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2019年09月17日

『街灯りとしての本屋』田中佳祐

『街灯りとしての本屋』田中佳祐

 出版不況とともに激減していく街の本屋さんが多いなか、ユニークな個人経営の書店が増えている。本に対する愛情、リアル店舗の存在意義などが交差するなか、個性的な店主たち11名の声が、店舗外観・内観のカラー写真とともに紹介される。

 それにしても十人十色、皆、考えていることはバラバラだ。これから書店を始めるため参考になる知見を得ようとすると、まったく相反する意見があったりするので混乱するかもしれない。でも、それは多様性でもあり、それを咀嚼し、自分の考えを鍛える材料にすればよい。

 個人的に注目したのが、地域との関わりについての語りである。東京・向島の「書肆スーベニア」店主は、新しくできたマンション住人は、自分たちの住んでいる場所に「ナニカがあるということを全く期待していない」ので店には来ない、通勤・通学で駅との往復をするだけだ、店に住んでいるとそのような街の様子がよくわかる、と東京下町で起きている厳しい現実を語る。

 千葉・松戸の「せんぱくBookbase」は、本屋をやりたい人が集まる間借り本屋だ。店主は地域の人に来てもらおうと、様々なローカルな告知を試みたもののまったく響かず、結局来てくれたのはSNSを通した人たちだったという。その苦い経験から、「この本屋は入って大丈夫だと知ってもらわんとダメなんやと」反省を口にする。

 他の店主からも地域との関わりを大事にすべしという意見が多いのに対し、東京・世田谷の猫本専門店「Cat's Meow Books」の店主は、自身も含め世田谷はよそ者が多い街、立地も住宅街にあるという特性を背景に、「店主が隣近所と密接な関わりがあって、初めてお客さんが来るような店にしたくなかった」と独自の見解を示す。

 本書のタイトルにもあるように、「街」と「本屋」は切り離せないという見方があり、私の関心もそこを基点としている。新刊・古書を問わず書店で起業するといより、本を媒介として、人びとが集まる場を設け、生業のひとつにする、という漠然としたイメージにとどまっているのだが。本書のインタビューで語られるトライ&エラーは、そこにカラフルな灯りをともしてくれる。

『街灯りとしての本屋』
著者:田中佳祐
構成:竹田信弥
発行:雷鳥社
発行年月:2019年7月31日


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