私の母はいつも役を演じている。
慈悲深く美しい母という幻想の役だ。
真実の母は幼稚で嫉妬深く恥ずかしい存在らしい。
だから母は真実を直視出来ずに否定している。


母は父の愚痴をよく言っていた。
その時の母は「子どもたちのために横暴な夫に耐える可哀想な自分」という幻想の役だ。
母が用意した私の役は「可哀想な母を励まし支える娘役」といったところだろう。
私は母の人形だった。


母にとっての真実は「夫や子どもを奴隷にして支配する女王様」なのだが、母も私もそれには気づけない。

母の父への愚痴は、
「汚い、臭い、細かく愚痴愚痴とうるさい、自己中心的で家族に優しくない、なんでこんな人と結婚したのかしら。」
こんな感じだ。
愚痴は2人きりの時しか言わないからタチが悪い。

母が愚痴を言う度に私は母に同意して
「そうだね、でも父さんにもこんないいところがあるよ。頑張っているところがあるよ。」
と言っていたと思う。
時には母と一緒になって父の悪口を言ったこともあった。
時々、母に
「あんたってお父さんそっくりね。」
と蔑まれた時は、どうして良いか分からずヘラヘラ笑っていた。


だが声を大にして母に言いたい。

そんな愚痴だらけの男と結婚したのはお前だろ!

弱者のふりをして子どもに慰めさせてんじゃねーよ!
雑魚が!!!



父の愚痴を聞かされた私たちは、母の味方になって父をいじめていた。
家族内で派閥をつくっていじめるなんて醜い。
洗脳が溶けた今、父には申し訳ない気持ちもある。



今も母と話すと母の美しい家族劇場に巻き込まれてしまいそうになる。
それに飲み込まれては、また支配されてしまうだろう。
だから母の人形劇から1抜けたーっと俯瞰して接して行こう。