トーキング・マイノリティ

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フレディは幸せだった?その①

2018-12-16 22:10:25 | マスコミ、ネット

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしているそうだ。事実とは異なる、時系列的におかしい、本物に比べ風格がない……等の不満も一部あるが、そのような観客は長年のコアなファンであり、対照的にさほど好きでなかったり、クイーンを知らない人には好評らしい。映画の内容に一部不満があるにせよ、若い世代にもクイーンを聴く人が増えているのは、長年のファンにとっても喜ばしい。
 だがフレディ・マーキュリーの性的指向を以って、LGBTへの啓蒙と理解を図る世論誘導の動きがメディアで活発化している。ネットにもその種の記事があり、「「フレディは幸せだった?」クイーン映画の問い 移民・差別・家族…」などは、ライターが岩崎賢一なる朝日新聞記者ゆえ、それが露骨である。私には「フレディは幸せだった?」という問いかけくらい、愚問としか思えないが。

 記事ではフレディを演じたラミ・マレックへのインタビューが載っており、役作りにかかった時間は1年余りというのはともかく、「どうやって彼を人間の地位に引きずり下ろしたらいいか考えた」の発言は驚いた。
 偉大なロックミュージシャンではあるが、フレディは多くの欠点を持つ「人間」に過ぎないのに、ハリウッド俳優の解釈はこうも異なっているのか?クイーンファンの中にもフレディを“神”と見る人はいるのは確かだが、ひょっとして「人間」と見る私の方がファンでも少数派なのか?

 岩崎氏はマレックに、「クイーンを演じきった今、フレディはあの時代を生きて、幸せだったと思いますか」という質問をぶつけ、マレックはこう答えている。
イラン系インド人で、ゾロアスター教の家庭で育った。そして非常に強い宗教的な信条がある家族の中で、異性愛以外、つまりホモセクジャル、バイセクシャルということはスティグマ(恥辱)になるという中で、自分の性的なアイデンティティーを見つけ出さないといけなかった。非常に孤独だったし、不幸せだったと思う
 
 映画ではやたら“孤独”が強調されていたし、マレックの解釈もその流れに沿ったものだろう。しかし、不幸せだったと思うと断言したのは的外れとしか思えない。この見方は彼自身の投影ではないか?
 マレックはエジプト移民の家系で、コプト教徒なのだ。エジプトでマイノリティのキリスト教徒だが、祖国では圧倒的多数派のムスリム、コプト教徒問わず、ホモセクジャル、バイセクシャルはスティグマ(恥辱)になる社会というよりも、公然と迫害される対象であり、「名誉殺人」に値する存在でもある。

 確かにゾロアスター教では原則としては同性愛を認めず、経典アヴェスターの一章ヴィンディダード(除魔書)には次の一節がある。
男が女と寝るように、または女が男と寝るように男と寝る男は、ダエーワ(悪魔)である。悪魔の崇拝者であり、悪魔の男の情婦である

 悪魔の崇拝者かつ男の情婦ならば、殺害されても文句は言えない。同時に聖書にもこんな物騒な一文があることを、一般に日本では知られていないだろう。
女と寝るように男と寝る者は、ふたりとも憎むべき事をしたので、必ず殺されなければならない。その血は彼らに帰するであろう」(レビ記20:13)

 尤も現代のユダヤ・キリスト教徒社会で、女と寝るように男と寝て殺された男の話は聞かないし、パールシー社会も同じなのだ。既に'70年代の西欧では、偏見はあっても男と寝た男の身体生命は保障されていた。
 ただ、映画にもフレディの付き人で、ゲイでもあったポール・プレンターの発言から、当時の社会世論が伺える。パールシー社会だけが同性愛に非寛容ではなかったのだ。
ベルファスト出身のカトリックでゲイ。親父が本当の俺を知れば、死んだ方がいいと思っている…

 先の記事には、終盤のライブ・エイドのシーンから涙が止まらなかったという猪熊弘子さん(53)による意見、「私たちクイーンファンは、当時からLGBT、移民への抵抗感がありませんでした」もある。LGBTの用語がメディアで頻繁に使われるようになって十年も経ていないが、映画同様この意見も時系列を無視しているようだ。
 現代53歳ならば私とほぼ同年代であり、'70年代に性的マイノリティや移民に関心を持つ10代の日本の少女こそ、ファンでも相当なマイノリティではないか?にも関わらず、「私たちクイーンファン」と他のファン全て同じ思いという一般化は実に不愉快だ。

 試に猪熊弘子で検索したら、著作のある保育ジャーナリストの名がヒットした。同姓同名も考えられたが、「世界のQueenフレディ・マーキュリーが教えてくれた「多様性」」という記事がヒット、記者名にジャーナリスト・猪熊弘子とあるので、まず同一人物と見てよい。映画便乗記事そのもので、「田舎の女子学生がLGBTを理解する」など後付けの言説にしか見えなかった。当時は男の同性愛者は公然とオカマ、ホモ呼ばわりされていたものだが。
 さすが朝日新聞記者のコラムは、印象操作が十八番と改めて感心させられる。記事では猪熊氏を“ジャーナリスト”とは一言も書いておらず、読み手は一般人であるかのような印象を受けるだろう。そもそも朝日のコラムに登場する一般人とは、リベラル派活動家が相場だ。
その②に続く

