goo

「僕たちの疾走」

  

 僕が一番青年コミックを読んだのが20歳代の十年間で、双葉社の青年コミック誌「週刊漫画アクション」を初めて読んだのが多分、1976年の秋頃なんじゃないかと思う、77年頃から僕はほとんど毎週、「週刊漫画アクション」を購読するようになりました。多分、「週刊漫画アクション」の愛読は85年まで続く。86年頃までまだ読んでたかも知れない。

 僕が「週刊漫画アクション」を読んでいた十年間が、漫画アクションの黄金時代だったんじゃないかな、と思う。僕が漫画アクションを読み始めた76年77年頃はまだモンキーパンチ氏の「ルパン三世」が連載されてましたね。小島剛夕氏の「子連れ狼」や芳谷圭児氏の「高校生無頼控」はもう早くに終了していて、まだどおくまん氏の「嗚呼·花の応援団」やバロン吉元氏の「柔狭伝シリーズ」が連載されており、長谷川法世氏の「博多っ子純情」は絶賛連載中でした。

 この当時の漫画アクションだと、上村一夫氏の「60センチの女」や小島剛夕氏の時代劇「春が来た」など人気の高い漫画だった。78年になると梶原一騎氏と影丸譲也氏コンビの「武夫原頭に草萌えて」や小島剛夕氏の傑作時代劇「ケイの凄春」が連載される。この時代のアクションにはよく大友克洋氏の短編作品が掲載されてましたね。

 「武夫原頭に草萌えて」の連載が1978年なら、ひょっとしたら僕が「週刊漫画アクション」を毎週購読し始めたのは78年からかも知れませんね。このあたりの記憶はあやふやで。隔週刊(月二回刊)の「ビッグコミック·オリジナル」は76年頃から毎号購読していたと思うんだけど。この時代の僕は青年コミックはコミックス単行本もいっぱいしょっちゅう買って来て読んでましたからね。愛読漫画の記憶がゴチャゴチャしてる。

 この時代の漫画アクションで忘れてはならないのがはるき悦己氏の「じゃりん子チエ」ですね。そして79年頃から高橋三千綱氏原作でかざま鋭二氏作画の「我ら九人の甲子園」が始まる。

 そんな中、アクション誌上に1981年から長期連載されたのが、山本おさむ氏の爽やか味多めの青春漫画「僕たちの疾走」。

 「僕たちの疾走」は双葉社の青年コミック誌「週刊漫画アクション」に1981年から85年まで5年近くも大長編連載された、ハイティーン世代の青春コミックです。主人公やそのガールフレンドや仲間たち、主な登場人物が高校生で学校舞台の場面も多いから、ミドルティーンやハイティーンの青春漫画ですね。主人公の高校生少年を通してさまざまな若者たちの日常を描いているから、青春群像劇と言っても良い。

 ユーモアでくるんでコミカルに学園生活や友達仲間との触れ合いを描きながらも、時には深刻に青春時の悩みや、刹那の暴走、それぞれの若者の生活環境が抱える問題なども描いて行く。思春期の男の子の性への強い関心などを含みつつ、ガールフレンドとの付き合いや恋愛模様も描き、等身大の十代後半の若者たちの生活を、コミカルにときにリアルに描いた青春群像。

 高校生の主人公少年がアルバイトなどで現実社会と関わり、怒りや戸惑いを覚えるシーンなんかも多く描かれてますね。明朗な学園生活を描いただけの青春コミックではない。

 主人公の高校生の少年の名は「下山くん」で、下山くんの仲が良くていつも一緒に居るガールフレンドが風間妙子。下山くんのクラスメートで学校でいつもツルんでいる仲間の男子二人が、田代輝喜と圭介。

 

 主人公少年はみんなからいつも「下山くん」や「下山」と呼ばれているけど、なかなか下の名前が出て来ないんだよね。他の仲の良い同級生は風間妙子や田代輝喜はフルネームで出ているのに。「下山くん」と校外で絡む、ガリ勉秀才女子で、両親揃っているけど家庭に問題のありそうなクラスメートの女の子も小島和子とフルネームで出て来るし。

