違えた場合
家を購入して、住宅ローンの抵当権設定も完了しました。
しかし、実際には出資割合と異なった持分で、所有権の登記をしてしまいました。
登記名義を直すことはできますか?
例:甲野太郎が800万円、甲野花子が200万円支払った場合。
登記上 甲野太郎2分の1 甲野花子2分の1の共有名義
実体上 甲野太郎5分の4 甲野花子5分の1の共有名義
このままだと、甲野花子は、実際に支払った金額よりも、多い持分を取得してしまうので、直さないと贈与税が発生してしまいます。
200万円しか支払っていないのに、500万円分の価値を得てしまうので、差額の300万円が贈与税の対象となります。
登記を間違えてしまった場合に訂正することができますが、場合により方法が異なります。
所有権抹消登記を行った後、改めて正しい内容で登記する方法
既に登記された権利が誤りであったのであれば、間違った登記を抹消(「抹消登記」)して、正しい内容で改めて登記をし直すのが本来の方法です。
しかし、既に誤った登記の際に、納めた登録免許税等が戻って来ることはありませんし、改めて登記をする際に、同じだけ登記の税金がかかってしまいます。
更に、住宅ローンの抵当権者の同意が必要になるので、再度抵当権設定をするとしても、一旦抵当権を抹消することに、金融機関の協力が得られないかもしれません。
所有権更正登記により登記を訂正する方法
既に登記された権利の内容の一部に、その当初から誤りがあって実態と一致しない場合、その不一致を是正する目的で行う登記を「更正登記」といいます。
なお、更正登記が出来るのは、更正の前後を通じて登記の同一性がある場合に限ります。
従って、例えば所有者としてAと登記したのを、別人のBに登記することは同一性がないので出来ません。
下記の場合には、名義人の更正登記が可能です。
持分のみを更正する場合
上の例のように、所有者(共有者)は変わらずに持分だけを更正する場合は、当事者であるA・Bだけで登記手続きが可能です。
この場合、その不動産全部を担保に取っている金融機関等がいても登記手続き上はその承諾は不要です。
共有関係を単独所有に、単独所有を共有関係に更正する場合
上の例と異なり、例えばA・B共有として登記を完了したところ、実際にお金をだしたのはAだけであったような場合です。
登記手続きをするのに、A・Bだけではなく、不動産を担保に取っている金融機関等利害関係人がいるとその承諾が必要になります。
なぜなら、更正登記は始めから登記が誤っていたということなので、A・Bに付けていた抵当権もBに付けていた部分は誤りだったということになり、抵当権等の担保が当初Aに付けていた部分だけに縮減されてしまうからです。
また、所有権移転登記の更正の場合、前所有者(売主等)の協力も登記手続き上必要になりますので、手続が煩雑になり、前所有者の協力が得られないような場合には、更正登記手続き自体が非常に難しくなります。
「真正な登記名義の回復」により登記を訂正する方法
所有権更正登記が出来ない場合や金融機関、前所有者等の協力が得られない場合には、「真正な登記名義の回復」という登記原因により、所有権の登記を訂正する方法があります。
例えば、実際には、AからCに所有権が移転したのに、登記簿上はAからBに移転したことになっている場合、真実に合致させるために便宜上BからCに所有権移転登記手続をすることが出来ます。
更正登記の場合と違って真実に合致している限り、登記の前後を通じての同一性までは要求されません。
この方法による場合、登記手続き上、現在の登記名義人B(誤った登記名義人)と真実の所有者Cだけで登記手続きが進められます(前所有者Aの協力は不要)。
また、金融機関の抵当権が付いていても、その状態のまま(抵当権等が付いたまま)所有権を移転しますので、登記手続き上は金融機関等の承諾は不要です。
但し銀行や信用金庫の約定上で、知らせる規定はあることが通常です。
このように更正登記が出来ない場合でも、「真正な登記名義の回復」という登記原因により所有権移転登記をすることで、登記を訂正することが出来る場合もあります。
但し、仮に真実に合致せず誤った登記であったとしても、その誤って登記がされた際の登記が、「判決」、「競売」等、公正な機関である裁判所が関与していた場合や、抵当権や地上権等所有権以外の登記であったような場合には認められません。
真正な登記名義の回復ができる場合
一昔前は、所有権者を真実の名義人にしたい時は、どんなケースでも真正な登記名義の回復を原因として登記名義を直すことができました。
しかし、現在は上記の様に、金融機関の協力が得られなかったり、前所有者の協力が得られないなどの理由がなければ、不実の名義人を登記することを予防するために、使うことができなくなりました。
真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記を申請する為には、最低限下記の要件を満たす必要があります。
- 現在の登記名義人の登記が実体に符号せず、登記名義人は所有権を有していないこと。
- 真実の所有者に所有権があること。
- 真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転をする必要があること。
まとめ
今回は、実は意外とありがちな登記の事例について御紹介しました。
「1つの土地を2人に分けて相続する場合」
「遺産分割協議をしたが、相続人が亡くなった場合」
「購入した建物の名義を直したい場合」
今回の事例は、案外レアケースではありません。
方法や技術的なことは、専門家に任せるとして、こういった場合にも何とかなるってことを御記憶に留めておいて下さい。
何かの際に役立つかもしれませんよ。