大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 4月17日 再会(3)

2024-04-17 19:23:06 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月17日 再会(3)





俺は悲しくなって奴の肩に手をかけた。

「 俺××だよ。
そっちこそ俺のこと忘れたのか?
それより、どうしてここにいるんだ?
向こうの大学に行ってたんじゃないのか?」

奴は何も答えず、自分の頭を手でなでている。

「 立ち話もなんだ、どっかファミレスでも入るか?」
「 いや、人がいる所じゃ緊張してしゃべれない。
誰もいない静かな場所がいい。」

奴はそれだけ言うと、自分の自転車にまたがった。
そして行く先も告げず、いきなり立ちこぎしながら走り出した。
 辿り着いた場所は、倉庫が立ち並ぶ埠頭だった。
奴は自転車を降りると、自動販売機でお茶を買った。
それから防波堤に腰掛け、ポケットから薬袋を取り出すと、幾つかの錠剤を飲んだ。
その間、会話は無かった。
俺が隣に座り、二、三話し掛けるが、目を閉じてうつむいている。
 成す術もなく真夜中の海を眺めていると、奴は急に切り出した。

「 俺はもうすぐ死ぬけど、これから話すことを信じて欲しいんだ。」
「 自殺する気か?」

驚いてそう言う俺の顔を、奴は初めて見つめた。

「 医者の馬鹿にはこう言った。」

奴は落ち着いて、至極まともに見えた。

「 俺は悪魔に魂を売った。
その返済が近づいてる。
返済を拒否してるから、俺は毎日責められてる。
どいつもこいつも同じ事を言う。
精神分裂病だとさ。」

奴は取り留めの無い話を始めた。
それをまとめるとこういうことだった。
 ある日、頭の中で声がした。

『 俺の言うとおりにしろ。
そうすれば、おまえの希望を叶えてやる。』

奴は最初その声を無視した。











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日々の恐怖 4月11日 再会(2)

2024-04-11 17:34:51 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月11日 再会(2)





 それから二年の月日がたったある日、俺はバイト先の古本屋で奴に再会した。
うだつのあがらない退屈な日々を過ごしていた俺は、時々奴のことを思い出していたのだが、
その再会は思いも寄らぬ事だった。
奴は深夜閉店間際に現れた。
 一目でその異様さに気が付いたが、それが奴だと分からなかった。
つるつる頭に銀縁めがね、白髪まじりの無精ひげ。
がりがりに痩せこけていた。

「 すいません、もう閉店なんすけど。」

俺は立ち読みに耽る奴に声をかけた。
顔の肌はアトピーで荒れ、眉毛は無かった。
それでもかすかに面影があった。

「 もしかして○○?」

思わずそう訊ねると、奴はあらぬ方をきょろきょろ窺いながら、
後ずさりするみたいに店を出て行った。
ショックだった。
あれが本当にあいつなら、完全に気がふれていると思ったからだ。
 その夜、複雑な気分のままバイトを終え、原付の置いてある駐車場に向かった。
シートからヘルメットを取り出そうとすると、不意に背後から声を掛けられた。
奴は自動販売機の影に潜んでいたらしい。

「 俺のこと分かるのか?」

突然のことで驚いたが、俺はすぐに気を取り直して答えた。

「 ○○だろ?」
「 本当にそう思うか?」

ああ、やっぱりこいつ頭がおかしくなってる。

「 中学からの付き合いだ。
忘れるわけないだろ。」









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日々の恐怖 4月6日 再会(1)

2024-04-06 14:28:15 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月6日 再会(1)