 下山くんと小島和子が校外で絡むって別に性的なコトじゃなくて、小島さんの憂さ晴らしに下山くんが付き合うってだけのコト。下山くんのダチの圭介も、ふだん「圭介」か「圭介君」だけど、上の名前も出て来てたように思う。

 主人公の高校生少年·下山くんはガールフレンドの風間妙子と居るとき、しょっちゅう妙子を性的な目線で見ていて、いつも先ずキスしてそこから、ガールフレンドから次のステップに進んで早く恋人関係になりたい、って願ってるし、小島和子と一緒のときもオッパイの大きさを想像していたりする。

 まぁ、だいたい現実にも男の子は、思春期に入って中二くらいから高校生いっぱいくらいまでは、もう頭の中は女の子や女性と性的な興味·関心でいっぱい、というふうになってますからね。勿論、男性はその後も20代いっぱいや30代に入っても、性的興味·関心や性欲そのものも強い訳ですが。

 まぁ、とにかく男の子の十代後半はいつもいつも女の子や女性のことばっかり考えてますからね。まぁ、物語では主人公少年のそういう面も描いている。勿論、普通の男の子だから事件なんか犯す訳じゃないけど。理性と自身でちゃんと処理してるけど。

 それに比べると同世代のガールフレンド·風間妙子はクールですね。思春期·青春期の男の子と女の子の性的興味·関心や性欲に対しての温度差もしっかり描いている。

 考えて見ればこういう面でも受験勉強なんて男の子の方が不利ですよね。女の子の方がより勉強に没頭できる。まぁ、思春期·青春期の悩みは性欲だけじゃないでしょうけど。

 「僕たちの疾走」のメイン登場人物たちは基本不良ではないので、高校生でもヤンキー·DQN 高校ではなくて、多分都内の公立高校あたりでしょうね。特に勉強ができる優秀な学生たちでもなく、何かレベルは平均値のフツーの子、って感じの生徒たちですね。不良じゃないから基本犯罪は犯さないけど、コミカルに描いた青春期の暴走みたいのはあるかな。バイクのスピード違反とかみんなで飲酒とか。初恋的な恋愛の失敗とかね、やっぱり青春群像漫画ですね。

 僕自身はこの時代、アクションやスピリッツなどなど何冊もの青年コミック雑誌を読む中で、趣味だったのは殺し屋が出て来るような拳銃·ナイフのアクション劇画や、侵略宇宙人の出て来るSF 漫画、空手や中国拳法の達人が活躍する格闘技漫画やミステリー系の事件コミック、ギャグ漫画なら腹を抱えて笑うようなギャグ漫画、エッチなシーンもたっぷりな奇抜なストーリーの劇画など、物語の起伏が大きく娯楽性の高い漫画が好きだったので、正直なところ、等身大の高校生たちの日常を描いた青春漫画は、漫画アクションは毎週買って来てだいたい全部読んでたけど、「僕たちの疾走」はあんまり熱中しては読んでなかった。だから雑誌連載を読んだ後々コミックス単行本で再読することはなかったですね。

 同系統の学園明朗青春コミックに、77年から80年の秋田書店のプレイコミックに連載された「青春チンポジウム」があって、あっちの方がもっと娯楽漫画として徹底してたかな。「青春チンポジウム」の主人公たち三人は中学三年生で、ちゃんとストーリー漫画だけどギャグ性の強い青春コメディ漫画として描いてましたね。やはり頭の中は女の子や女性と性的な興味·関心でいっぱいで、それが元でイロイロとやらかしてしまい騒動になって笑いを誘う。

