TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

ライブ会場が意識すべき、出演者と来場者という2種類のお客様

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イブハウスなどのライブ会場にとっての”お客様”は、大きく2通りに分けられると思います。 

 

”お客様”な訳ですから、当然どちらかに優劣をつけることは無いですし、特に現場で対面してやりとりや接客をするスタッフであれば尚更でしょう。

 

しかしながら、店舗やビジネスを設計する上では、この2通りのお客様を意識的に想定するべきだと思っています。

 

コロナショックにより、やりがいや理想だけでは乗り越えきれないような状況でもありますので、今回は2通りのお客様に対する店舗設計について考えてみようと思います。

 

 

2通りのお客様とは

レンタル主(主催者)

ライブ会場の営業は、ホールレンタル或いは会場主催のいずれかで開催内容が決定し、その開催により収益を作っています。

 

ホールレンタルの場合は、会場使用料をレンタル主(主催者)に支払ってもらう事で収益の確保を行います。

チケットセールスに関わらず会場使用料が保証されるので、収益の計算が立ちやすいですし低いリスクでその日の営業が可能です。

 

ドリンクやロッカー(クローク)売上を除けば、会場の収益として直接お金を支払うのは来場者ではなくレンタル主になります。

収益構造だけで言えば、ホールレンタル料を支払うレンタル主がお客様という事になります。

 

チケット購入者(来場者)

対して会場が主催となり営業を行う場合になると、チケット売上が会場収益に直結する事になります。

 

レンタルのように1日の売上は保証が取れませんので、チケットセールスが悪ければ赤字になります。

逆に、チケット売上を会場側で管理できる為、チケットセールスが良ければホールレンタル以上の売上を作れる場合もあります。

 

会場主催の場合は、その日の売上は完全にその日の来場者から立てる形になりますので、チケット購入者(来場者)がお客様という形になります。

 

出演者(アーティスト)については?

今回の話の内容に照らし合わせると、出演者(アーティスト)はケースによりそのどちらにもなります。

 

アーティストのツアーや自主企画などであればアーティストがレンタル主になりますし、会場主催であればその日の公演内容(コンテンツ)は当然アーティストがいてはじめて成立しますのでチケットセールスに不可欠なパートナーとなります。

 

後者の場合、会場側が出演料として金銭を支払うのでビジネス構造上は会場側がクライアントにはなりますが、出演者が会場にお金を支払うケースもあります。

 

以下の過去記事で触れたので細かい内容はここでは触れませんが、ノルマを出演者に課して出演をしてもらう場合です。

主催者としてレンタル主になる事もあれば、出演者として関わる事もありますし、来場者として遊びに来てくれる事もあります。

 

しかし、そもそもライブ会場は出演者がいてはじめて成立する商売なので、出演いただきやすい(使いやすい)環境の充実をはかるべき相手という意味では、レンタル主側として捉える場合が多いでしょう。

 

"お客様"の設定に応じて変えるべき店作り

"どちらにも"ではなく、"どちらか"に決めるべきお客様設定

ホールレンタルもガンガン取れて、来場者も快適で過ごしやすい会場にできれば最高です。

 

その双方を目指す事は悪い事ではないと思いますが、ビジネス設計としてはどちらかに絞るべきだと私は考えています。

 

ホールレンタルで大半のスケジュールが埋まっている会場のほとんどは、主催者や出演者目線で造りもサービスも設計されていると感じています。

 

レンタル主は何十万何百万という費用を支払う(何十何百万の買い物をする)訳ですから、その金額に見合う会場であり続ける事に自覚的なはずです。

 

決して、

「同じようなキャパだとだいたいこのくらいのホールレンタル料だから、それに合わせて同じくらいでいいかな。」

のような料金設定ではレンタルは増えません。

 

営業方針としてレンタルを主体にするのか、会場主催をメインに回していきたいのかを明確に設定する事で、提供すべきサービス内容もはっきり見えてくるはずです。

 

会場不足が続いている大規模会場なら"キャパ"だけでもまだ借り手が付くと思いますが、供給過多な状況が続く小規模会場の場合は特に「どちらでも。」ではどちらも取れない結果になるように感じてしまっています。

 

レンタル主に向けた店作り

ホールレンタル費の設定は、365日ある1年間の営業に会場としての必要な売上を逆算し、1日あたりのレンタル料金を提示するため、設定した料金で全ての日程を埋めることができるのであれば赤字になる事はありません。

 

仮に設定した1日あたりのホールレンタル料金が30万円だとすると、設備や内装、立地、応対といった”トータルのサービスを毎日30万円で販売する商売”と言い換える事ができると思います。

 

商売として考えるのであれば、このホールレンタルで会場スケジュールを埋めれるほどに収益面では安定した営業が継続できますし、特に経営者からすると極力ホールレンタル需要の高い会場を作りたいと考えると思います。

 

当然その為には、「またこの会場を利用したい。」と思ってもらえる店舗を設計すべきです。

 

音響設備の充実、キャパシティ、搬入出のしやすさ、楽屋の広さや快適性、立地、場内導線、ステージの広さ、告知力、スタッフの応対等々、これらを総合した物がホールレンタル料という名の商品となります。

 

その商品価値のいくつかについては、店舗をオープンした時点で確定してしまいます。

 