 かなり前の話になる。
ある日、俺は中高時代に友人だった男と二年ぶりに再会した。
まず、そいつのことを紹介しないと話は始まらない。
少し長くなるが、興味のある人は聞いてくれ。
 そいつと俺が通っていた高校は、まあ平凡な進学校というのか、
市内で五番目くらいのレベル、というと想像できるだろうか。
そんな高校の落ちこぼれグループに、俺とそいつはいた。
中途半端なヤンキーですらない、今思うと恥ずかしいツッパリみたいなものか。
くだらない事でいきがる、バカそのものだった。
 で、そいつは三年になってからがらっと人が変わった。
何があったのか知らないが、受験勉強に専念し始めた。
学校にいる間は、休み時間もずっと勉強していた。
俺らとの付き合いを一切断ち、傍から見ると呆れるくらい一心不乱に勉強した。
 成績も夏休み前くらいから急上昇し、ついに二学期は試験以外登校しなくなった。
そして、冬休み前の試験では、ついに学年トップになった。
教師も見てみぬ振りをした。
クラスからも完全に浮いて、机の上にはいつも花瓶がのっている有様だった。
 俺は密かに奴に憧れていた。
ストイックを通り越して狂っているようにも見えたが、絶対に中途半端ではなかった。
そんなことができる人間に、俺は畏敬の念を持っていた。
 やがて受験シーズンが到来した。
俺は市内の無名私立大に何とか滑り込み、あいつは有名国立大に合格した。
学校でもウン十年ぶりの快挙だった。
卒業してすぐ、みんな浮かれ騒ぎで夜の繁華街に繰り出す中、あいつは飲み会に一度も参加することなく、
誰の賞賛も受ける気はないらしかった。








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日々の恐怖 3月29日 鍵

2024-03-29 09:42:50 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 3月29日 鍵




 ある男性とのおつき合いが始まった頃、彼がアメリカに2週間程出張するというので、当時、
仕事もなかった私は、彼の三匹の猫の世話で、彼の家で2週間留守番することにしました。
でも、彼の家では前の奥さんが亡くなっていて、(もっとも、亡くなって7年ほどになりますが)
亡くなっているとはいえ、私が先妻の立場だったら、嫌なんじゃないかと思っていました。
 そして、アメリカに行く彼を見送った帰り、彼の家に戻ってほっと一息ついたとき、
ふと飾ってある亡くなった奥さんの遺影に、

「 私がここにいてもいいのかしらん?」

と尋ねました。
 次の日、買い物に行こうと玄関に置いてある鍵をみると、家の鍵だけがなくなっています。
車の鍵と一緒にコイル状の金具できっちり付いていたはずなのに見つかりません。
家中探しましたが、その日は結局見つかりませんでした。
 その時ふと思ったのです。
鍵がないということは、外には出られないということになります。
ということは、私はこの家に居なくてはいけないという意味に取れます。
そして、再び遺影に尋ねました、

「 私はこの家に居ていいのですね。」

と。
 その後、暇に任せて家中の大掃除をしていたとき、ゴミみたいな物の中に紛れ込んでいた
彼女の日記が見つかりました。
盗み見みたいですが、その時は自分の疑問の答えのような気がして読みました。
彼女は結婚後すぐから死ぬまで、他の男性を熱烈に愛していたようで、後半の日記には、
彼女の夫であるはずの彼の名前すら誤字で記されていたのでした。
なんだか、彼女に、

” 私の分まで愛してあげてね。”

と引導を渡されたような気がしました。
 その後、彼と結婚しましたが、私が家に来てから丁度一年後、いつも着ているコートのポケットから、
チャリンと消えたはずの鍵が玄関に落ちました。










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日々の恐怖 3月20日 石の家(3) 

2024-03-20 10:31:37 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 3月20日 石の家(3) 





 会社に戻るといきなり社長に俺たちは怒られた。
コウさんが激怒して会社辞めるって飛び出した。

「 お前たち何したんだ!」

って怒られたけど、俺たちに分かるわけがない。
だから社長に、

「 あの石のある蔵を壊そうとしたらコウさんは怒り出して、いきなり帰ったんでわかりません。」

て言ったら、社長は俺たちを突き飛ばすようにダンプに積んだ石の所に行って、

「 早くこれを運ばんか!」

って怒鳴り始めた。
 本当に訳がわからなかったけれど、社長の言う通りに応接間にその石を社員総出で運んだ。
そして社長は、それを応接間のソファーの上に置かせた。
それから暫くして、社長はその石にお茶を出したり話しかけたりするようになった。
俺たちと社長の息子は気持ち悪いと思ってたけれど、何も言わなかった。
 1週間くらいしたら、社長が突然、