 僕は当時は漫画の趣味として娯楽性の強い漫画を好んだので、「僕たちの疾走」よりは「青春チンポジウム」の方を面白く読んだかな。小池一雄·原作-神江里美·作画の「青春チンポジウム」はプレイコミック誌上で読んだ後、コミックス単行本で全巻買って読み返してるし。ただ、ミドルティーンからハイティーンの青春物語としたらリアリティーがある「僕たちの疾走」の方が文学性が高いかな。

 十代半ば頃から後半の男の子の頭の中は、女の子や女性と性的な興味·関心ばっかりというのは、「僕たちの疾走」よりも「青春チンポジウム」の方が何倍も強く訴えてます。まぁ、タイトルからしてそういうタイトルだし。

 「僕たちの疾走」主人公の下山くんとその仲の良いガールフレンド·風間妙子さんが夏休みにお互いバイトして、下山くんが6万円、風間さんが4万円稼いで共同の通帳に10万円預金するんだけど、そのときの通帳の名義が「シモヤマヤスオ」になってるから、下山くんのフルネームは下山ヤスオなんですね。下山安夫。

 80年代というとヤンキーやツッパリといった高校生不良もの全盛時代だけど、この漫画ではヤンキーも竹の子族も絡まない、フツーの男の子·女の子の十代青春ライフで、修学旅行エピソードもあるし、下山安夫と風間妙子の一進一退の恋模様に、一喜一憂しときに激情する高二の下山安夫クン。携帯もスマホもパソコンもインターネットもラインもなく、TVゲームがやっと出初めてまだそんなに世間に行き渡ってない時代の十代の青春ライフ。

 80年代·90年代とヤンキー高校生漫画大流行の時代だけど、でも現実の高校生って大半はフツーの男の子·女の子たちで、不良高校生って実は一部ですよね。フツーの高校生ワクの男の子だけど、ファッションやカッコ着けたスタイルだけ不良高校生の真似してる、って男の子も中にはけっこう多かったのかも知れないけど。

 昔、雑誌連載で読んでたときはそんなに面白いとは思わず熱中して読むこともなかったけど、今、電子書籍で読み返したらけっこう面白くて漫画読書が進む。今から三十数年前~四十年近くも以前のフツーのミドルティーンからハイティーンの若者の青春ライフを知るのもイイですね。

 山本おさむ先生は1954年のみずがめ座だから学年は53年生まれの人たちか。すると高校生時代は60年代末から70年代初め頃ですね。「僕たちの疾走」には山本おさむさんの十代後半の青春時代も投影されてるだろうから、80年代というよりも70年代頃の時代背景への思いも入っているのかも。

  

◆ぼくたちの疾走 : 1 (アクションコミックス) Kindle版 山本おさむ (著) 形式: Kindle版

◆ぼくたちの疾走 : 2 (アクションコミックス) Kindle版 山本おさむ (著) 形式: Kindle版

◆ぼくたちの疾走 1~最新巻 [マーケットプレイス コミックセット] コミック 山本 おさむ (著)

◆遥かなる甲子園全10巻 完結セット (アクションコミックス) コミック – 山本 おさむ (著)

◆赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD (1) (ビッグコミックス) (日本語) コミック – 山本 おさむ (著)

◆今日もいい天気 原発訴訟編 コタと父ちゃん編 (アクションコミックス) (日本語) コミック – 山本 おさむ (著)

◆わが指のオーケストラ 文庫版 コミック 全3巻完結セット (秋田文庫) 文庫 – 山本おさむ

◆どんぐりの家 全3巻 完結セット [コミックセット] コミック 山本 おさむ (著)

◆聖-天才・羽生が恐れた男- 全9巻完結(ビッグコミックス) [マーケットプレイス コミックセット] コミック 山本おさむ (著)

