2019年10月15日

ジェントリフィケーション

ジェントリフィケーション(gentrification)。
浅学につき、これも初めて目にした言葉。(^^;

Wikipediaによると、都心付近の住宅地区に、再開発などで比較的豊かな人々が流入し、
地域の経済・社会・住民の構成が変化する都市再編現象のこと。

高級化、中産階級化、階級浄化などと和訳されますが、
もっと端的に言えば、「都市再編に基づく地価上昇」。

地域の家賃・地価の相場が上がり、それまで暮らしていた人々が住居を失ったり、
それまでの地域コミュニティが失われたりする悩ましい側面があります。

大阪駅周辺でも、安い飲み屋がどんどん減ってるもんね。

記事が取り上げているのは渋谷のライブハウス。
渋谷の再開発がスゲーことになっているのは皆様ご承知の通り。

従来、キャパ100〜200人で1万〜10万円で貸し切れるライブハウスは、
ライブアイドルやインディーズ・アマチュアバンドの活躍の場。

ここらがやっていけなくなっちゃうわけですね。

新しく誕生した「渋谷ストリームホール」はキャパ700人で週末なら最低64万円。
とてもじゃないけど、インディーズには手が出せない・・・

壊さないと発展しないのは事実。
一方、100年後に「残しておいてよかった」と言われる町並みがあるのも事実。

悩ましいですね。


【ライブハウスは「60万円」から!?「渋谷文化」にも訪れる「ジェントリフィケーション」】

ある渋谷ライブハウスの閉店

 昨年11月30日、渋谷区桜丘にある人気ライブハウス「DESEO mini」が熱気に包まれた。

 この日行われたのは、アイドルグループ「tipToe.」と「HAMIDASYSTEM」の合同ライブ。ライブハウスは満員でエネルギッシュなステージとなったが、会場の外は少し淋しい雰囲気が漂う。

 実は、このライブハウス「DESEO mini」がある場所は渋谷区桜丘。この桜丘地区では2018年末から大型再開発が行われることになっており、周囲の建物はすでに殆どが空き家となっていた。この場所は両グループにとってデビュー公演をおこなった大切な場所であったが、ここもこの日限りで移転のために閉館してしまうのだ。

 この11月30日に渋谷区桜丘で閉館(移転含む)を迎えたライブハウスは実に3館もあった。最後のステージを飾った「tipToe.」は「一緒に青春しませんか?」をコンセプトとした渋谷系ギターポップサウンドを特徴とするアイドルグループで、初期には桜丘のライブハウスで公演をおこなうことが非常に多く、「桜丘で成長してきたアイドル」の1つだった。それだけに、メンバーも「思い入れもあるし、通い慣れた場所だから淋しい」と話す。

 渋谷が「再開発の槌音が絶えない街」となって久しいが、その一方で再開発によるこうした「渋谷文化を発信してきた場所の喪失」を惜しむ声に加えて、地域の「ジェントリフィケーション」(Gentrification/再開発などに起因する地域の高級化)を危惧する声もあがっている。

「音楽の街」桜丘から消えるライブハウス

 まずは今回の再開発の概要をおさらいしておこう。

 渋谷区桜丘地区は渋谷駅西口から玉川通りの横断陸橋(通称:マンモス歩道橋)を渡ったエリアで、桜の名所としても知られていた。
 桜丘は東京大空襲の際に焼失を免れたため狭い街路が多く、また駅からは横断陸橋を渡らないとアクセスできないため、駅チカながら家賃水準が比較的低かった。それゆえ、音楽関連店舗をはじめとして、ホビーショップや立ち飲み屋、言語に特化した語学教室など個性的でマニアックな店舗が数多く出店しており、渋谷文化の発信拠点となっていた。
 しかし、その街路の複雑さ、そして防災面の不安もあり、2015年に東急グループ主導で桜丘東側エリアの再開発組合を設立。2018年末には東側の1期再開発エリアが立入禁止になったとともに、2期再開発エリアとして1期再開発エリアの西側でも再開発準備組合が設立された。1期エリアの完成は2023年度を見込んでおり、その完成後に2期エリアの工事が開始される予定となっている。

 今回の再開発では、特に楽器店やホビーショップ、夜型飲食店などといった渋谷の「文化発信拠点」を担ってきた店舗の多くが桜丘から分散、もしくは閉店してしまったことは以前触れた通りだ。

