哲学の科学

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私はなぜマスクをするのか(6)

2020-06-13 | yy73私はなぜマスクをするのか

人間は身体にかかわる物体を介して現実を認知する(二〇一三年 ランブロス・マラフーリス Lambros Malafouris「物体はいかに心を形作るか?How Things Shape the Mind: A Theory of Material Engagement」)。常時身に着けるマスクというものは自己と世界との関係認知に影響をおよぼさないでしょうか?
マスクをしたお母さんがベビーカーを押して歩いています。全員マスク姿の大人たちを見ながら育つ子供たちはふつうに発達できるのでしょうか?
口が見えないと表情がよく分らない。子供は周りの人の表情を見て感情を認知し他人の心を感知できるようになります。幼児が現実世界を理解できるようになるには人の心を読み取ることが不可欠です(拙稿19章「私はここにいる」)。この機会に、全員マスク現象に関する発達心理学の研究を取り上げる学者が現れてほしいものです。

顔(の半分)を見せない布あるいは不織布。どうしても自分を隠したがっている、という印象がしてしまいます。四六時中つけているとマスクが顔の肉になってしまわないか、心配です。嫁を脅すためにつけた般若の面が肉からとれなくなった姑の伝説(越前吉崎観音の霊験譚)があります。

マスクはラテン語mascaから派生した英語maskが明治期に輸入された外来語ですが、いまや完璧な日本語です。マスキング・テープは塗装の飛沫をカバーするもので、この用法が現代日本語のマスクに近い。外来語の常で原語のmaskには、日本語のマスクよりずっと広い用法があって、たとえばハロウィーンマスクというと骸骨のお面などです。能面もNoh mask。
今次パンデミックで各国のリーダーは「Wear a mask(マスク着用)」と訴えだしましたが、これはふつうのコンテキストでは「猫を被れ」という意味になります。ちなみに昔の日本語では覆面という正確な語がありました。覆面パトカーなどに原義が遺っていますね。
西洋人の持つマスク概念はこの覆面でしょう。覆面パトカーとか覆面強盗とか、猫被りとか、けしからん、ずるい奴、嫌われ者のイメージです。自分がするのは嫌なはずです。米国の大統領は、反科学主義者と批判されながらもマスク着用を拒否しているようですが、保守的な大衆感覚を頑固に遵守する政治家として自己イメージを守っているのでしょう。









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