トーキング・マイノリティ

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ウィリアム・モリス展

2020-07-04 21:30:15 | 展示会鑑賞

 宮城県美術館の特別展「ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡」を先月末に見てきた。本来この特別展は4月から公開されるはずだったが、コロナの影響で5月からの開催となった。以下は美術館HPからの引用。

ウィリアム・モリス(1834~1896)は、芸術家、詩人、作家、思想家、社会運動家など、多彩な分野で活躍した19世紀の英国を代表する偉人として知られています。モダン・デザインの父とも称され、先駆的なデザイナーとしてアーツ・アンド・クラフツ運動を先導しました。 
 本展では、これまで顧みられることのなかったモリスの幼少期や学生時代にはじまり、晩年に至るまで、デザイナーとしてのモリスの生涯を紐解きます。 モリスの制作活動は「住まい」、「学び」、「働いた場所」など、その時々の環境と深いつながりをもちました。 

 本展では、写真家・織作峰子氏が撮影した風景とともに、第1章「少年期から青年期(1834~59)」、第2章「レッド・ハウスからクイーン・スクエアへ(1859~71)」、第3章「ケルムスコット・マナー(1871~96)」、第4章「ケルムスコット・ハウスとマートン・アビー(1878~96)」、第5章「ケルムスコット・プレス(1891~96)」、第6章「アーツ・アンド・クラフツ運動とモリスの仲間たち」という全6章構成により、そのデザインの軌跡を辿ります。 

 また、本展では、大阪芸術大学の特別協力によって、モリスが晩年に設立した印刷工房「ケルムスコット・プレス」で刊行された53書目66冊を前後期にわけて全巻展示できることになりました。 室内装飾など約151点を通して、モリスやその仲間たちによるデザインの世界をお楽しみください。 

 コロナ禍のため各映画館や博物館、美術館ばかりか、図書館までもが軒並み閉鎖されたのは普段インドア派の私も堪えたが、特別展は待ちに待った甲斐のある内容だった。コロナのため展示できないという作品が二点だけあったが、その分料金を少し値下げしてほしいと思った来場者もいたはず。
 ウィリアム・モリスの名前だけは知っていた。『アラビアのロレンス(改訂版)』(中野良夫著、岩波新書)の最終頁には、ロレンスが伝記者に答えたインタビューが載っており、好きな作家にウィリアム・モリスを挙げていたから。あのロレンスがモリスを好きだったとは意外だが、2人とも中世を愛する点では共通している。

 展示されているモリスデザインの壁紙は、モダン・デザインの父と称されるだけあり、どれも見事なものばかりだった。モリスが住んでいた家の部屋を再現した展示もあり、暖炉周辺の装飾は実に美しかった。同行の友人いわく「このような家ならずっとステイホームしていたい」。
 このような作品を生み出し続けたのだから、私生活でも幸福だろうと思ったら、解説によれば意外に家庭環境は複雑だったようだ。その原因は妻ジェーンと6歳年上の画家ロセッティにあった。モリス夫妻とロセッティはレッド・ハウスに住んでいた時もあったとか。

 モリスとロセッテイがジェーンに出会ったのは1857年、ロンドンの下町の劇場だった。ロセッテイには既にエリザベス・シダルという婚約者がいたが、ジェーンに惹かれてしまう。だが、ジェーンは結局ロセッテイの弟子で友人でもあったモリスと結婚する。ロセッテイも予定通り婚約者と結婚した。
 結婚は2組のカップルともに幸福ではなかったらしく、ロセッテイは次第に心身を病み、自殺未遂まで起こしている。レッド・ハウスの間取り図が展示されていたが、モリス、ロセッテイ、ジェーンはそれぞれ別の部屋を持っていて暮らしていたという。モリスの作品からはこのような私生活は想像もつかなかった。

 晩年は酒と薬に溺れる生活を送ったロセッテイとは対照的に、モリスは晩年に至っても精力的な創作活動を続けた。芸術方面のみならず、社会主義運動も行い、51歳を迎える1885年には社会主義同盟を結成している。「プロレタリアートを解放し、生活を芸術化するために、根本的に社会を変えることが不可欠だと考えたモリスはマルクス主義を熱烈に信奉」(wiki)した。
 生活の芸術化に最も無縁だったのこそ、マルクス主義を採用した共産主義国だったことを現代人なら知っているが、当時はモダン思想と思われていたのか。



 柳をデザインした壁紙も幾つか展示されており、上は「柳の枝」。この壁紙も素晴らしいが、一般に日本人がイメージする柳とはかなり違う。柳といえばなよなよして女性的な印象があるが、モリスの壁紙の柳は全般的に力強く男性的なのだ。柳といっても日本のそれとは品種が違うのか、英国人とは感性が違うのか。
 それでもモリスの壁紙には、日本家屋や寺の内部に合いそうな作品が何点もあった。暫くぶりで美術鑑賞が出来てとても満足した。

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