◆関連記事:「映画ボヘミアン・ラプソディ

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
『知魚楽』 (madi)
2018-12-20 16:15:22
他人の幸せをうんぬんすることについて高校時代の現代国語の教科書にのっていた湯川秀樹『知魚楽』をおもいだしました。
Re:『知魚楽』 (mugi)
2018-12-21 22:13:56
>madi さん、

 湯川秀樹の『知魚楽』は未読ですが、検索したら、これについて書かれたブログ記事がヒットしました。
https://blogs.yahoo.co.jp/cat_falcon/12227004.html

 これをもじれば、君はフレディじゃない、どうして彼が幸せじゃなかったか分るのか?となるかも。
女の子文化というものがある (ディライラ)
2019-01-03 17:33:07
猪熊さんと同世代ですが、彼女の少女時代は
竹宮恵子の風と木の詩が少女コミックで大ヒットしていた時代ですから、
LGBTへの偏見とかなかったと猪熊さんが
おっしゃってるのは、理解できました。
偏見どころか美しいものととらえて
ジュネといった雑誌が人気があった時代です。
大島弓子、萩尾望都などがすきな人は少女コミックを読んでました。
男だけの兄弟とかですと、情報が入りにくいかもしれないですが、おねえちゃんがいる男の子だと
少女コミックは読んでいたと思います。

女の子カルチャーっていうんですかね。
クイーンやベイシティローラーズを盛り上げていたのも当時の女の子でしたし・・

逆に自分なんかは、ギターを弾いていたので、
男の子にもてなくて、
ピアノにしときゃよかったな・・と思いました。
もてたい男の子たちが、簡単なコードで
ギターをストロークしているところに
アルペジオだけで、すでに勝ってしまうのが
田舎のレベルですから・・

Re:女の子文化というものがある (mugi)
2019-01-04 21:21:10
>ディライラ氏、

 LGBT等と云う造語が知られるようになってから十年も経ておらず、記事にも書いたように男の同性愛者は当時オカマ、ホモ呼ばわりされていたほど。その②にもクイーンファンの男性ブロガーさんから、こんなコメントを頂きました。
「LGBTなどというシャレた言い方は当事はなかった。当事の呼び方はホモまたはゲイでありオカマである。まとめて端的に言えば『ヘンタイ』と、ひとくくりにされる存在だった。だが、そこに退廃の匂いを嗅ぎ取って、最初は音楽にシビレた私たちは更にファンになったのではないのか?」
https://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/88dc7acba698ee2305ed9f71804878e4#comment-list

 ジャーナリストでありながら猪熊氏の主張は完全に時系列を無視しており、氏の少女時代にはLGBTの概念はなかった。現代の概念で過去を語っており、これでは“創作”“歪曲”と見なされて当然でしょう。少なくとも私は、この類のジャーナリストは信用しませんよ。
『風と木の詩』は途中まで読みましたが、クラスの女子の間では際物扱いでしたね。萩尾望都は好きでしたが、大島弓子は好みではなかった。ジュネはひと目見て止めました。ボーイズラブは苦手なので。

 私には男の兄弟がいないので、おねえちゃんがいる男の子の傾向は分りません。しかし、私も田舎の女子学生だったためか、洋楽を好んで聴く女子学生の友人はいなかった。つまり、田舎の女子学生全てが「女の子カルチャー」にハマってたのではない。
 ベイシティローラーズは知っています。NHKの歌番組だったと思いますが、彼らの第一印象はアホのアンチャン衆にしか見えなかった。それをクラスメートに言えば、叩かれるのは想像がついたので口にしませんでしたが、私が暫く洋楽を聴かなかったのは彼らの影響があります。そして当時の私は外人が嫌いでした。類は友を呼ぶのか、私の周囲もそんなタイプが多かった。

 高校は女子高でしたが、ギター部に所属していた友人がいます。但し彼女も洋楽に詳しい様子はなかった。私がクイーンファンになったのはフレディの死後5年も経ってからで、既に30代になっていた。少女時代にファンになる人と、とうに成人してからでは見方も違うはず。
 プロフィールにも書いたように元からマイナー嗜好の歴女だし、私がフレディを贔屓するのは彼がパールシーだからです。
営業妨害 (sub)
2019-11-03 12:10:15
一部ウヨによる朝日バッシングは愚かしい
朝日はタイムズなどと並ぶ世界の文化的新聞 何事も狭い感情だけで言わないでほしい


Re:営業妨害 (mugi)
2019-11-03 22:26:32
>subまたはff、

 特亜ネトウヨによる朝日擁護は愚劣の極み。未だに朝日如きを「文化的新聞」というだけで救い難い。何事にも支離滅裂な感情論を展開するのが特亜ネトウヨ。国際的なメディア調査レポートによれば、朝日新聞の信頼度は日本の有力紙の中で最下位とか(笑)。
https://blogos.com/article/384756/

 朝日と連帯関係にあるニューヨーク・タイムズの編集委員に任命されたサラ・チョン(韓国系)は、過去に白人絶滅を願うツイートしていたことが発覚している。驚くことにNYTは彼女が過去にこうした発言をしていたことを知りながら採用、非難が殺到した後も擁護する姿勢を貫いていた。リベラル紙の文化はヘイト。
https://togetter.com/li/1253434