企業分析アナトールの株式投資

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【2395】新日本科学~有価証券報告書の読み方~

結論

財務は悪し、体質も微妙。。

今後の体質変化に期待したい。

 

目次

 

事業概要

先ずは新日本科学の事業についてです。

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新日本科学の事業は上記の5つのようです。

前臨床事業や臨床事業、トランスレーショナルリサーチ事業は良いとして、個人的にはメディポリス事業とその他事業はいるのかな、という気がします。本業とあまりかかわりが無い気がしますし、同社グループがどんな組織体を目指しているのかわからなくなりそうです。

また、事業内容の説明も、率直に言って分かりにくいです。

例えば事業内容のセグメント別を説明する二つの資料。

この資料と

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この資料。

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かなり近くにあるんですが、何が違うんでしょうか・・・?

情報の並び順を変えているだけでほぼ同じ情報かと。下の資料には所在地が載っていたりしますから、完全に同じではないでしょうが、「だから何?」感が否めません。資料とはそれぞれに何らかの目的があるものだと思いますが、この2つの資料を並べて何が言いたいのかが見えません。

事業所の所在地など、知ろうと思えば関係会社のリストで確認できます。

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有価証券報告書における「事業の内容について」はステークホルダーに対して自分の組織がどんな事業を営んでいるのか、その性質を伝えるためにあります。その事業の説明の時に事業所の所在地は関係ありません。

他にも同社の事業の説明は「前臨床試験」や「治験」について手順を詳細に教えてくれているんですが、結局この説明から何を伝えたいのかが良く分かりません。これらがあまり一般に知られていない企業独自の仕組み、取り組みであれば、この資料で詳細に説明するのは分かりますが、これは一般的な話なので、わざわざ同社の有価証券報告書に事細かく書く必要があるのか、もっと簡単な表現で済ませられるのではないか、という気がします。

総じて同社の「事業の内容について」は他項目との情報の重複や、不要な内容が多々見られます。この内容からして、経営陣は「誰に見てほしいか」と「何を伝えたいのか」がハッキリしていないのではないか、或いはルール通りにやっているだけで、そもそも伝えようとする意識がないのではないか、と推測されます。

それは経営陣のステークホルダー軽視の姿勢があるか、そもそも事業についての考えが整理できていないという推測に繋がり、体質としてかなりのマイナスポイントです。

 

セグメント別

セグメント別を見てみます。

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前臨床事業:89.9%(利益率21.9%)

臨床事業:3.1%(利益率15.0%)

トランスレーショナルリサーチ事業:0.0%(利益率▲418.8%)

メディポリス事業:6.6%(利益率0.3%)

その他:0.4%(利益率▲147.2%)

新日本科学はほぼ前臨床事業で稼いでおり、利益率もそれなりの水準です。トランスレーショナルリサーチ事業やその他事業は相当赤字ですが、本業の前臨床事業で稼いだお金を先行投資しているという位置づけでしょうか。

先行投資をすることは重要ですが、これだけ赤字を出しているのを見ると、本当に採算が取れる投資をしているのか、将来的に回収できるのかを考えているのかが少々気がかりです。その辺りは文章の中から経営陣の考え方を探っていきたいです。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は▲35.7%⇒▲12.2%⇒▲4.9%⇒10.3%⇒21.4% 

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2018年3月期まで赤字だったのが、2019年3月期からは黒字、そして2020年3月からはかなりの利益率になっています。売上高が2017年3月期は急激に増え、それ以降段々と減っていっているにも関わらず利益率は改善されてきています。

一つ考えられるのは、大幅なリストラです。

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従業員数が5年間で60%まで減っています。

ただ、ここで注意したいのは、リストラ=従業員の解雇ではありません。この従業員数は連結グループでの人数なので、例えば子会社の株を売却して連結の対象から外れた場合、その子会社の業績や従業員数はここから除かれます。一般的にはリストラというと、人員解雇を連想するでしょうが、連結概況での人員変化は、事業自体のリストラという可能性もあります。

昨年大幅に人数が減っているため、昨年の有価証券報告書を見てみると説明がありました。

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子会社であった新日本科学SMOという会社とSNBLU.S.A.Ltdの研究施設の前臨床事業を譲渡したそうです。これが事業のリストラになります。

譲渡先は以下のようです。

新日本科学SMO⇒エムスリー株式会社

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SNBLU.S.A.Ltdの研究施設⇒ALTASCIENCES US INTERMEDIATE, LLC,

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その組織にある資産負債と一緒に人員も引き取られた形になります。

結果的に利益率が向上している所と見ると、短期的に見れば新日本科学にとっては不採算の部分をうまく切り離すことができているように見えます。

ただ、リストラという手法は人間にとっての外科手術のようなもので、病巣を取り除けば劇的に体調は回復するかもしれませんが、病巣を生んだ体質が変わらなければ、そのひずみはまた別の個所に出てくる可能性があります。その点、慎重に体質を見ていく必要があると思います。

 

また、経常利益率はV字回復しているものの、直近で包括利益が大きく赤字になっているのも気になります。貸借対照表で詳しく見ますが、早くもリストラという名の外科手術の副作用が出た可能性もあります・・・。

 

 

 