「 息子に跡を継がせる。」

って言いだした。
 息子にしても本当に突然だったみたいで、会社はしばらくバタバタした。
しばらくろくに仕事できねえだろうなと思って、俺はバイトをしばらく休むことにして、沖縄に2週間旅行しに行った。
 帰ってくると会社はすっかり新体制で動いてた。
息子に、

「 社長は・・・・?」

って聞いたら、石と一緒に遠くの実家に行っちゃって、連絡しても満足に帰ってこないって言っていた。

「 あの石、やばいもんなのかな?」

って息子に聞いたら、息子もそう思ったらしくて、あの民家の近所の人に聞いたみたいだ。
 それによると、過去2人あの蔵で死んでるということを聞かされたと言った。
一人はその家のご主人、もう一人は全く知らないその街のものですらないオッサン。
二人共、事件性はなかったみたいだけど、って話だった。
 それから数ヶ月して俺もそこをやめちゃったから、その後前社長がどうなったかは知らない。
ただあれから10年以上たったけど、会社はまだ続いてる。
というか息子がうまくやったのか、新しいビルを建てるくらい儲かってるみたいだ。

” やっぱりあの石ってなにかヤバイ、もしくは不思議なもんだったのか・・・・?”

なんて、ふと思ったりする。








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日々の恐怖 3月14日 石の家(2) 

2024-03-14 21:28:15 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 3月14日 石の家(2) 




 興味の出た俺は、その家に入って社長たちを探すことにした。
門から入ると、母屋と荒れてはいるが広い庭。
そしてその庭の片隅には蔵が三つ並んでいた。
ちょうどそこに社長の息子の姿があったから、俺は蔵の方に歩いて行った。
 社長と息子がいたのは、三つの蔵のうち真ん中の蔵。
社長はその中にいたんだけど、その蔵の中が変わっていた。
その真ん中の蔵だけ正方形で、その中央に土俵みたいに円の形で、白い石が埋め込まれてて、
そのまた円の中央に、1m真っ角くらいの黒い石の板と、直径1mくらいの白い石の板が向かい合うように立っていて、
社長はそれをずっと眺めていた。
 俺は、

” モノリスみて~だなァ~、気色ワリィ~。”

としか思わなかった。

 その日はその家を調査して帰ったが、数日後すぐにその家の解体を請けることが決まった。
解体初日の朝、会社に集まると珍しく社長が出てきて俺たちに言った。

「 蔵にある石の板は、絶対に傷つけずに持って帰って来い!」

と言う訳で、俺たちは現場であるその家に向かった。
 木造の家屋なんて壊すの簡単なんだよ。
広い道と土地さえあれば重機で一気にやっつけちゃうんだけど、朝の社長の一言があったから、
真ん中の蔵には手をつけず、他のとこからバンバンぶっ壊していった。
 それで、数日たって真ん中の蔵ぶっ壊すかとみんなで中に入ったら、いきなりリーダーのコウさん(超マッチョな中国人)が、
蔵の外へ飛び出して吐き始めたんで、俺たちが、

「 どうしたんすか?」

って聞くと、

「 あの蔵、ヤバイよ、気持ちわるいよ。」

って言い出した。
俺たちは平気だし、やらなきゃ終わらねえから仕事続けようとしたら、コウさんは、

「 ヤバイから帰る!」

って、勝手にダンプの一台に乗って帰ってしまった。
しょうがねえから俺たちだけで壊して、例の石は養生してダンプに積んで持ち帰った。










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日々の恐怖 3月7日 石の家(1)

2024-03-07 09:43:03 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 3月7日 石の家(1) 





 昔、解体屋でバイトをしていた。
家屋を解体してると、いろんな変わった家もあるし、中から変わったもんも出てくる。
特に、山の方の古民家や古民家はアツい。
押入れの中に骨がギュウギュウに入ってたり、漆喰っていうか塗り物の壁の中に、長い髪の毛が入ってたり、家の真ん中に入口のない部屋があって、そこに小さい鳥居が立ってたり。
 結局は、何でもかんでも壊してダンプに乗せて捨てちゃうんだけど。
余りにも気味の悪いもんや縁起モンは酒と塩かけて、まあ結局は捨てる。
 そんな中でもある日、某渓谷のとある古くからの豪邸を壊す仕事を持ちかけられた。
そして俺は社長と一緒に運転手として下見に行った。
家の中の残置物とかの確認は、見積もりする社長とその息子が見るから、俺は車外でタバコ吸ってジャンプ読んでた。
 すると田舎に珍しい高級車が停まってるせいか、多分近所の婆さんが、

