違法花火(規制緩和フェーズ2)
近頃、全米の主要都市で毎晩のように花火の音がする。それも日本の家の前や公園で楽しむような花火じゃなくて、どーんどーんという打ち上げ花火の音だ。日本お祭りであげるような花火よりは低く小さい規模の打ち上げ花火だけれど、しっかり打ち上がって、しっかり開くやつ。
毎年、米国独立記念日の7月4日が近づくと、近所の住宅街の道路や公園で打ち上げ花火があがる。ちなみに、私が住んでいるサンノゼ市では個人が花火をあげるのは違法だ。違法だけれど、7月4日とその前後の日は無礼講なのか、たくさんの人たちが思い思いに花火をあげる。私は、彼らが花火をどこから買ってきているのかがいつも不思議だった。
そう、確かに違法花火は毎年の恒例だけれど、今年は少し趣が違う。独立記念日の2週間以上前からあちこちで花火の音がする。それもほぼ毎晩どこかで音がするのだ。騒音による苦情の届出も通常よりもずっと多いらしい。
ちなみにニューヨークでもこの現象は起こっていて、現時点での今年の苦情の件数は例年の2000%だというのだから、いかに異常な現象であるかがわかるだろう。ニューヨークでも花火は違法だ。
ここサンノゼ郊外も、毎晩のように近くで遠くでパーン!ドーン!と夜空に響く音が聞こえてくる。夕涼みの散歩をしていると住宅地の屋根の間から夜空に散る色とりどりに煌めく炎が見える時もある。
同じような状況が、なんと全米の各主要都市で起こっているというのだから驚きだ。一体、今年は何が起きているのか?何が例年と違うのか?
もちろん答えは簡単だ。ウィルスとロックダウンである。
7月4日は米国にとって最大のお祭りの一つだ。米国が英国から独立したことを祝う重要な日である。全米で独立が祝われ、様々な大規模イベントが催され、最後には必ず花火が打ち上がる。各地で同日に大きな花火があがるイベントは、独立記念日とニューイヤーだけだ。
しかし、今年はそれらのイベントはこぞってキャンセルとなった。とにかく人が集まるイベントは感染リスクが高い。花火が上がれば必ず人が集まることを考えれば、キャンセルにするしかない。
そこで、困ってしまうのは、花火業者だ。米国の花火業者は独立記念日で一年のほぼ7割を売り上げるとも言われる。しかし、今年は公共の花火イベントは中止されるので、誰も花火を買ってくれない。決定的に経営の危機である。そこで、彼らは一般家庭向けに花火を、例年よりもずっと早く、そして大幅にディスカウントして売り出したらしい。
先ほども書いたけれど、私は今日までサンノゼの人たちがどうやって花火を手に入れるのか全く知らなかったのだが、ちょっとリサーチしてみると、どうやら花火業者は花火が違法でない田舎町に花火の屋台を建てて売っているらしい。サンノゼから1時間ぐらいの田舎町にも花火の屋台が出ている。そこまでちょろっと車を走られば誰でも花火を買ってくることはできるのだ。
それを買うことは自体は違法じゃないけれど、それをサンノゼであげるのは明らかに違法なのだが、そんなことは全く構わず毎日花火があがる。なぜ人々は、違法なのにも関わらず、まだ独立記念日でもないというのに、そんなに花火をあげたいのだろう。
長い期間閉じ込められてきたロックダウンの憂さ晴らしなのだろうか。それとも、未だにバーやレストランに出かけることもままならずに家で暮らす人々の暇つぶしなのだろうか。
実は私は花火の音が嫌いじゃない。遠くから響いてくる花火の音は、煌めく炎を見あげて歓声をあげる子供たちや大人の笑顔を連想させてくれる。そこにはどこか懐かしく、甘いノスタルジーがあって、カリフォルニアの空気で乾いた体を潤わせてくれるような効果がある。
しかし、そんな呑気なことは言ってはいられないのだ。カリフォルニアの夏は乾いている。春に緑が美しかった山々の斜面はどこも明るい茶色一色でカラカラだ。山だけではない。住宅地や公園の芝生も枯れているところがたくさんある。そこで花火の燃え残りが落下したら一気に消防車案件である。実際、花火が原因のボヤはすでに報告されている。
花火を違法にする正当な理由はあるし、皆がそれを知っている。しかし、それでも花火は毎日あがるので、私は諦めて、せめて火事になった時に持ち出すもののをひとまとめにしておこうかなと思っている次第である。