 とくに、桜丘における「文化発信拠点」の象徴的存在が、多くの「ライブハウス」「音楽ホール」の存在であった。

 桜丘に所在するライブハウスのキャパシティは最大で100〜200人台程度、貸切利用料金はおおよそ1万円〜10万円から。気軽に利用できる規模と料金であるため、ライブアイドルやインディーズ・アマチュアバンドはもちろんのこと、音楽ライブ以外にも動画配信イベントや趣味のイベント、トークショー、サークルの打ち上げなどに使われる例もあった。

 こうした中〜小規模のライブハウスは、入場料のほかに税込500円〜600円のドリンク代を集めたり、酒類や軽食を提供することでかろうじて利益を確保しているところが多い。広域集約に有利な渋谷の駅チカでありながら、比較的地価・家賃が安い桜丘はライブハウスが集積しやすい条件の場所であった。しかし、その多くは再開発によって消えてしまう運命にある。

同じく路地と坂の「道玄坂・円山町」エリアに移転した店も

 桜丘の再開発地区にあるライブハウス・音楽ホールは6軒。2018年末より工事が開始された1期再開発エリア内には4軒のライブハウス・音楽ホールがあった。そのうち、ライブアイドルやネット動画配信者などサブカルにも強いライブハウスとして知られた「渋谷DESEO」とその姉妹館「DESEO mini with ヴィレッジヴァンガード」の2軒は、渋谷駅から少し離れた道玄坂・円山町への移転を決めた。

 道玄坂・円山町周辺も、桜丘と同様に路地と坂で構成された街であり、それゆえ家賃も比較的安く、また「O-WEST」、「O-EAST」、「duo」、「VUENOS」、「club asia」、「Glad」、「Loft9」などすでに多くのライブハウスがあることでも知られる。ライブハウスは夜遅くまで営業することが多く、また店舗外に入場列が伸びるなど周辺環境にも影響を与えることがあるため、場合によっては近隣店舗や住民との調整も必要となる。そのため、以前からライブハウスが集積している道玄坂・円山町は、移転先の「第一候補」となりえたのであろう。

 このほか、エレクトーンの生演奏ができる設備が特徴であったヤマハ系列の音楽ホール「ヤマハエレクトーンシティ」は渋谷を離れ、以前からヤマハの施設がある目黒への移転となった。

移転先が決まらず、休業のままの店も

 一方で、DESEOと同じ建物にあり、新人バンドの登竜門として知られたライブハウス「渋club乙-kinoto-」については、再開発の開始までに移転先が決まらず「一時休業」したままとなっている。

 さらに、2期再開発エリアにもライブアイドルやサブカルに強いライブハウスとして知られる「渋谷Ruido.K2」、DJイベントなどに強みを持つ「渋谷Aurra」といったライブハウスがある。これらに関しては、2期着工が2023年度以降に開始予定ということもあり、移転先などについてはまだ発表されていない。

 桜丘にあるライブハウスのなかでも、「渋谷club乙-kinoto-」(以下、乙)は渋谷の音楽シーン、特にバンド文化を牽引するライブハウスの1つとして知られていた。取材に応じた音楽プロデューサーのH氏は「乙は尖ったバンド文化の創生に大きく貢献したライブハウスであり、単純にあの場所からなくなるだけでも寂しい」と語る。

 休業前にはかつてこの地から育っていったバンドたちが顔を出すなど大きな賑わいを見せた乙であったが、閉館から半年以上が経過した現在も移転先が見つかったとの報告はなされていない。乙は近い将来「営業を再開したい」という意向を示しているが、大きな喪失感を味わっている音楽ファンも少なくないであろう。

「ジェントリフィーション」で個性的な街はどこへいく

 桜丘の「文化発信基地」が消えゆく一方で、渋谷駅周辺において殆どの大型再開発の事業主体となっている東急グループは、開発テーマの1つに「エンターテイメントシティ」を掲げており、渋谷を「何処にでもある街」にしないための様々な努力をおこなっている。

 たとえば、今年11月に1期開業する予定の渋谷駅ビル「渋谷スクランブルスクエア」に設けられる予定の屋上庭園や、去年開業した「渋谷ストリーム」に旧線路敷きを再現し、また渋谷川を再生させたこともその一環であり、その手腕は渋谷を熟知した東急ならではのものだと感心させられる。

