パパね、中身が女の人らしい💁🏻‍♀️

性同一性障害MtF
恋愛対象は女性
強烈な男性拒絶でさらに複雑

女性の容姿で病院へ行く

2020年05月28日 | 男から女性へ💁🏻‍♀️
女性の容姿で診察を受ける気持ちは固まった。
友達に手伝ってもらい、洋服を選び、下着を選び、髪型は行きつけのヘアサロンに相談をした。

上はゆったりした白のカットソーに、トップスをアプリコットのカーディガン。下はスカートにしたいと思いながらも、まだその勇気がなかった。友達はスカーチョだったらそれっぽく見えると言って、黒のスカーチョを選んでくれた。靴は黒のローファーにした。いろいろ見て回ったが、合うサイズが見つからず、選択肢はほとんどなかった。

友達とホテルでヌードサイズを測った翌日、彼女が休みだったので、朝から待ち合わせをした。早速、下着売り場へ行ってブラとショーツのセットを二つ買った。
化粧品売り場へ移動し、肌の色に合わせてプランを考え、化粧水、化粧ベース、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウ、アイブロウ、アイライン、口紅、リップグロス、一通り揃えた。
そのまま同じホテルへ行き、部屋で着替えとお化粧をしてもらった。ファンデーションを塗ったところで自分の滑稽な様が可笑しくなったが、何度かパターンを変えてメイクしていくうちに慣れた。

鏡に映った自分の姿は、ここまでやっても中性的な人という印象だ。これでも私としては頑張ったつもりなのだが、今はこれが限界なんだと痛感した。

「最初は違和感あると思うけど、自分でするようになれば慣れてくるし、コツとかもわかってくるからね。最初はみんなそうなのよ。お化粧って女にとっては毎日のことだから、いろいろ試して自分なりの形みたいなのができてくるの。だからこれからはできるだけ毎日お化粧して練習しないとね。わかった?」

わかってはいるが、自分自身がお化粧に慣れるのかどうか自信が持てない。だがそれでは駄目だ。これから女性として生きていくのだ。こんなところで躓いていては意味がなくなってしまう。意識を高めていこう。

ホテルの部屋から出る前にお化粧を落として元の服装に戻ろうとすると、彼女が制してきた。

「今日はこのまま帰ろうよ。慣れるためにも」

戸惑ったが、彼女の言う通りだ。
思い切ってそのままの容姿でホテルから出た。駐車場で車に乗り込み、彼女を送るために家へと向かう。

「ねぇ、食材のお買い物しないといけないから付き合ってよ」
「えっ、このままの姿で行くの?」
「うん、私が一緒だから大丈夫だよ」

覚悟をつけさせるためだろうとすぐに察した。

スーパーへ着き、店内に入る。買い物籠を手に取ったが、周囲の目が気になって挙動不審になっているのが自分でもわかる。
彼女は私の手を取り、平然と売り場を連れ回していく。商品を見ながら話しかけてくるが、全く頭に入らない。私が混乱しているのも、意識過剰になっていることもわかっているが、彼女は普通に話しかけてくる。鮮魚売り場でお刺身の盛り合わせパックを覗き込んだ時、彼女が耳元で囁いた。

「みんな商品を見てるだけ。あなたのこと見たりしてないのよ。周りと同じように商品を見て、普通にしてれば誰も変に思わないよ」

手に取ったパックを買い物籠に入れる時、それとなく周りを見てみた。彼女が言う通り、私を見ている人などいない。私だけが自分の見た目を気にしているだけなのだ。

「ね、誰も見てないでしょ」
「うん、別にじろじろ見られてるとか、そういうのは無さそうだよね」
「いないよ、変な行動したりしてなきゃ目立たないし、みんな自分の買い物のことが最優先なんだから。あそこの試食のところ行ってみようよ」

目線の先を見ると、出入り業者が試食を振る舞っている。
ゆっくり歩きながら近づくと、販売の女性が私たちの方を見た。

「ねぇ、プルコギ風のお肉だって」

彼女が試食品を指差して、声をかけてくる。
すかさず販売の女性が小さなトレーにのせた試食品を取り、勧めてきた。
彼女が頬張る。目を丸くして美味しい表情をすると、

「お姉ちゃん、これ美味しいよ、食べてみなよ」

と私に試食品を差し出してきた。
“お姉ちゃん”と言われたことに驚いたが、言われるがまま手に取って食べてみた。

「お姉ちゃんのところの息子がお肉大好きなんですよ」
「あら、そうなんですね。これあんまり辛くないから食べやすいですよ、どうですかお姉さん、辛くないからお子さんでも大丈夫そうでしょ?」

販売の女性は、彼女が私のことを“お姉ちゃん”と呼んだことで女性として認識した。

「えぇ、辛くないし、あの子の好きな感じの味だからいいですね」

動揺しているのがわからないよう、一生懸命応えた。

「奥様、背が高いから、息子さんもおっきいんですか?」
「はい」

精一杯だったが、自然に微笑むことはできたと思う。
彼女は私がやり取りしているのを見ながら、別の試食品を頬張っている。
プルコギ風焼肉のパックを一つ手に取り、籠に入れる。販売の女性がにこやかに送り出してくれた。

「ちょっと、いきなり振らないでよ、びっくりしたよ」
「でも大丈夫だったでしょ?」
「わかんないけど、たぶんね」
「女だって決めて振る舞ってれば、そう見えるんだよ。気にしないんだよ」

かなり強引な方法ではあったが、確かにその通りだと思った。
もちろん、これで普通の女性に見えるようになったと言うわけではないだろう。
肝心なのは、自分が女性であると自覚することなのだ。これから女性として生きていくということは、そういうことなのだ。

そのまま店内をしばらく歩き回り、適当に買い物を済ませて車へ戻った。

「ありがとね、なんか少し踏み出せたような気がするわ」
「うんうん、そうだと思うよ。あたし時間作るから、次の診察の日まで毎日あちこち行って女性として出歩くのに慣れようよ」
「ごめんね、忙しいのに。助かるよ、ありがとう」
「ぜんぜん大丈夫だよ。そしたら明日は駅前のお店に行こうよ。洋服もこれ1セットだけじゃ無理だから、他のも探したりしないとだし」
「うん、助かる。お礼になんか洋服買ってあげるよ」
「えー、なんか安上がりにされてるー」

あっけらかんとしている彼女に救われ、二人で大笑いした。
彼女の家の前に着いた。

「ちょっと待ってて」

そう言って家に入ると、すぐに出てきた。
助手席に戻ると、

「ね、もう一度お部屋行きたい」

悪戯っぽい笑みを浮かべた横顔。
彼女の気持ちを余さず受け取ろうと、ホテルへ向かって車を走らせた。


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