「 何しに来たのっ・・・?」

って、俺に話しかけて来た。

「 俺たちは解体屋で、この家を壊す下見に来たんだよ。」

と答えると、婆さんが、

「 ああ、この石の家を壊すんだねえ。」

って言った。
 見た目、普通の木造のでかい古民家だし、

「 なんで石の家なん?
医師の家?
お医者さんが住んでたの?」

と聞いたら、婆さんは、

「 いや、石があるんだよ。」

って言った。
俺は、

「 なにそれ?
壊すと祟られたりしちゃうの?」

って冗談で聞いたら、婆さんは、

「 知らないよ、ただ単に不思議な石があるみたいだよ。」

って笑って答えてくれた。










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日々の恐怖 2月28日 建物を間違えちゃったのかな?

2024-02-28 11:33:30 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 2月28日 建物を間違えちゃったのかな?





 不動産会社にいたときの話です。
入居して1ヶ月もしない入居者から、

『 この部屋、以前何かありましたか?』

とTEL。

俺:「 イイエ、特に何もありませんが。」

数日後、また同じ入居者から

『 本当に何もありませんでしたか?』

とTEL。
一応、先輩社員から確認したが特に何もないので、

俺:「 調べましたが、特に何もありませんでした。」

と返答。
またまた数日後、入居者から、

『 一度きてください、絶対なにかあります。』

俺:「 では近くに行ったときか、時間ができたら伺います。」

でも、どうせ池沼のクレーマーだと放置。
またまた、数日後、

『 あんた来てくれるっていたじゃないか!』

ってお怒りモード。
少々お怒りなので詳しく話を聞くと、特に浴室、

『 暖かい風呂に入っていても寒気がする。』

とのこと。
 まぁ、怒らせても余計面倒くさくなるので、訪問日時を設定。
訪問前に再度色々調査したが、特に何も無し。

 で、約束の日時に訪問。

入居者:『 お忙しいのにわざわざスミマセン。』

何だ普通に良い奴じゃん・・・・。

俺:「 じゃぁチョットお邪魔しますね。」

 再度調査したが何も無いことを伝えて、クローゼットの中はもちろん色んな所を調べるが、特に変わった箇所も無し。(お札とかも無かった)
そして、入居者が、

「 特に浴室が・・・・。」

って言うので調査のため一歩踏み入れたら、換気扇は回していないし、窓が無いUBなのにヒンヤリした感じ。
UBで調べる所といえば天井の点検口のみ。
 で、点検口をずらして見てみると、俺も、

「 ウォッ!」

って声にならない声を出してしまった。

UBに点検口があるマンションに住んでいるアナタ!
一度調べてみては如何ですか?

 上階との隙間にある配管に数本のネクタイが、首を吊れる感じでキツク結ばれて垂れさがっていた。
バスタブの縁に立って、その輪に首を入れてバスタブの縁から足を外したら良い感じだった。
取り合えず、そのネクタイを全部外して、敷地内のゴミ捨て場に捨てた。
それ以来、入居者から電話が来なくなった。

追記:前入居者が他で自殺したとかは、未確認。
で、俺が対応したその入居者も、それから半年か1年以内ぐらいだったかな?
荷物を全て残していなくなった。(これ本当)
家賃未納で、俺がその部屋に実際に確認に行ったから。

” あっ!この部屋って、あの時のっ・・・!”

て、部屋の前に行ってから思い出した。
 ここは、数棟同じ様な建物が並んでいて(デザインや築年同じ)、違う棟だが数年前に焼身自殺がありました。(これ本当)
そして、部屋の号数が同じ。
建物を間違えちゃったのかな?











