「彼が何かヘン」が「絶対ヘン」に変わった日のこと

その頃よくビデオ撮っていた。横浜の山下公園に行ったのは、今住んでいる家の契約をした、初めての自宅を2人で買った日だ。その日のビデオにはお互いを撮影し合う、とても幸せそうな私たちが映っている。

山下公園には観光客も多く、天気は曇りで、笑いながら交互にカメラに向かって話す私たちの背後で、どこかの大型客船か何かが何度も何度も大きな汽笛を鳴らしている。

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「水に毒が入っている」
その数日後だった、「彼が、なんかヘン」が、「絶対ヘン」に変わったのは。

家の契約の「決済」*のため、銀行のあるビルの入り口に着いた時すでに、定刻を少し回っていた。

銀行のあるビルの入り口で唐突に立ち止まった彼が、震えるような声で、

「電車の中で子供が僕の前にいたの気づいた?あの女の子が僕にトリックをずっとしてたんだ」と言う。

私は「トリック」の意味がよくわからがらもその語感は薄気味悪く違和感があった。

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「トリックって?」

「足をぶらぶらさせてだだろう?僕を狙った攻撃さ」

「はあ、あのくらいの年齢(8歳くらい)なら足ぶらぶらさせるくらいやるでしょ。どうして自分を狙った攻撃なの?」

決済では、不動産会社の人や司法書士、売り手の人、債権者である銀行の人も来ると聞いていた。

「みんな私たちを待ってる。遅れるから早く!」と言っても彼はいつまでも「子供が自分を狙って「トリック」(嫌がらせ)をしていた」と、とても感情的になっていて、私にはわけもわからない話を言い続ける。私は困惑した。

それになぜ、そこから動こうとしないのか?

理解不能なまま、その状況を引き起こした彼に腹立たしさだけが増した。

言い合いをするうち、約束の時間を20分ほどすぎても動こうとしない彼への怒りが沸点に達して、そんな話は今どうでもいいじゃない、後でその話をしたら、と、なんとか指定の時刻から30分ほど遅れて銀行の中へ連れて行った。

一緒に暮らすようになって約10年後位に、「なんかヘン」と言うことがあった。「水道の水に毒が入っている」とか「空気に有害な物質が含まれている」とかしつこく言い始めた。わざわざ役所に行って、自宅の水道水の検査をしてもらったりもしたけれども何も異常はないと言われた。それでもあの役所の人は異常があるのに隠しているとかいつまでも納得しなかった。

 

精神的なプレッシャーがかかると

ただ今ならもっと理解出来るように思う。彼はとても緊張していたのだ。大金を支払って生まれて初めて家を一軒買うと言う行為に対して。緊張のあまり、足がすくんでしまって銀行の扉の前で進めなくなってしまったのだ。そしていつも妄想が生まれるのは何か精神的なプレッシャーがかかっている時に限っている。もうあれ以来9年経った今、それは理解している。ただあの時はそのことがまるでわからなかった。

 

*契約時手付金を払った後、残額を支払うこと

 

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