フルータリアンの備忘録

フルータリアンとは、果物を主食にしているベジタリアンのことです。人間は果食動物? 果食動物で死ぬ?

『ポッテンジャーの猫』――猫の退行性疾患が意味していること

2020-09-04 | 20 世紀に学ぶ
1930 年代初頭から約 10 年間にわたって「ポッテンジャーの猫」という、900 匹の猫を用いた実験が行われました。
実験を率いたフランシス・ポッテンジャー博士の目的は、食べ物の加熱調理が猫の健康状態にどのような影響を及ぼすのかを調べることでした。
猫は 2 つのグループに分けられ、一方のグループには生の餌が与えられ、もう片方のグループには加熱した餌が与えられました。
それぞれの猫の健康状態を観察することに加えて、猫が次世代に子孫をうまく残していくことができるのか、親猫の健康状態は子猫の健康状態にどのような影響を与えるのかという点も観察されました。
実験の条件がシンプルでわかりやすいことに加えて、その衝撃的な実験結果は人類にとっても大きな意味を持ちうることから、活発な議論を呼ぶことになりました。
そして、『ポッテンジャーの猫』(原題:Pottenger's Cats―A Study in Nutrition) というタイトルで書籍化もされ、長く語り継がれる有名な実験となりました。

それでは、実験を振り返ってみたいと思います。

■ 実験 1:生の肉 VS 加熱調理された肉

1.生食グループの食事内容:生の肉 2/3 + 生のミルク 1/3 + タラの肝油 (ビタミンAの補給源)
2.加熱食グループの食事内容:加熱調理された肉 2/3 + 生のミルク 1/3 + タラの肝油

○ 生食グループの健康状態について
・体の大きさと骨格の発達にばらつきがなく均一的だった。
・どの世代の猫も、均整のとれた大きな顔をしており、顎骨部・眼縁部がしっかりしていて、鼻腔の大きさも適度で、歯列弓が広く歯並びの均整がとれていた。
・頭蓋骨のつくりは、メス猫とオス猫でしっかり異なっており、それぞれの性に特有の解剖学的特徴を保持していた。
・膜組織は引き締まっており、ピンク色の健康的な状態で、感染症や退行性変化の形跡は見られなかった。
・筋肉の緊張が良好で、毛並みも良く、毛の抜け変わりが少なかった。
・歯ぐきの炎症や病気はほとんど見られなかった。
・大腿骨のカルシウム・リンの含有量は均一的で、臓器は完全に発達しており正常に機能していた。
・生涯を通じて、感染症、ノミやその他の寄生虫に対して抵抗力があり、アレルギーもなかった。
・総じて社交的・友好的で、意外性のある行動をとることは少なかった。着地運動における協調性も良好だった。
・生食グループの猫は、平均体重 119 グラムの子猫を産み、流産することは珍しく、母猫は子猫たちを難なく育てることができた。

○ 加熱食グループの健康状態について
・体の大きさと骨格の発達にばらつきが見られた。
・顔と歯の構造にさまざまなばらつきが見られた。
・長骨は、長さが長くなり、直径が小さくなった。前脚より後脚の方が長くなる傾向があった。三代目の猫の骨の一部は、ゴムのように柔らかく骨形成不全の症状が現れていた。
・心臓の不具合、近視・遠視、甲状腺の活動性低下や炎症、腎臓・肝臓・精巣・卵巣・膀胱における感染症、関節炎、まひや髄膜炎を伴う神経系の炎症、のすべてが観察された。
・胸腔と腹腔が小さくなっていることから、内臓の体積が減少していることがわかる。
・三代目の猫は生理的に破綻しており、6 ヶ月以上生きることはなかったため、そこで血筋が途絶えた。
・二代目・三代目の猫は、肺に異常な呼吸組織が見られ、充血、浮腫、一部に無気肺も見られた。気管支炎、間質性肺炎、甲状腺機能低下症が見られるケースもあった。これらはすべて、生食グループの猫には観察されなかったものである。
・短気な性格の猫が多く、噛んだり引っ掻いたりするメス猫もいた。逆にオス猫は大人しく消極的で、性的関心が弱かった。メス猫はより攻撃的になりオス猫はより消極的になるという性的な逆転現象が見られた。これらの性的逸脱は、生食グループの猫には観察されなかったものである。
・ノミや腸内寄生虫が多かった。皮膚障害やアレルギーが多く見られ、世代を経るにつれて症状が悪化した。肺炎や蓄膿症で死ぬ猫が多かった。
・流産するメス猫が多かった。世代を経るにつれて流産する確率が高くなった。分娩が困難であることが多く、分娩中に死ぬメス猫も多かった。
・死産で産まれてきたり、虚弱過ぎて育てられない子猫が多く、子猫の死亡率は高い。加熱食グループの猫から産まれた子猫の平均体重は 100 グラムで、生食グループよりも 19 グラム少なかった。