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日々の恐怖 2月22日 佐藤さん 

2024-02-22 14:06:33 | B,日々の恐怖






 日々の恐怖 2月22日 佐藤さん 






 親父から聞いた話です。
親父が大学3~4年の間、男3人で小さくて古い一軒家を借りて住んでいた。
 といっても、家賃をちゃんと払ってるのは親父と鈴木さんだけ。
もう一人の佐藤さんはあまりにも貧乏なので、居候させる代わりに家の掃除、
ゴミ出しなどをやってもらうことにしていた。
親父と鈴木さんは、佐藤さんの困窮ぶりを助けてやろうということだったようだ。
 間取りは3LDKで、LDK6畳・6畳・6畳に4畳半。
佐藤さんが4畳半。
この佐藤さんの4畳半に出た。
 親父も鈴木さんも何度も見たのが、恨めしそうに正座する白髪の老婆。
出るタイミングも朝昼晩関係なし。
多い時には一日に三回くらい見る。
 4畳半の襖が開いている時、何気なく目をやると、中に白髪の老婆が恐ろしい形相で正座している。
来客の中にも見た人が5人ほどいたらしい。
 ところが、その部屋で寝起きしている佐藤さんだけは、老婆の幽霊を見ない。
親父と鈴木さんが、

「 佐藤、変なもの見たことないか?」

というと、佐藤さんはきょとんとするばかり。
 引っ越して1ヶ月し、親父と鈴木さんが黙っているのも悪いと思って、老婆の幽霊を佐藤さんに話した。
すると、佐藤さんは、

「 う~ん・・・・・。」

と考えてから、みかん箱を部屋の中に置いて、上にワンカップを置いて、

「 先に住んでいるおばあさん、ごめんなさい。
でも、俺は貧乏だから、どこにも行き場がない。
だから、申し訳ないけど、大学を卒業するまでは、この部屋に住ませてもらえないでしょうか?
毎日お供え物をするのは無理だけど、田舎からお茶とお米だけは送ってくるので、それだけは供えます。
バイト代が入った時には、お花を一輪と、ワンカップをひとつ買ってきます。
どうか、よろしくお願いします。」

親父と鈴木さんは、

” なに、やってんだろうな、こいつ・・・・・。”

と思ったが、佐藤さんが真面目にやっていたので、一緒にそのみかん箱に頭を下げた。

 以来、老婆の霊は出なくなった・・・・、わけではなかった。
相変わらず、老婆の霊は出た。
しかし、佐藤さんがみかん箱に毎日お茶を置き、ご飯を炊いたら一膳のせを繰り返しているうち、
1ヶ月ほど経ったら老婆の霊は、痩せこけた恨めしい姿から、ふくよかな微笑みをたたえた表情になっていった。
ただし、やっぱり佐藤さんにだけは見えなかったらしい。
 やがて親父たち3人は就職試験を受け、それぞれが望む職に就き、引っ越す日が来た。
遠方に住む大家さんに話をすると、親父たちが引っ越したらその家は取り壊してしまう予定だから、
特に大掃除などはしなくていい、という。
それでもやっぱり2年間お世話になった部屋だからと、最終日それなりに掃除を済ませると、もう夜中になっていた。
 3人が最終電車に間に合うようにと玄関を出て、最後に揃って振り返ると、佐藤さんが、

「 あっ!」

と声を出した。

「 お前らが言っていたおばあさんって、あの人か?」

” やっと佐藤にも見えたか!”

と、親父と鈴木さんも見たが、おばあさんはどこにも見当たらない。

「 ほら、あそこ。
俺の部屋で手を振ってるよ。
ありがとう、おばあちゃん!」

そして、親父と鈴木さんが見えたのは、家の屋根からスゥーと上っていく人魂だった。
人魂は、佐藤さんには見えなかったのが不思議です。
今から30年前、東京都板橋区でのお話でした。













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日々の恐怖 2月11日 町内会長

2024-02-11 12:45:16 | B,日々の恐怖






 日々の恐怖 2月11日 町内会長






 23区内私鉄沿線住宅地での話。
10年ぐらい前に爺さん地主が死んで、50代の息子夫婦が越してきた。
越してきて1年ぐらい経ってから、奥さんの姿が見えなくなり、一人残された旦那の奇行が始まった。

