『みんな豊かになったから、答えばかり急いでいる気がします。
何だって、やってみないとわからないんですよ。
会ってみないとわからないし、行ってみないとわからない。
やる前から答えを出しすぎです。』
ーー今村ねずみ
「おしゃれなジャケットですね」
しほにはバーで声をかけられた
初対面で手を握られ、積極的に来ているのがもろわかりだった
すぐに距離感に違和感を感じて、この人も何かあるんだなぁとわかった
気がつけば話をずっと聞くターンが続いていた
福祉の勉強会にたくさん参加していること、
最近身内に不幸があって落ち込んでいること、
ついこの前までネットで大恋愛をしていたこと
その恋愛相手に近づきすぎて拒絶されたこと
**
発達当事者が集まるバーだったから話は発達の話に
質問されて自分はASDだということを開示した
「私もそれがあるみたい、でも周りにはぜんぜんそんなふうに見えないって言われる」
彼女の恋愛話から自分の恋愛観の話に移行した
自分の対人関係能力と経済力から結婚はあきらめている
だけど年齢がアラサーだから出会う人は結婚を視野にいれている
だからアプローチできない
今収入がないし、デート代をだすのもきつい
恋愛しているときはLINEが相当の負担だったからLINEのやりとりを求めない子
じゃないと続かないだろう
前は女性に好かれるために無理をしてた
次は自然体の自分でできる恋愛がしたい
話が一区切りついた
「斎藤さんは次はいつ来るの?」
「俺はほとんどここには来ないんだよ」
「えー、じゃあ次はいつ会えるの?」
面倒くさい想いと交換したらどうなるだろうかという好奇心
LINEを交換した
そして次の予定があったために店を出た
**
予定を終えるとしほから数件のLINE
「予定は終わりましたか?」
「もう帰っちゃいました?」
「今日会えませんか?」
「勉強会だけど、発展途上国のおけるメンタルヘルスってお題目で
行く気がしないんです」
想定していたことが起きた
断りの連絡を入れる
次の週末の朝目覚めるとLINEが届いていた
「おはようございます
今日会えませんか?
突然斎藤くんに会いたくなってしまいました」
再び断りの連絡を入れる
このあたりで俺は悩みだした
恋愛関係になるのは簡単だ
だがおそらくトラブルが起こるだろう
今は彼女をつくる余裕はない
日常を大切にすることが最重要だ
こうした考えから断った
けれど人とのつながりを求める相反する気持ちもある
この人と関係をもつと色々大変そうだ
だけどやってみないとわからない
試してみよう
試してだめなら離れればいい
そう思って
次の連休に誘ってみた
**
誘った後知ったのだが、しほは既婚者だった
旦那のDVとモラハラがあるということだったが実際のところはわからない
旦那とはレスらしく結婚した後も数回しか行為がなかったと伝え聞いた
子宮内膜症のために子宮がなく子供もいないそうだ
しほの夫が言うには「俺に期待しないでくれ、そういうことは外でやってくれ」
とのこと
**
会わないほうがいいのではないか
俺は友達は求めていない
迷った末に出した答え
それは
やってみなはれ
とりあえず試してみよう
**
当日は快晴で散歩日和だった
車で迎えに行き、海まで走らせた
浜辺を散歩しながら話す
「大切な人には見せるようにしてるんだー」
WAISの結果を見せられる
そして...
「私の病気は罹患したら5人に1人は自殺するって言われてる」
「当事者会もない、そんなのあったら大変なことになる」
ふわっと病気のことを話始める
俺は何の病気か問いかけた
境界性人格障害という病気だった
俺はその病気の名前を知っていた
先入観もあった
そしてその先入観としほの言動は一致していた
だから引いてはいなかった
やっぱりなという感覚
**
「どれくらい彼女いないの?」
また恋愛話になった
波打ち際まで歩きながら
話は続く
ベンチに腰掛けようと引き返したとき
腕を捕まえられた
「今日、しちゃう?」
俺は誘惑された
え、と思考が止まる
前なら即座にいただきまーす、だっただろう
ゆっくりベンチまで歩きながら
女性から誘ってそこで行かないのはありえないことではないか
いろいろと心を病んでいる人だし、負担になるのでないか
俺の実力では彼女を受け止めきれないだろう
演算は続く
デート代を全額出せない開示も
LINEで毎日連絡をとるのがペースを乱され嫌なことも
結婚する気もないことも
すべて言えている
ベンチについた
結局出た答えは「やってみなはれ」
「じゃあ、ちょっとスマホでホテルを調べてみるよ」
彼女は嬉しそうだった
**
(中編に続く)
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