あなたの絵を初めて見たのは
14年前
ある雑誌の切り抜きだった
あのときの衝撃
今でも鮮明に覚えてる
キャンバスいっぱいに描かれた
手を広げた飛行機少年
大胆な構図
圧倒的な迫力
堂々としていて
今にも飛び出しそうな勢い
しかし
どこか寂しそうな少年の表情
悲しさが漂う
おびえたようにも見える
私の胸に迫るこの感覚
一体なんだろうか
あなたの画集を買いに行った
その画集はすぐに見つかった
表紙はあの少年の絵だった
本屋で手に取ったとき少し戸惑った
こんな絵が気になるなんて
オレちょっとおかしいかな
画集を買って帰り
当時の彼女に見せたら
「なんか気持ち悪い」
それだけだ
あれから時は過ぎ
2018年の夏
静岡の美術館であなたの展覧会が開かれた
私は翌日の仕事をキャンセルし
1人で静岡に向かった
妻にも内緒で
静岡はあなたの故郷だ
とても暑かった
駅から離れた小さな美術館
平日だったこともあり
ほとんど人はいなかった
画集でしか見たことなかったあなたの絵
実物はとても大きかった
あなたが描いた本物の絵が
あの飛行機少年の絵が
私の目の前にあった
私はそれを見て
徹底的に打ちのめされたんだ
悲しさや寂しさという言葉で表現できない
感情を超えたものがそこにある
私は言葉もなく
美術館で一日中
あなたの絵から目を離すことができなかった
私が帰ろうとした時
片隅にいた見知らぬ若い女性
あなたの絵をじっと見ていた
そして口元を押さえ嗚咽しながら
ずっと涙を流していた
私も
本当は泣きたかったんだ
あなたの絵を見てると
それはもう悔しくて悔しくて
泣くのを必死で我慢しながら
ただ絵を見つめるしかなかった
帰りの新幹線で
いろんなことを考えた
なぜあなたは
あんな絵を描こうとしたのか
あなたの情熱はどこから来るのか
あの絵を描いてるとき
苦しくなかったのか
悲しくなかったのか
そして私が一番
あなたに言いたいこと
何も
死ぬことはないじゃないか
新幹線の中で私は泣いた
私のソンチョルというペンネーム
あなたの名前の一部をお借りしてる
あなたの情熱、ひたむきさ、朴訥(ぼくとつ)さ
ほんの少しでいい
私にわけてもらえたら
2019年スペインのマドリードで
あなたの展覧会が開かれた
31万人の来場者
大盛況だった
あなたはヨーロッパが夢だった
夢がかなった
あなたの絵が世界に広まり始めてる
これからもっと広まるかもしれない
喜ばしい事なんだろうけど
私はなんとなく寂しい
あなたの絵が世に広まれば広まるほど
あなたがいないのが
私はとても悔しい
もしあなたが生きていたら
もっとたくさんの素晴らしい絵を
私は見ることができたのに
石田徹也遺作集
14年前に買ったこの画集
私の宝物だ
これからも大切にします
石田徹也さん
ありがとう
2020年5月23日
石田徹也さんの15回忌に捧ぐ
申 成徹(シン ソンチョル)
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