恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

13.金木犀の香り

2020年10月25日 | 秋の物語

朝8時にパンパンパンと澄んだ空からピストルの音が聞こえてきた。
今日は、運動会。赤色の鉢巻きをはめ、体操服を着て、学校に向かう。
ひんやりとした秋風が学校の通り道にある枯れ木を揺らし落としていた。
走るのが苦手な僕は、この日は気が重かった。
運動場に着くと、全校生徒集まってて、校長の挨拶があり、ファンファーレが響き渡って始まった。
その後、玉入れ競争や、応援団の演目があって、次に僕が出る教室対抗リレーだ。
体が大きいという事だけで、クラス全員一致で、アンカーで走る事が決まった。
白線の後ろに横一列に並んだ。待っていると、白団と青団の後に赤団だった。5人中3位だ。
手と足をほぐしながら、バトンを取るイメージトレーニングをしながら周りを見ると、時間が止まっているかのような感覚になった。
人文字で応援している生徒たちがいて、応援団長が声を上げている。
青団が隣で勢いよく飛び出し、赤団のバトンが手に渡り走る。歓声が巻き起こった。
母親が客席にいて、「がんばれー」と叫んでる声が聞こえた。
隣には母の彼氏がいた。最近付き合い始めたようだ。
本当のお父さんは、3年前に病気で亡くなった。
今の彼氏は、銀行に勤めていて、有休を取って、わざわざ運動会を見に来ていた。
なんとなくつまらなそうにこっちを見ているような気がしていた。
それに気を取られていると、1人に追い抜かれた。
勢いよく追いかけても、追い抜けなくて、そのまま、4位に終わった。
赤団のみんなのため息が聞こえてくるようだった。
がっかりしていると母の彼氏が「よく頑張ったな。」と声を上げた。
別に言われたくないしと思ったが、母の手前、手を挙げて答えた。
「3年生全員正門に集まってください。」とアナウンスが聞こえてきて、正門に集まると、マイムマイムの音楽が流れ、隣同士手をつなぎ、運動場の真ん中に円を描きながら出ていく。
「最後に3年生全員によるフォークダンスです。保護者の方も一緒に踊ってください。」と下手なアナウンスが流れ、オクラホマミクサーのコミカルな音楽が始まる。
僕が3年間片想いの子を探しながら、適当に隣の女の子と踊っていた。
半周くらい回って、前の友達が、女の子と恥ずかしそうに手が触れないように、五ミリほど浮かせてぷるぷると震えていた。それが、滑稽だったが他の男子生徒も手を浮かせている。中には、太ってる女の子は、男の手をガッシリ握って、軽やかにリードしていた。
そうしてる間に、目の前に好きな子がやって来た。体操服の半そでの裾を曲げていた。
次が僕とつなぐ番だ。緊張しながら、心臓が口から出そうだった。
待っていると、音楽が段々と早くなり、前の友達がくるっと回り、好きな子の手を触れようとしたところで、チャンチャンと音楽が終わってしまった。
そんな馬鹿なと肩を落として、固まってしまった。変に戸惑ったので、好きな子も肩をすぼめていた。
まったく、どうしてこうもついてない日なんだろう。
僕の青春が終わってしまった。
母の方を見ると、彼氏と手をつなぎコミカルに踊っていた。ウクライナの民族衣装を着せたら映えるだろうなと思った。
いつも虫を食べたような顔をしている彼氏も笑顔で踊っていた。
クシコスポストの退場の音楽が流れて、走って退場する。隣に好きな子がいて、一緒に走る。
青団の鉢巻きがショートカットに綺麗に結ばれていて、横顔がかわいい。
この顔を永遠に見ていたい。
好きな子が前を走り去った後、さわやかな金木犀の香りがやるせなかった。


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2 コメント

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同い年恋愛初心者向け講座 (ゴウダ)
2020-11-13 22:33:30
こんにちは。
ゴウダと申します。

初めてこちらのブログを観覧させていただきました。

母の彼氏と僕の片思いの女の子、そして母と僕の対比がなんとも絶妙な、素晴らしい小説だと感じました。

次回作を楽しみにしております。

応援クリックさせて頂きます。

今後ともご活躍を楽しみにしております。
Unknown (kibooo)
2020-11-14 00:49:08
ゴウダさん
コメントありがとうございます。最近俳句にハマってて、なかなか物語が、思いつかないですが、また、来てください。ありそうで、ないような、ストーリー頑張って、続けていきたいですね。

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