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特許実務-進歩性の基本的考え方(14)【周知技術、慣用技術、技術常識】

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周知技術等(周知技術 / 慣用技術 / 技術常識)

 

はじめに

 

 久しぶりに、進歩性の基本的考え方の記事です。

 今回は、進歩性の文脈における周知技術、慣用技術、技術常識について、ご説明したいと思います。

 

 ちなみに、前回は、技術的思想技術思想)についてでしたね。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

周知技術、慣用技術、技術常識とは?

 

 周知技術、慣用技術、技術常識の意味(意義)については、審査基準のもの(冒頭のスライド)で確認しましょう。

 

 「技術常識」=当業者に一般的に知られている技術(周知技術及び慣用技術を

        含む。)又は経験則から明らかな事項

 

 「周知技術」=その技術分野において一般的に知られている技術

        ① 相当多数の刊行物・ウェブページ等が存在

        ② 業界に知れ渡っているもの

        ③ その技術分野において、例示する必要がない程

          よく知られているもの

 

 「慣用技術」=周知技術であって、かつ、よく用いられている技術

 

 定義をみると、「技術常識⊃周知技術⊃慣用技術」の関係にあるようですね。

 

 しかし、進歩性の判断において、三者を区別するメリットはあまり感じたことがありません。「周知技術は適用できないが、慣用技術は適用できるとか」いったことは通常想定されませんしね。

 

 強いて、使い分けるとしたら、周知技術・慣用技術は、主引用発明等に付加・置換される構成として説明されることが多いですが、技術常識というのは、ある発明の文言会解釈の中で、「・・・という技術常識を勘案すると、クレームの●●は、○○の意味である」という文脈で使われ(無効論だけでなく充足論でも)、何か構成として説明されることは少ない印象です。

 

 ただし、「主引例の構成に明記されていないものの、クランクシャフトを有することは技術常識であるから、・・・」という形で、技術常識を構成として扱う文場面もあるのかもしれません。

 

 いずれにしても、進歩性判断においては、これらの違いは、あまり気にする必要はないように思います。

 

周知技術等の意義

 

 当業者にとっての共通の土台(冒頭のスライドのイメージ)というのが、周知技術等の意義ではないかと思います。

 

 したがって、一般的に言えば、様々な公知技術との組合せがし易いのだろうと思います。そうでない場合は次回説明します。

 

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周知技術等(周知技術 / 慣用技術 / 技術常識)

 

 審査官や審判官と出願人との間では、共通の土台として、「まぁ、当該技術分野においては、・・・は周知だよね」という共通認識は持てるのですが、これが、裁判(裁判官)になると、そうはいきません。

 

 裁判官は、その技術について初めて触れ、何も知らないことが多いからです。

 

 ですので、証拠により、共通の土台を構築していく必要があります。

 

 「○○は、この技術分野では、周知技術です。ほら、この教科書にも、これらの特許

  公開公報にもいっぱい載っていますよね。」

 

という感じです。

 

 以前に、下記の記事で、進歩性の判断者(審査官、審判官、裁判官)の特性について言及しました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 

 裁判官には、特に周知技術であるというにしても、証拠が必要です。

 

 審決取消訴訟に限らず、「たとえそれが真実でも、証拠が無ければ負ける」というのが裁判です。

 

 審判官や審査官が周知技術という際に、3つ文献を挙げたりしますが、仮に、裁判にいっても、ちゃんと周知技術と認定してもらうためです。

 

当たり前なんですよ!

 

 上のスライドの水色で囲まれた部分の会話です。

 

 他者の特許権に係る特許を無効にしたいときに、依頼者(技術者の方)からよく言われる言葉です。

 

 色々と公知文献を見つけてきて、とっかえひっかえ組み合わせて、でも埋まらない構成がある・・・、そんなときに、技術者の方は、

 

 「その構成は、余りにも当たり前すぎて、教科書にも載っていないんです。

  でも、当たり前です。先生知らないかもしれませんが。」

 

などとおっしゃいます(笑)。最後の言葉は余計ですね。

 

 私、航空宇宙工学科です!理系です!理系弁護士です!弁理士です!元審査官です!

というのはわざわざ言いませんし、「知ってますよ」と心に秘めることもあれば、「知らなくて何が悪いんだよ~」と心の中で思うこともあります。

 

 でも、穏当に、

 

 「そうですね。でも、審査・審判段階ならまだしも、裁判まで行くと、裁判官

  知りませんからね。証拠ないと厳しいですよねぇ~。負けちゃいますよね~。

  何とかなりませんかね~。ハンドブックとか用語集とか。」

 

といって、何とか証拠を用意してもらいます。

 

最後に

 

 次回は、周知技術等についての続きとして、下のスライド等について説明したいと思います。

 

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周知技術等(周知技術 / 慣用技術 / 技術常識)

 

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