・一日中、隣近所に聞こえるような大音量でクラシック音楽(主にベートーベン)を鳴らし続ける。
・庭に裸のマネキン人形を運んできて並べる。そして、金色に塗りたくってライトアップ。
・昼間は冬でも海パン一丁でベランダに出て、不思議な体操を何時間も踊り続ける。
・隣近所に対して罵声を浴びせまくり、洗濯物にホースで放水。

 うちの家からこの地主の家は良く見える位置にあったんだが、しょっちゅう隣近所からの通報でパトカーが来ていた。
そんな日々が3~4年続いて、ある日、迷惑行為がプツリと止んで、息子の姿が見えなくなった。
クラシック音楽だけは同じ曲がエンドレスで鳴り続けていたが、3日めに警官が乗り込んだところ、部屋の中で死んでた息子を発見、
パトカーが3台ぐらい来て捜査。(うちにも警官が事情聴取しに来た。その後、餓死なので事件性なしとされたと、町内会長から聞いた。)

 事件後3ヶ月ほどしてから、深夜に便利屋が家の中のものを何回かにわけて運び出す。
リフォーム屋が来て、外装を一新。
直後に50代夫婦が引っ越してくる。(この夫婦は地主一族とは全く無関係で、不動産屋から紹介されてきただけ。町内会長談)
とても穏やかなご夫婦で、近所にもきちんと挨拶をする常識的な人たちだった。
 引っ越しから半年後、また元地主の家からクラシック音楽が聞えてくるようになる。
この頃には夫婦の表情がおかしくなっていた。
奥さんはボサボサの髪の毛でブツブツ言いながら歩き、旦那さんは会社を辞め、庭を上半身裸でウロウロ歩き回り続ける。
引っ越してきてから1年ぐらいで息子夫婦がやってきて、夫婦を無理矢理連れ出す。
 その後、空き家に。
近所で”あの家は呪われてる”決定。
ずっと空き家になったまま放置され続ける。
空き家なのに、クラシック音楽が家から聞える怪異が何度かあった(お隣さん談)。

 一昨昨年、この空き家と近所一角をまとめて不動産会社が買い上げ、高級低層マンション建設計画が持ち上がる。
夏頃に一角は更地になったが、その後、リーマンショック。
建設計画白紙。
 1年ほど塩漬けにされてたが、不動産会社が代わり、建て売り住宅として工事再開。
問題の跡地工事中に相次いで事故発生。
大工さん2人が重傷。
工事一時中断。
中断中、マイクロバスに乗った15人ほどの謎の集団が訪れる。
巨大な護摩壇のようなものを設置し、数時間祈祷。(なぜか、町内会長も出席させられる)
その後、工事再開。
事故もなく無事に建て売り住宅完成、売り出し後は即完売。

 以下、町内会長によるお話。
地主一族は御稲荷様を信仰していたのだが、爺さんが死んでから、きちんと継承していなかった、と。
その後、何も事件は起きていません。
ちなみに、町内会長とは、同じ町内に住むうちの爺さんです。











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日々の恐怖 2月1日 服 

2024-02-01 09:39:44 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 2月1日 服  





 知人の祖母・Nさんが若い頃体験した話だ。
Nさんにはお気に入りの服があった。
生成り地に小花が少し刺繍された、可愛らしいデザインのワンピース。
 Nさんはその日も、お気に入りのワンピースを着て買い物に出かけた。
そして帰宅後はすぐに着替え、ワンピースをハンガーに通して鴨居にかける。
湿気を飛ばしてからしまう為だ。
そうしている内に、外出の疲れからか、ついうたた寝をしてしまったのだそうだ。
 しばらくして目が覚めたNさんは、ぼんやりとあたりを見回した。
すると、鴨居にかけたワンピースが、風もないのに揺れているではないか。
不思議に思い目をこらすと、裾から見え隠れする物がある。
生成りのワンピースより、もっと白い何か。
 それは音もなく降りて来た。
人の爪先であった。
凍りつくNさんをよそに、白い脚はゆっくりと降りて来て、その姿を現して行く。
爪先から甲、くるぶし、ふくらはぎ。
だがいつまでたっても膝は見えず、それが更に不気味だった。
 とうとう、力なく垂れた足先が床まで届いた。
その途端、脚全体がぐにゃりと曲がった。
まるで飴細工の様だったという。
 脚はなおも伸び続け、白く長く、畳に二筋のとぐろを巻いている。
これは一体何なのか。
恐る恐る視線を上げたNさんの目に飛び込んで来たのは、今まさに、ワンピースの襟元から出て来ようとしている、真っ黒な頭だった。
Nさんは我に返り、這う様に逃げ出したという。
このワンピースは、結局捨ててしまった。