立地は動かしようがありませんし、導線やステージ/楽屋サイズなども後から修正するのは難しい要素です。

なので本来は開業前にこの”どちらか”を明確にしておくに越したことは無いと考えています。

 

ホールレンタルでスケジュールを埋める為には、”ホールレンタルという商品価値”が料金に見合ってはじめて実現できる事です。

需要のある良い商品を販売するという事ですね。

 

会場としては、最低でも家賃や人件費といった固定費は確保する必要があり、そこから逆算して日々の売上目標を設定する訳なので、物件や場内レイアウト、設備を決定して営業が走り出してしまうと、ホールレンタル料は動かしにくくなってしまいます。

 

ここに無自覚で店舗やビジネスを設計した会場から、

「この立地でこのキャパなので、ホールレンタル料は30万円です。」

と言われても、消費者(レンタル主)が相応の商品価値を感じなければ商品(ホールレンタル)はなかなか売れなくなってしまいます。

 

嫌な喩え話になってしまいますが、

「固定費や材料費から考えるとこのラーメンは1000円して当然なんですよ。」

と言われても、1000円の価値がないラーメンと判断されてしまえば消費者は購入してくれません。

いくら良いプロモーションをしたり素敵な内装や食器を使ったとしてもです。

 

ライブ会場の方がご覧になったらイラっとさせてしまう内容かもしれませんが、後から修正できる事もいくつかあると思いますし、潰れて欲しくないという気持ちからも、会場/レンタル主というどちらの側の経験もある立場から「商品と価格のバランスに意識的な運営を是非。」という願いを込めて、あえて忖度なく書いております。

 

来場者に向けた店作り

経営的には確実にホールレンタルメインで営業をできる方が、リスクも少なく安定した運営ができるとは思います。

 

先に書いた通り、チケット売上を直接管理できる会場主催の場合であれば、時にレンタル以上の売上を立てられることもあります。

ありますが、逆に日割りした売上目標に達しないいわゆる赤字の日が生まれるリスクも高いので、平均して考えれば収益化の難しい経営方針だとは思います。

 

しかし、特に小規模店舗の多くは単に”商売目的”のみではライブ会場を経営していない面があります。

 

ホールレンタルでスケジュールが埋まる方が経営的に楽なのは分かっているけど、埋まればなんだって良いというものでは無いのです。

 

例えば、数年前に起こったアイドルブームの際、「うちはアイドルはやらない。」という姿勢を見せる会場が多く見受けられました。

 

2回し公演(1日に2回お客さんを入れ替える公演)も行いやすく、動員も良いアイドル公演は、経営的には魅力的なコンテンツだったはずですし、借りたい出たいと言われてもお断りする事は商売より理念を優先した結果です。

 

レンタル主のコンテンツ内容を選んで貸す訳ですから、レンタル率はどうしても下がります。

一昔前ならまだ状況も違いましたが、会場がやりたいアーティストやコンテンツだけを選んで365日レンタルで簡単に埋まるような時代ではありません。

 

となれば、会場主催で日々の公演を作っていく事になります。

 

会場主催の場合、来場者が直接のお客様になりますので、来場者にとって魅力的な会場である事に注力すべきです。

 

ライブとラウンジスペースのセパレートなどの居心地、受付/ドリンクスタッフの接客、物販スペースの並びやすさ、トイレ等の衛生面、ドリンクやフードのクオリティ等々、来場者目線で満足度を高めるポイントもいくつかあると思います。

 

もちろん、日々の営業コンテンツに統一感があるというのもそれを望む来場者にとっては大きな魅力でしょう。

 

そしてこれらの多くは、レンタル主にとっては直接的なメリットではありませんので両立は難しく、やはり運営にあたっては誰に向けたサービスなのかというコンセプトは明確にしておく必要性を感じます。

 

まとめ

音楽ライブに関わる、あるいは関心のある方であればほとんどの方が察しているであろう、これから起こりうるライブ会場の淘汰。

 

私もかなりの確率で特に小規模会場は激減すると感じています。(コロナが無かったとしても)

同時に、激減を避けたいという気持ちも強く持っています。

 

今回書いてきた内容は、おそらくライブ会場に関わる仕事をしている人にとっては、気分良く読み進められる内容ではないと思っています。

 

しかし、わざわざ書いたのはそう思われたとしても、言語化して投げかける事で潰れる店が1つでも減る為の思考のきっかけになる可能性を感じたからです。

 

また、起こりうる淘汰は経営母体などの資金体力面を除けば、特色の無い店舗から進んでいくように予想しています。

 

例えば相当な数が行われたライブ会場によるクラウドファンディングでは、かなりシビアな金額の差が見て取れました。

 

小さな会場が数千万円集め、数千人収容できるような会場を上回っていたりもしました。

 

ただ漠然とした大きな貸し小屋よりも、小規模でもストイックにカラーを貫いているお店であったり、レンタル主やアーティストに愛されるお店、来場者に愛されるお店といった特色や強みを持った店舗が大きな支援を受けています。

 

多くの会場は人手が十分ではなく、営業が走ってしまっていると日々の業務で忙殺されている事を知っているだけに、立ち止まって「誰を顧客としてこの店は営業しているのだろう」と考えるきっかけになれば本望です。

  

ではまた◎

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