○ 生食から加熱食に移行、または加熱食から生食に移行するとどうなるか?
・加熱食の猫が生食に移行しても、通常の健康状態を取り戻すまでに四世代かかった。
・逆に生食の猫が加熱食に移行した場合は、半年や一年という短い期間であっても、通常の子猫を産めなくなるほど健康状態が悪化した。

■ 実験 2:生乳 VS 加熱乳 3 種

1.生乳のグループ:生乳 2/3 + 生肉 1/3 + タラの肝油
2.低温殺菌乳のグループ:低温殺菌乳 2/3 + 生肉 1/3 + タラの肝油
3.無糖練乳のグループ:無糖練乳 2/3 + 生肉 1/3 + タラの肝油
4.加糖練乳のグループ:加糖練乳 2/3 + 生肉 1/3 + タラの肝油

この実験においても実験 1 と同様の結果が見られた。
生乳グループの猫から産まれる子猫たちには均一性が見られた。
生乳グループの多くは、老齢に達したことかケンカで傷を負ったことが原因で死亡することがほとんどで、総じて健康的であった。
解剖学的測定においても異常がなく、病気に対する抵抗力も強かった。
毛並みの状態は良く光沢が際立っており、アレルギーも見られなかった。

低温殺菌乳グループの猫は骨格に変形が見られ、生殖の効率性が低かった。
二代目の子猫は体質上の問題や呼吸に関する問題を抱え、それは二代目・三代目と世代が進むにつれてひどくなった。
無糖練乳グループの猫は、低温殺菌乳グループよりも損傷度が大きかった。
一番ひどかったのは加糖練乳グループの猫であり、脂肪の沈着度合いがもっとも高く、骨格の変形もひどかった。また、極めて短気で、イライラしながら歩き回っていた。

■ では現代の猫は? そして人間は?

加熱食の猫たちの健康状態はかなり悪かったわけですが、現代の猫たちは実はそこまで不健康ではありません。
タウリンという栄養素がペットフードに添加されているからです。
タウリンは熱によって壊れやすい成分であることが後になってわかり、ペットフードに加えられることになったのです。
しかし、ポッテンジャー博士は、タウリン以外にも熱によって変性しやすい未知の栄養素が存在すると考えていました。
ポッテンジャー博士は、加熱調理が栄養素に与える影響について以下の指摘をしました。

・加熱調理によってタンパク質が変性し、消化されにくくなる。
・特定のアルブミンやグロブリンが生理的に壊れる。
・全組織の酵素は熱に弱いため、加熱調理によって壊れる。
・ビタミンCとビタミンB複合体のいくつかは、調理過程で損傷を受ける。
・ミネラルは、生理化学的状態が変わり、溶解性が低くなる。

現代においても加熱調理の影響はまだまだわかっていないことが多いようです。そして、ペットの猫の世界にもがんをはじめとする退行性疾患が蔓延しています。
また、この実験が衝撃的だったのは、加熱食グループの猫たちに起きたことが、私たち人間の世界で起きていることとそっくりだったということです。
私たち現代人は「加熱食グループの二代目の猫」と同じ立ち位置にいるのでしょうか?
もしその可能性があるのならば、手遅れにならないうちに健康的な三代目・四代目を残していく道を模索するべきなのかもしれません。

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