『都々逸のススメ』
2007/9/26発行『都々逸のススメ』(柳家紫文/創美社)。紫文式 都々逸のススメ
寄席や『笑点』の音曲師・柳家紫文さんの都々逸本です。『「都々逸」と書いて「どどいつ」と読みます。って読めませんよね』という序章から始まります。都々逸好きとしてはぐぬぬといいたくなるスタートです。
ですが、『ほとんどの日本人は都々逸を知っていることを知らないんですこれが。』ということで以下の有名な都々逸が挙げられています。
ザンギリ頭を 叩いてみれば 文明開化の 音がする
立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は 百合の花
信州信濃の 新そばよりも あたしゃあなたの そばがいい
有名な都々逸ですね。「都々逸」が読めなくても、「都々逸」は読んだことあるはず。こんなに面白くて素敵な庶民のオトナの遊び、都々逸の本を是非詠んでもらいたいです。
その壱 都々逸はじめの一歩編
約34句の都々逸とその解説が載せられています。加えてコラムが2本。恋にこがれて なく蝉よりも なかぬ蛍が 身をこがす
有名な都々逸ですよね。恋の相手を求めて鳴き続ける蝉。そして音もたてずに光りその光で身を焦がす蛍。好きだ嫌いだと全身で表す女性より、ぐっとこらえて思い焦がれる女性の方が、恋心は強いという都々逸。そう、この句の蝉と蛍のイメージは女性じゃありませんか?そういう女性…目に浮かぶようですよね。
だけど、蝉と蛍をよく見てください。ミンミン鳴くのもピカピカ光るのもオスなんです。好き!と騒ぐ男性とじっと思い焦がれる男性…!?句のイメージが一気に変わります。より一層切なくなったようなならないような。男性だと思うと、鳴く蝉の方が思いが強くて素敵なんじゃないかとさえ思えてきます。この都々逸を作った人はどういう気持ちで作ったのか。とても気になります。
(注)蛍は強く光って飛び回っているのがオス、弱く光って動かないのがメス。
その弐 都々逸オトナですもの編
約23句の都々逸とその解説が載せられています。加えてコラムが2本。思い切れとて 五合桝投げた これが一生の 別れます
「一生の別れます」は「一升の別れ升」、だから「五合桝」(一升の半分)という語呂合わせです。一升とか五合桝とかが身近でなくなってしまったので、この言葉遊びが分かりづらくなったのが残念です。反面、言葉を知って句が理解できた時の嬉しさは格別です。
これと似たような言葉遊びで「春夏冬二升五合」という語呂合わせもあります。「春夏秋冬」の「秋」がなくて「あきない」、「二升」で「ますます」、「五合」は一升の半分で「はんじょう」。つまり「春夏冬二升五合」は「商い益々繁盛」となるのです。
「あなたと一緒にいると春夏冬だわ」とさらりと言える人になりたいものです。そしてそれを分かってくれる相手なら言うことありません。
その参 都々逸はいから編
約27句の都々逸とその解説が載せられています。加えてコラムが4本。あなたにかけた 私の人生 かけたんだもの 割り切れる
人生かけて惚れている、だからこそ辛いことがあっても割り切れるっていう意味の都々逸ですよね…?私は最初そうとらえたのですが、損得見積もり計算づくと考えると、ものすごく打算的な都々逸に聞こえてきませんか? 好きでもない金持ちの男と結婚して、豊かに暮らせるなら割り切れる、みたいな。捉えようによっては全く逆の意味に聞こえてしまいます。自分の人生や立場によって見え方が違ってくる都々逸って深いです。
朝顔は ばかな花だよ 根もない竹に 命までもと からみつく
朝顔が竹にからまって咲いている、なんて風景を唄ったものではない事は明らかですよね。「朝顔」は「女」、「根もない竹」は「ふらふらしてる男」。そんなつまらない男にしがみつくなんてばかなことを、というわけです。
さて「朝顔」って朝に咲く清楚で日の光を浴びているような花のイメージではないですか? しかし、実は「朝顔」は日が暮れてから10時間後に咲くんだそうです。つまり「朝顔」は夜を感じているんです。そう思うと「朝顔」のイメージまでも変わってきてしまいます。
それを知ってからもう一度、都々逸を見直すと、清楚な女性が色男にいいように扱われ~みたいな雰囲気から、場末な感じの色気に変化が起こってくる気がします。
その四 都々逸おおトリ編
約54句の都々逸とその解説が載せられています。加えてコラムが2本。おおトリということでこれぞ都々逸!という句。
こうしてこうすりゃ こうなるものと 知りつつこうして こうなった
具体的に何も言っていないのに、読む人すべてになるほどと思わせる力のある都々逸ですよね。はっきり言わないからこその汎用性の高さ。素晴らしいです。
人生は、分かってたのになぁ…の繰り返し。子どもの頃から散々経験したはずなのに、大人になってもやっぱり、分かってたのになぁ…ばかりです。
だけれども、「こうなった」から感じるさっぱりとしたあきらめと納得の気持ち。決して結果に絶望しているわけでなく、まぁ、それなりに前に進んでいこうか、みたいなスッキリ感があるのがまた良いところです。
そんなこんなの柳家紫文さんの『都々逸のススメ』。載せられていた都々逸でこの本をまとめるとコレです。
和歌は雅よ 俳句は味よ わけて都々逸 心意気
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