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日々の恐怖 1月25日 足(2)

2024-01-25 10:16:25 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月25日 足(2)





 同じ先輩がやはり小学4年生晩秋の頃に体験した話です。
その日は風邪気味で学校を休んでおり、自宅の2階にある自室で布団にくるまっていた。
ぼんやりとベッド横の窓から外を眺めていると、家の前にある道に、
喪服のような黒い服と帽子をまとった髪の長い女性が、俯いて立っていることに気がついた。
 何故かその女性のことが気になり、彼女はベランダに出ていった。
なぜそのようなことを考えたのか、後になって振り返ってみてもよくわからないという。
 すると彼女がベランダに出ると同時に、その女性がふっと顔をあげた。
その顔は雪のように白かった。
比喩ではなく本当に肌が真っ白だったのだ。
 そしてつぶやいた。
そのつぶやきは離れているはずの彼女にもはっきり聞こえたという。

「 足が欲しい。」

気がつくと彼女は部屋で倒れていた。
時計をみると気を失った時から2時間ほどたっていた。
 ちなみに、その先輩は今でも五体満足で生活している。
また20数年の人生の中で、手足を失うような病気や事故が起きたこともないという。
彼女が幼い頃に遭遇したものがなんだったのかは未だにわからないそうだ。









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日々の恐怖 1月21日 足(1)

2024-01-21 10:40:59 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月21日 足(1)





 大学時代、一つ上の先輩(女性)から聞いた話です。
小学4年生の夏頃、学校から帰るときいつもある脇道からでてくる中年の男性がいた。
しかも常に彼女がその脇道を通りかかる時に出てきてぼんやりと立っていたという。
幼心ながら不気味に思っていた先輩はそのことを母親に相談した所、しばらく車で送り迎えをすることになった。
 1ヶ月ほど車で送り迎えを行った後、もうそろそろいいだろうと言いことになり再び徒歩での登下校になった。
そして実際、それからしばらくは何も無かった。
 しかし、その男は再び現れた。
彼女がいつものように帰り道を歩き例の脇道にさしかかったときだった。
ヌッと誰かが脇道から出てきた。
あの中年の男だった。
そしていつも黙って立っているだけだった男は、彼女の方をみてこう言った。

「 足が欲しい。」

気がつくと彼女は自宅の前にいた。
しかも、その間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。
それ以降、その男には一度もあっていないという。

「 そういえば、そのおっさん、腰から下がどんな風だったか、全然思い出せない。」

先輩は話の最後にそう語った。









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日々の恐怖 1月14日 輸入雑貨(3)

2024-01-14 19:36:02 | B,日々の恐怖






 日々の恐怖 1月14日 輸入雑貨(3)






 しかし、俺の主張に彼女は難色を示した。

「 あれが原因とは限らないじゃん。
違ってたらもったいないもん。」

どうしても捨てるのは嫌だと言う彼女と折衝を重ねた結果、とりあえず何日か俺が預かってみることで話が付いた。
俺はネックレスを持ち帰り、彼女がしていたようにベッドの脇に置いて眠ってみたが、特に悪夢は見なかった。
 だが、彼女の方は効果覿面だった。
ネックレスを手元に置かなくなってから、悪夢を見る事がなくなったのだ。
明らかな変化に、今度は彼女の方から処分を頼んできた。
 彼女は俺が鈍感だから影響を受けないのだと茶化したが、

