(其の十六)
長い沈黙だったと思います。
師は黙って私の理解が心身に浸透していくのを見つめておられました。
「本当にその通りですね。私たちの存在が「空」だと、
より深く理解するために、補足的に、これでもか、これでもかと、
説明されていることがよく分かりました」
私の言葉を聞いて師はにっこりとほほえまれました。
師はくりかえされます。
「存在するものには、五つの構成要素があること。
その五つとは、
「色」「受」「想」「行」「識」のこと。
そして、それらは、それぞれの持っている固有のはたらきをしながら、
集合し形成されているのが、
人間をはじめとしてすべての「存在」であること。
そして、
それらは、実体のない、集合体に過ぎないということ。
そして、
補足的な説明として、
実体がないから、
物質的現象から、眼、耳、鼻、舌、身体、心、かたち、
声、香、味、触れられる対象、心の対象、
すなわち、
眼の領域から意識の領域にいたるまで
ことごとくないのだと言っています。
観世音菩薩は、すばらしい説明をしていますね」
私は黙ってうなずきました。
次回更新は9月14日(月)です。