劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

コロナ禍で浮かび上がったこと~疫病流行の時代に思う⑵

2020年09月24日 | 演劇
 政府キャンペーン“Go to トラベル”“Go to イート”とやらに乗せられ、世間は賑わいを取り戻しつつある。閑古鳥が鳴いていた観光地に人が押しかけ店々は繁盛し、入場制限緩和となった野球場は内野席ばかりでなく外野席にもファンが広がっている…世の中明るくなって結構な話ではある。「密集・密接・密閉」忌避の疫病対策が功を奏しコロナ禍は収束に向かうのだろうか?
 そうあってほしいが外国に目を転じると、イギリスもイタリアも規制緩和がもとで「第二波」に見舞われているとか。アメリカは大統領選のこと以外は眼中にないお方に異を唱えるようにニューヨーク市長が規制を緩めようとしない姿勢を保っているが、皮肉にもニューヨーク市の失業率は上がり、特に文化芸術の従事者は困窮している。演劇の街ブロードウェイは年内閉鎖であり、楽器を手放すトランぺッターのルポルタージュはつらいものだった。
 日本でも、観光地の旅館・ホテルは満室で土産物店の立ち並ぶ通りはごった返しているが、都心の夜の街に繰り出す人は少なくマスク姿で帰宅を急ぐ姿が目立つ。サービス業・アパレル関係・個人商店のシャッターは閉じられ、大企業は危機をやり過ごせても、中小の零細企業は注文が途絶えたらそれをしのげない。ましてや「3密」の典型である劇場芸術関係者は追い込まれている。出演者やスタッフたち表方・裏方ばかりでなく、彼らを支える「裏方の裏方」が倒産・廃業目前の状況にある。先週も三味線・琴など和楽器製造店の実情がテレビで放送された。数年前にも歌舞伎の衣裳の作り手が居なくなり使い回している実態が報告されていた。小道具店も例外ではあるまい。
 収入が少なく地味で長い修業を積まなければ一人前になれない業種となれば、若者が離れ跡継ぎはいなくなりその仕事場は無くなる。結果、「裏方の裏方」が消えれば、衣裳を身につけ小道具を手にする役者も三味線や笛太鼓の囃子方も大道具方も舞台監督をはじめとする劇場関係者も仕事を失う羽目になる。大げさではなく、これは時間の問題である。専門職の技術によって製作されていたものが無くなれば、形ばかりの衣裳や音が出るだけの楽器で凌いでも、舞台表現全体の質が落ちるのは明らかである。
 質が落ちるのは、裏方ばかりではない。表方である役者も別の理由でその演技が軽いものになっていることに着目しなければならない。伝統芸能の場合、歌舞伎や相撲は江戸時代からの文化を体現している。その残照があったのは昭和までであり、平成には既に消えたいた。三宅坂・国立劇場のロビーに六代目尾上菊五郎の踊り姿の木像が置かれている。しかし、歌舞伎の大看板はその人ばかりでない。立ち役七代目松本幸四郎「勧進帳」弁慶の気品と様式性、女形六世中村歌右衛門「京鹿子娘道成寺」白拍子花子の華やかさと毒、国立劇場の開場(1966年)当時までは歌舞伎に奥行きと深さと香りがあった。それが失われていったのである。
 なぜか。時代の変化に伴う意識と身体性の問題がそこにある。また同時に舞台を見上げる見物(観客)の鑑賞眼が深く影響している。
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