◆聖(さとし)-天才・羽生が恐れた男-(1) (ビッグコミックス) Kindle版 
山本おさむ (著) 形式: Kindle版

◆津軽 (ビッグコミックススペシャル) Kindle版 山本おさむ (著), 太宰治 (著) 形式: Kindle版

◆今日もいい天気 田舎暮らし編 (アクションコミックス) Kindle版 山本おさむ (著) 形式: Kindle版

◆ぼくたちの疾走 : 3 (アクションコミックス) Kindle版 山本おさむ (著) 形式: Kindle版

 今になって電子書籍で「僕たちの疾走」読むと、面白く読むんだけど、80年代の雑誌連載当時は僕は「僕たちの疾走」をそんなに熱心には読んでなかった。だからしばらく経って「僕たちの疾走」の内容は漠然としか覚えてなかった。山本おさむさんという作者の名前と絵柄と高校生たちが主人公の、まぁ学園青春漫画だったみたいな感じだけの記憶かな。

 僕はコミックス単行本では読み返したことないけど、「僕たちの疾走」は週刊漫画アクションに5年近くも連載が続いてアクションコミックスで全15巻発行された人気漫画だった。実は実写でテレビドラマにもなっていた。僕は当時ほとんどテレビを見ない生活をしてたので、長らく「僕たちの疾走」のテレビドラマ版は知らなかった。

 「僕たちの疾走」のテレビドラマ版は1984年にTBS 系列で全16回で放送されてるんですね。主人公の下山安夫を宮川一朗太、風間妙子を大沢逸美が演じている。ドラマにはアクションコミックス1~2巻で描かれたエピソードも入ってるみたいですね。勿論、僕はドラマは見たことありませんが。

 僕は漫画アクションは85年か86年で購読をやめちゃったし、その後も92年か93年頃まではビッグオリジナルとビッグスピリッツは毎号購読してたけど、90年代はそれ以降は漫画はコミックス単行本を買って読むようになった。僕は90年代以降はあんまりというかほとんど漫画雑誌を買って読まなくなった。

 だから僕は山本おさむ先生の作品を「僕たちの疾走」以降、というか以外読んだことがないんですね。山本おさむ先生の作品を「僕たちの疾走」以外知らない。80年代当時の僕の漫画読書の趣味趣向と「僕たちの疾走」のような作風はあんまり合わなかったんで、「僕たちの疾走」以後の山本おさむさんの作品をフォローすることがなかった。漫画雑誌も92、3年頃まで小学舘のスピリッツとオリジナルしか読まなかったし。80年代後半以降の山本おさむ先生の作品を全然知らなかった。

 山本おさむ先生は「僕たちの疾走」以降も今日までたくさんの作品を描いて来ていらっしゃる。僕は85年·86年くらいまでしか漫画アクションを読んで来てないから全く知らなかったけど、漫画アクション誌上に86年以降も作品を発表して来ていた。

 80年代後半の作品から、ろう障害にスポットを当てた漫画作品を描いていて、こちらの方が表現者·山本おさむさんの真骨頂という感じですね。88年から90年まで漫画アクションに連載された「遥かなる甲子園」、91年から92年に秋田書店·ヤングチャンピオンに連載された「わが指のオーケストラ」、93年から97年まで小学舘·ビッグコミックに連載された「どんぐりの家」と、「遥かなる甲子園」と「わが指のオーケストラ」は原作ノンフィクションや原案となる小説があるものの、ろう障害やろう障害を含む重複障害を抱えた社会的弱者を描いた、社会派的でヒューマンな内容の作品に力を注いで来られていますね。

 最近の山本おさむ先生の作品では、2017年からビッグコミック·オリジナルに「赤狩り The red rat in Hollywood 」という、第二次世界大戦後の冷戦時代のアメリカ社会を背景に、この時代の映画制作に苦心するハリウッド映画人たちを描いた力作があるようですね。2020年夏現在も連載中のようですが。恥ずかしながら僕は山本おさむ先生の作品は「僕たちの疾走」からこっち一作も読んで来てないので、この傑作漫画も全く知りません。

 山本おさむさんって、修行時代、あの「5年ひばり組」シンカンセ~ンの巴里夫先生のお弟子さんというかアシスタントを勤められていたんですね。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「8-エイト-... ●小説・・「じ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。