はじめに
久しぶりに、進歩性の基本的考え方の記事です。
今回は、進歩性の文脈における周知技術、慣用技術、技術常識について、ご説明したいと思います。
ちなみに、前回は、技術的思想(技術思想)についてでしたね。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
周知技術、慣用技術、技術常識とは?
周知技術、慣用技術、技術常識の意味(意義)については、審査基準のもの(冒頭のスライド)で確認しましょう。
「技術常識」=当業者に一般的に知られている技術(周知技術及び慣用技術を
含む。)又は経験則から明らかな事項
「周知技術」=その技術分野において一般的に知られている技術
① 相当多数の刊行物・ウェブページ等が存在
② 業界に知れ渡っているもの
③ その技術分野において、例示する必要がない程
よく知られているもの
「慣用技術」=周知技術であって、かつ、よく用いられている技術
定義をみると、「技術常識⊃周知技術⊃慣用技術」の関係にあるようですね。
しかし、進歩性の判断において、三者を区別するメリットはあまり感じたことがありません。「周知技術は適用できないが、慣用技術は適用できるとか」いったことは通常想定されませんしね。
強いて、使い分けるとしたら、周知技術・慣用技術は、主引用発明等に付加・置換される構成として説明されることが多いですが、技術常識というのは、ある発明の文言会解釈の中で、「・・・という技術常識を勘案すると、クレームの●●は、○○の意味である」という文脈で使われ(無効論だけでなく充足論でも)、何か構成として説明されることは少ない印象です。
ただし、「主引例の構成に明記されていないものの、クランクシャフトを有することは技術常識であるから、・・・」という形で、技術常識を構成として扱う文場面もあるのかもしれません。
いずれにしても、進歩性判断においては、これらの違いは、あまり気にする必要はないように思います。
周知技術等の意義
当業者にとっての共通の土台(冒頭のスライドのイメージ)というのが、周知技術等の意義ではないかと思います。
したがって、一般的に言えば、様々な公知技術との組合せがし易いのだろうと思います。そうでない場合は次回説明します。
審査官や審判官と出願人との間では、共通の土台として、「まぁ、当該技術分野においては、・・・は周知だよね」という共通認識は持てるのですが、これが、裁判(裁判官)になると、そうはいきません。
裁判官は、その技術について初めて触れ、何も知らないことが多いからです。
ですので、証拠により、共通の土台を構築していく必要があります。
「○○は、この技術分野では、周知技術です。ほら、この教科書にも、これらの特許
公開公報にもいっぱい載っていますよね。」
という感じです。
以前に、下記の記事で、進歩性の判断者(審査官、審判官、裁判官)の特性について言及しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
裁判官には、特に周知技術であるというにしても、証拠が必要です。
審決取消訴訟に限らず、「たとえそれが真実でも、証拠が無ければ負ける」というのが裁判です。
審判官や審査官が周知技術という際に、3つ文献を挙げたりしますが、仮に、裁判にいっても、ちゃんと周知技術と認定してもらうためです。
当たり前なんですよ!
上のスライドの水色で囲まれた部分の会話です。
他者の特許権に係る特許を無効にしたいときに、依頼者(技術者の方)からよく言われる言葉です。
色々と公知文献を見つけてきて、とっかえひっかえ組み合わせて、でも埋まらない構成がある・・・、そんなときに、技術者の方は、
「その構成は、余りにも当たり前すぎて、教科書にも載っていないんです。
でも、当たり前です。先生知らないかもしれませんが。」
などとおっしゃいます(笑)。最後の言葉は余計ですね。
私、航空宇宙工学科です!理系です!理系弁護士です!弁理士です!元審査官です!
というのはわざわざ言いませんし、「知ってますよ」と心に秘めることもあれば、「知らなくて何が悪いんだよ~」と心の中で思うこともあります。
でも、穏当に、
「そうですね。でも、審査・審判段階ならまだしも、裁判まで行くと、裁判官
知りませんからね。証拠ないと厳しいですよねぇ~。負けちゃいますよね~。
何とかなりませんかね~。ハンドブックとか用語集とか。」
といって、何とか証拠を用意してもらいます。
最後に
次回は、周知技術等についての続きとして、下のスライド等について説明したいと思います。