「 だからって普通に捨てたりしないで、ちゃんとした人にやってもらってね。」

と俺の身を案じてくれた。
俺は彼女の言葉に従い、神社で禰宜をやっている知人に処分をお願いした。
そのネックレスを見るなり、知人は、

「 あ~、多分、これ遺品。」

と言った。
詳しく話せと言われて経緯を話すと、

「 なるほどね。」

と頷かれた。

「 前に似たようなの預かった事があって調べたんだけど、アフリカとかの貧困地域だと死者の遺品は遺族の大事な収入源なんだよ。」

宗教観もあるのだろうが、手元に置いて故人の思い出に浸る事よりも、明日ご飯を食べる事の方がよほど大事なのだろう。
 そんなわけで、遺品を安く買い取って物価の高い国に持ち込んで売ってるような露店ってのは結構あるそうだ。
最近だとネットオークションにも多いらしい。
一応、

「 俺が影響を受けないのは、鈍感だからですか・・・?」

と聞いたら、

「 それもあるかもしんないけど・・・・。」

と大笑いされた。

「 まぁ多分、女性の方が影響受けやすいんじゃないかなぁ。
何かが憑いてるというより”念が残ってる”って感じなんだけど、そういうのは女性の方が感じやすいし。
それに、これは女性の持ち物だっただろうから、同性の方が思いを共有しやすいのかもね。」

モノが手元を離れれば問題ないとのことだったので、ネックレスだけ供養してもらうことになった。
 かくしてアフリカの遺品ネックレスは、遥か極東の神社でお焚き上げ供養を受け、天へと還った。
輸入雑貨が持て囃される昨今だが、出処のはっきりしない物を買うということのリスクを痛感した出来事だった。












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日々の恐怖 1月6日 輸入雑貨(2)

2024-01-06 14:47:28 | B,日々の恐怖






 日々の恐怖 1月6日 輸入雑貨(2)






 結果的に上手く騙されたような気がしないでもなかったが、
彼女はああいう妙な小技を瞬時に繰り出せるほど器用なタイプではない。
あの時の嫌な感じはただの気のせいだと自分に言い聞かせ、

「 今後、記念日は月一回だけな。
それ以上は認めん!」

と彼女を小突いた。
 夕食を摂ろうと入ったレストランで、注文の品が来るまでの暇つぶしに、
彼女はさっきのネックレスを取り出し、さっそく首に掛けた。

「 どう?似合う?」

と笑ってみせる彼女は実に嬉しげだったのだが、胸元にかかったそのネックレスをまじまじと見直してから、

「 あれ・・・・?」

と首をかしげた。

「 なんか思ったより地味。
こんなだったっけ?」

そのネックレスはバッファローの角を楕円に削った黒と白の大きなビーズの間に、
緑と黄色の小さなガラスビーズが交互に挟まれているだけのシンプルなデザインだった。
確かに、これ以外で彼女が手に取っていたのはもっと派手なものばかりだったので、
俺も彼女がこれを選んだ時は意外に思ったのだ。

「 じゃあ、返品して他のに変えてもらわない?」

怖がらせたくはなかったので理由は明かさず遠回しにそう聞いてみたのだが、彼女の答えは、

「 う~ん、まぁシンプルな方が使い回しもきくし、これでいいよ。」

だった。
まあ、変な感じがしたのはあの時だけだったし、たいして気にするほどの事でもないかもしれない。
ちょうど頼んでいた料理が運ばれてきたのもあって、俺達はそこで話を打ち切った。

 その夜、彼女の部屋で眠っていると、夜中に彼女が突然ガバッと飛び起きた。
その気配につられて俺も目が覚めた。

「 何、どうしたの?」

眠い目をこすりながら彼女に尋ねると、彼女はしばらく俺の顔を見つめてから、

「 ・・・・なんだっけ?」

と訳の分からない質問で返してきた。
聞けば、怖い夢を見て飛び起きたのだが、内容をすっかり忘れてしまったのだという。
ああそう、と速攻で寝直す体勢に入った俺は、彼女にぶーぶー文句を言われながらも眠りに落ちていった。
 それからほぼ毎日、彼女は悪夢にうなされるようになった。
目が覚めるといつも内容を忘れているのだが、泣きながら目覚めることもあった。
あのネックレスが怪しいと思った俺は、あの日感じた不安をついに彼女に打ち明けた。

「 だからさ、やっぱ捨てたほうがいいって。
あれ買ってからじゃん、うなされるようになったの。」













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