 しかし、すでに再開発が行われたエリアの周辺では家賃水準が上昇するなど「ジェントリフィケーション問題」(Gentrification/再開発などに起因する地域の高級化)も囁かれている。

 桜丘のみならず渋谷駅周辺は「再開発ラッシュ」であり、それゆえ再開発で立退きとなった個性的な店舗の多くは再開発エリアから、つまり渋谷駅からさらに離れた場所へと移転・分散。駅チカ・再開発エリアの周辺では「家賃の高騰」により個性的な店舗の出店が難しくなっており、特に新たに出店する飲食店はチェーン系居酒屋など都内ならばどこででも見かけるような店舗や、例え個人商店であっても一般的なカフェやイタリアンなど「誰にでも好まれるような店舗」が目立つ。
 こうした状況は長年に亘って育ってきた「文化発信拠点」としての役割にも大きな影響を与えている。

新たにライブホール「渋谷ストリームホール」ができたが……

 東急グループが旧東横線線路跡地に建設した「渋谷ストリーム」には新たなライブホール「渋谷ストリームホール」が開設された。

 渋谷ストリームホールは桜丘地区の隣接エリアに建設されており、新たな「渋谷の文化発信基地」としての役割を担うが、その貸切使用料金は週末の音楽ライブであれば1日あたり最低でも税込64万8000円からとかなり高額。収容人数も700人とかなり大きく、これまであったライブハウスのようにインディーズバンドやライブアイドルが単独で気軽に使えるものではない(桜丘で最も規模が大きかったライブハウス「渋谷DESEO」は貸切使用料金税込み10万8000円から最高27万円、収容人数250人)。

 渋谷、そして桜丘のライブハウスに思い入れのあるバンドやアイドルグループは数多くあれど、渋谷ストリームホールのこけら落とし公演をおこなったのは、紅白歌合戦にも出場したメジャーアイドルの「欅坂46」だった。これは、まさに渋谷文化にも「ジェントリフィケーション」の影響が及んでいるという状況が、ハッキリと目に見えるかたちとなった瞬間であった。

 前出の音楽プロデューサー・H氏は「これまでの桜丘は大きなライブハウスでは到底できないようなグループが切磋琢磨してきた場所であり、渋谷ストリームホールは代替にはならない」とした上で、「700人規模のホールを埋められるグループなんて、恐らく全体の1パーセントくらい。1パーセントになる為の研鑽の場、淘汰の場である(中小規模の)ライブハウスが必要だ。」と指摘する。

「再開発」と「街の個性」の両立という課題

 今回は3回に亘って渋谷・桜丘の再開発を取り上げたが、「再開発」と「街の個性」の両立が課題となっているのは渋谷だけではない。

 演劇と音楽の街として知られる下北沢でも再開発により閉館となった劇場があり、「街の個性が失われる」として再開発の是非を問う裁判もおこなわれた。

 このほかに東京23区内だけでも、立ち飲みの街「京成立石」、賑わうアーケード商店街「武蔵小山」、「東上線大山」、東京タワーのふもとの街「麻布台」など、いくつものエリアで大型再開発によって個性的な街が消えようとしている。いずれの再開発も防災、バリアフリー化、踏切解消など数多くのメリットがあるため、新しい街が生まれることに対する期待も非常に大きい。

 しかし、こうした各地の再開発による街の刷新によって「谷根千」や「アメ横」、「新宿ゴールデン街」、「渋谷のんべい横丁」や、個人商店が立ち並ぶ古い商店街などといった「都内でありながら強い個性がある古い街並み残るエリア」が観光資源として脚光を浴びるようになってきていることも確かだ。

 東急グループが約3500億円もの巨費を投じておこなっている渋谷再開発。現在おこなわれている再開発事業は2027年度までに全面完成する予定だ。しかし、それらが完成した頃には、また「新たな再開発計画」も生まれているであろう。

 H氏は「再開発自体(の賛否)は争っても仕方がないこと」であり、新しくなった渋谷や下北沢の街において「また新たな文化が生まれること」にも期待を寄せたいという。

 再開発が完成した渋谷の街は、果たしてどういった「個性」を見せ、そしてどういった「文化」を生み出しているのであろうか。
(10月14日 HARBOR BUSINESS Online)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191014-00204026-hbolz-soci


土地家屋調査士 大阪 和田清人

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