吾輩は犬である。名前はフラッシュ

 

フラッシュ:或る伝記 (白水Uブックス)
 

 

『フラッシュ:或る伝記』ヴァージニア・ウルフ著 出淵敬子訳を読む。
飼い主である女性詩人エリザベス・バレットと愛犬コッカー・スパニエルのフラッシュの物語。
 
冒頭はコッカー・スパニエルの出自の歴史。フラッシュは猟犬として優れた血統の犬。
どんな犬?
 

「フラッシュは普通の犬ではない。元気いっぱいだが、しかも考え深く、
犬でありながら人の感情にもすこぶる敏感だった」

 

「1842年」フラッシュはバレットと出会う。

犬目線で飼い主である人間の行動やたてまえと本音、当時の社会や男女問題などを
戯画的、風刺的に書かれている。犬は見ていた、犬は知っていた。
これが通常の人目線だとリアル過ぎて辛くなるかもね。
 
犬の気持ち、犬の習性や特性、さらに犬語翻訳機「バウリンガル」では伝わらない
フラッシュの心情までも細やかに描かれている。
たとえば犬の嗅覚。人間の嗅覚の100万~1億倍と優れているそうで、
ご主人の部屋にどの男が来たのかわかってしまう。
犬だったら部室や更衣室は耐えられないだろう。
 
フラッシュの思いと飼い主の思いの違い。
ご主人は猫の目のように気分が変わり、それに翻弄されたり。
 
ある日、フラッシュが誘拐され、スラム街に幽閉される。
そこで見たやせ衰えた犬たち。身代金目当てでいい犬たちはさらわれた。
なんとか奪還しようと男とて寄付きたくない魔窟へ乗り込むご主人様。
ディケンズの小説でおなじみの貧民街の描写がリアル。

父親の反対を押し切って、彼女はイギリス・ロンドンからイタリア・フロレンスへ駆け落ちを決行する。
フラッシュも同行。イタリアの地を踏む。
人も犬もカルチャーショックを受ける。
 
フラッシュの感想。
イギリスは犬種がきちんとしている。純血種がほとんどで、階級社会。
さすがアングロサクソン
イタリアはミックスの犬が多いとか。なんつーかおおらか。
さすがラテン系。
 
食べ物や治安などなど数々のイギリスとイタリアの比較文明論が楽しい。
フラッシュにも恋人ができるし。
イタリアで彼女は元気になって子どもを産む。
再びイギリスへ。

「フラッシュはいまや老犬になりつつあった」

 最後のシーンが胸に迫る。

ぼくの場合、頭に浮かんだのは、犬ではなく飼っていた黒猫だけど。
犬愛にあふれた作品。犬好きはもちろんぼくのような猫好きにも。

蛇足:名匠ジェームズ・アイヴォリー監督で映画化という話はなかったのだろうか。