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世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

8.お風呂屋さん ⑤

2019年03月13日 | お風呂屋さん
 傾き剥げた駐車場の看板が取り外された。
 昨年の大きな台風が二回きて、お風呂屋の屋根が半分飛ばされて、穴がぽっかりと開いている。
 上を見ると、大きな穴から空が見えてる。夜は星が見えて、望遠鏡でもあったらなと、神秘的な感じもするが、雨の日は、最悪で、滝のように風呂の方へと雨が流れ込んでくる。
 雨をモップで奥にやるのが来てからの仕事である。
 それから、フロントに立っていると、券売機の横に「今月いっぱいで閉店します。ご利用の皆様長い間ありがとうございました。」という説明が長々としてある。
 いよいよもって、お風呂も潰れたかとため息が漏れた。
 約5年くらいお世話になっただろうか。
 仕事を探している時に、知り合いの人に呼ばれたのはいいが、貧乏な会社で、大変だった。
 自動ドアも壊れたら、そのままで、真冬の雪が降る寒い時なんかは開けっ放しで、フロントに立っていて、必ず風邪を引いた。ストーブも調子がいい時はついているが、壊れた時を考えると考えるだけでも嫌になった。 
 暗くて、雨の音が響いている二階の部屋で、住んでいる髪が長い白い服を着た幽霊もお風呂がなくなったら、どこか別の所にでもいくのだろうかと疑問が湧いたがどうでもよくなった。
 また、仕事を探さないと行けない。
 何度探せば、気が済むのだろうと思うけど、生きている限り、仕事を探さないといけない。
 不景気な時に生まれたのも関係があるかもしれないけど、大変だ。
 そりゃ、どこでも潰れるよねと思う。
 周りを見渡せば、年寄りばかりの田舎だから、仕方ない。
 そのうち町全体も潰れると思う。
 フロントに立っていると、「あーよかお風呂でした~。」と言って手と手を合わせて、帰るヨボヨボのおばあさんがいるんだけど、楽しみを奪ったようで、気が引ける気がするが、潰れるから仕方ない。
 私も「ありがとうございました。」と言って、手を合わせて、小さく「なんまいだぶ~。」と呟いた。
 次に「あと、三年くらい開いてたらよかったのにな。」と言って帰るおじさんがいたり、「わしが死ぬまでは来たかったのじゃけど。」とヨボヨボのじいさんがいたりした。まったく、点滴打ちながらお風呂に入りそうだなと思ったりもした。
 色々な人に惜しまれて、閉店になったからよかったじゃないか。
 屋根が落ちて、誰かが死んだとかじゃないから、いい方に考えよう。
 何でもいい方に感じてポジティブに生きていきたいと思った。

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