子規を「ギャ句゛」る 名句をひねると「ギャ句゛」になりました
2020年発行の「子規を「ギャ句゛」る 名句をひねると「ギャ句゛」になりました」(夏井いつき/光文社)です。子規を「ギャ句゛」る 名句をひねると「ギャ句゛」になりました (光文社新書)
ご存知、夏井いつきさんは『プレバト!!』(TBS系)出演中の俳句の先生。「日本ギャ句゛協会」の自称会長です。さて「ギャ句゛」とは何かご存知ですか?
<ギャ句゛>
有名俳人の名句の、一字一音を替えることによって、意味を愕然と変えてしまおうという一種の言葉遊びです。ギャ句゛は「最も少ない言葉変換による、最も大きい意味変換」といえます。名句を読みおぼえ、韻の働きを知り韻を踏める新しい言葉を探すことで、力がつきます。また、アイデアを練ることで語彙が増え、言葉に対する感覚が鋭敏になる修行にもなります。
そんなギャ句゛を一般募集して寄せられた2243句の中から選句し星付けした本です。
内容
ギャ句゛は俳人杉山久子さんを宗匠として始まったものです。杉山久子さんは1966年山口県生まれの俳人であり、第一句集「春の棺」、第二句集『猫の句も借りたい』(猫を扱った句ばかりを集めた句集)などを編んでいます。句集 猫の句も借りたい【新装版】
原句 「痩馬の あはれ機嫌や 秋高し(村上鬼城)」
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ギャ句゛「痩馬の あばれ危険や 秋高し(杉山久子)」
これらの作品に感動し、夏井いつきさんは「日本ギャ句゛協会」の会長を自称し始めたそうです。そしてこの遊びに参加する人々をギャ句゛ラーと呼ぶことになりました。
という始めの言葉から始まり、本題に入っていきます。
この本は春夏秋冬、それぞれの季語(春45個、夏31個、秋30個、冬24個)によって分類されまとめられています。さらに季語の解説、原句の解説、ギャ句゛の評価が全句で行われているのでとても読みごたえがあります。まさに名句を詠み、アイデアを練りながら俳句の修行ができるというギャ句゛の説明にぴったりと合った内容になっています。
原句
「こよひこそ 嬉しそうなり 雉の声(子規/明治20年)」
季語
雉(動物 三春)=草原や林に生息する日本の国鳥。春に雄が「ケーンケーン」と雌を呼び、翼を大きく羽ばたくのを「雉のほろろ」と言います。尾が長く、オスは顔が赤く、背に黒、緑、黄、銅色などの斑紋が美しい鳥。雌は尾が短いです。
原句解説
今宵、嬉しそうに聞こえる雉の声。それはどんな声だろう?昔から雉の声は「妻恋」の声と謡われてきたので、「今宵こそ恋しい人に会える」と嬉しそうな人がいて、めでたい雉の声を一緒に聞いているという句かもしれません。
ギャ句゛
「こよひこそ 嬉しそうなり 知事の声(井久)」=星3つ
「こよひこそ 嬉しそうなり 野次の声(佐東亜阿介)」=星1つ
雉(きじ)を「知事(ちじ)」「野次(やじ)」に変えただけの句ですが、一気にギャ句゛としての面白みが出ています。他にも「騎士」「棋士」「義士」などに変えることが可能とのこと。
原句
「鹿の角 落てさびしき 月夜哉(子規/明治25年)」
季語
鹿の角落(動物 晩春)=鹿の角は春に自然に落ち、初夏に生え変わる。毎年一回生え変わりながら、次第に枝分かれして大きな角となる。
原句解説
角が落ちた牡鹿のシルエットが、寂しく浮かんでいる月夜である。
ギャ句゛
「妻の角 落てうれしき 月夜哉(松本だりあ)」=星1つ
「菓子の角 落てさびしき 月夜哉(七瀬ゆきこ)」=星1つ
「鹿」を「妻」に変えることを「名詞変換」、「さびしき」を「うれしき」に変えることを「対義語変換」としています。また、「鹿(しか)」を「かし」にすることは「アナグラム変換」です。
このような感じで、一句一句どのように変換しているかの説明があり、ギャ句゛を作る際の参考になります。一文字変えることで全く違う意味になる日本語の奥の深さを感じます。一字の変更パターンを読むだけでも勉強になること間違いなしです。
雪見(ゆきみ)→不気味(ぶきみ)
若葉(わかば)→スタバ
五月雨(さみだれ)→君誰れ(きみだれ)
そして正岡子規の句を真面目に読むと大変ですが、ギャ句゛と合わせて読むと、どこをどう変換させているのか見比べることができるのでスッと正岡子規の句も頭に入ってきます。特に私は「さびしき」「うれしき」といった感情部分を変化させることで、原句、ギャ句゛どちらの句も気持ちや情景が浮かびやすくなるような気がします。
320ページの本ですが、ほぼすべて句の説明です。1ページに1~3句なので、スッキリ見やすいわりに読みごたえがあります。
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