仏陀誕生の物語

(其の四)

 

俺は6ケ月の間この父娘にお世話になった。

 

父の名前は、ハリッシュ、娘の名前は、バークティと言った。

 

ハリッシュは若くして商売の才覚があり、

交易で一生食べていくのに十分な富を得たのを機に、

貿易商を弟に譲り、ここ我眉山の麓に生活の拠点を移し

隠遁生活に入り、悠々自適の生活を送っていることを知る。

 

娘のバークティは、洗練された話し言葉から高い教養を感じさせる女性だった。

そして料理が素晴らしく上手だった。

 

各部屋には多くの宗教書や哲学書が置かれていた。

どの本も自由に読んでよいと言われていたので、

俺はゆっくりとそれらの本を熟読した。

 

朝、昼、夕と娘のバークティは栄養のある食事を提供してくれた。

そのおかげで、俺の体力は国を密かに出た時まで完全に戻った。

 

「お二人のお陰で私の体力と思考力は十分に元に戻りました。

なんとお礼をいえばいいのか、言葉が見つかりません。

本当にありがとうございました」

 

「では、また、修行に戻られるのですな」

 

「はい、修行に戻ります。しかし、もう前のように苦行はいたしません。

お部屋にある多くの宗教書と哲学書を熟読させて頂き、新たな発見がありました。

これからは、栄養ある食事をしっかりと摂り、疲れたらゆっくりと眠ることで

体力と思考のバランスを保つことにします」

 

「それが一番じゃ。よく気がつかれましたな。人は体と心のバランスがあって

はじめて眼には見えないものとの会話ができるのじゃ。わしはこの世の中は

すべて眼にはみえない法則で成り立っていると確信している。

わしが若くして交易で多額の富を得ることができたのも、その法則に従ったまでじゃ。

あなたもきっと素晴らしい法則を発見されることじゃろう。

これからどちらへ行きなさる」

 

「まだ、決めてはおりません」

 

「では、一つ思索するに最適なとこを教えてしんぜよう。

ここからしばらく行くと大きな木がある。菩提樹と言うのじゃ。

その菩提樹の下でゆっくりと思索をすればいい。

きっといい法則を発見されることじゃろう」

 

「わかりました。ありがとうございます。では、菩提樹へ行くことにいたします」

 

「それがよろしい。いつもで立ち寄りなさい。食事と寝床はありますからな」

「ありがとうございます」

俺はお世話になった父娘に挨拶をすると、

菩提樹の木の向かってゆっくりと歩みを進めた。

 

 

次回更新は11月23日(月)です。

 

 

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