経営方針

基準となるのは営業利益、経常利益の増大という絶対値評価です。

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効率の観点が皆無ですし、具体性がありません。良い指標とは言えないと思います。マネジメントが会計数値に対して注意を払っていないものと推測されます。こういう視点で事業を見ているだけでは、どの事業が体質として悪化しているのかが見えません。また事業体質が悪化して外科手術に頼ることも考えられます。

 

 

 

キャッシュフロー

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5年前はかなり悲惨な状態ですね。営業キャッシュフローすら相当の赤字で良く持ちこたえたものだな、と。逆に凄いと思います。。ここ3年はきちんと営業キャッシュフローを黒字にすることができていますから、この流れを堅持できれば存続し続ける事は可能でしょうし、いずれは借金を完済できるかもしれません。

ただ、問題はこれをどこまで意図的にやっているのかです。明確な目標や意思を持って会社の成長を目指し、相応の能力のある経営者であれば、短期的には苦しくともいずれは報われる可能性もあります。しかし、単なる経営者の一時的な気まぐれや偶然である可能性もあります。今のところはあまり体質の良さそうな要素はないため、その可能性も捨てきれません。 

 

 

 

B/S(貸借対照表

先ずは資産の確認です。

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ザッと見て怖い貸借対照表だな、という印象です。

現預金が52.5億円で資産全体からすると13.5%と、それほど多くはありません。

リスク性質別に勝手に分類すると、

売上債権+長期貸付金(貸倒引当金込み):30.6億円

有形・無形固定資産:138.9億円

投資有価証券120.0億円

ざっとみただけで、減損や貸倒といったリスクを負ったリスク資産がしめて289.5億円(資産の74%)あることになります。

 

先に一通り見てしまいましょう。負債と純資産の状況です。

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有利子負債の合計額は142.2億円で36.4%を占めます。結構な割合です。

対する純資産は総額で163.8億円です。決して薄いわけではないのですが、リスク性資産総額289.5億円との対比で考えると決して楽観できる水準ではないと思います。

リスク性資産は事業環境が悪化すると一気に減価して莫大な損失として純資産を削るリスクがあります。体質が安全な企業と呼ぶには、最低限リスク資産と純資産額がイコールくらいになる水準であって欲しいところです。

 

業績の推移のところで気になっていた包括利益の赤字の理由ですが、その他有価証券評価差額金が140億円もマイナスになっている事が原因のようです。

その他有価証券評価差額金というのは、その他有価証券の評価額を反映する勘定科目です。その他有価証券はそもそも短期利益を目的として売買するものではないので、直近の値動きを損益計算書に反映させないのですが、その代わりに純資産にその評価額の増減を入れることになってます。その数値がその他有価証券評価差額金です。今年60.9億円プラスになっていますが、昨年は205.2億円だったのが60.9億円になっているわけですから、差損は140億円・・・恐ろしい話です。

資産の欄で確認してみます。

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その他有価証券276.2億円が、今年は120億円まで減ってます。 中には売却して損失確定した分もあるのでしょうが、変動が大きい。。

内訳を見ようと思ったんですが。

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上場企業の株式っぽいです。

多分コロナショックで下落したんでしょうが。。どこの会社を買ってたのでしょうか。。 どっかに書いてあるのかもしれませんが、見つかりませんでした。。分かり次第追記はします。

何にせよ同社の保有する投資有価証券が満期保有目的債券などの低リスクなものではなく、かなりリスクの高い株式運用をしている事が分かります。これは同社のリスク性資産の危険性を示唆しています。

 

 

 

連結損益計算書(P/L)

利益の質もちょっと注意が必要です。

私は普段、冒頭の事業推移でほとんど経常利益率で業績を見ていますが、それは基本的にほとんどの会社は営業外取引が少なく、ほとんど経常利益=営業利益であり、どちらも本業の力を示すものだから、という前提があります。

しかし、同社のP/Lを見てみると・・・

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昨年は経常利益が営業利益の194.5%、今年は140.0%と、経常利益>営業利益になっています。これは投資利益や為替差益といった、本業以外の利益によるものです。

営業外損益は本業と違い、コントロール可能なものが少なく、常にプラスになるとは限りません。特に為替差損益などは、先行きの予想は不可能といえます。なので、営業外損益については企業の能力としてカウントすべきではありません。

その分を除いた営業利益率で見てみると、昨年は5.3%、今年は15.3%と、少し物足りない数値になってきます。

 

 

 

まとめ

この分析シリーズは基本的にROE:10%以上、営業利益率:15%以上、上場年数:5年以上という条件で抽出された会社を分析していますが、新日本科学の場合、少し前までかなりの赤字を計上していた珍しい例になりました。

勿論、昔がどうであれ、今の数値が良くなっているのであれば体質が変化している可能性があり、これから非常に伸びる可能性もあるでしょうが、私が分析した限りでは、あまり体質の良くなっている印象は受けませんでした。

有価証券報告書の説明は無駄が多いような気がしますし、財務体質も健全とは程遠い水準です。利益率もよくよく見ると十分な水準とは言えません。投資損益が大きくぶれている事からも、安定的な運用ができているようには見えません。

キャッシュフローに関してはフリーキャッシュフローが3期連続で黒字となっているので、経営陣がこれを意図的に継続し、他の部分も順次改善していけば、優良企業に返り咲く可能性もあるでしょうが、今の段階では何とも言えない、といった感じです。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

企業分析リンク

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