人気blogランキングは? どんな衝動にかられてか、鏡を見つめる女を、その肩ごしに盗み見る…視線の気配を感じた女が、鏡の中でポッと頬を染めて羞じらうように微かに揺らぐ…そんな女の風情に私は魅せられ惚れてきた。
 欲を言うと、ちょっと醜女(しこめ)っぽい方が、揺れる女心が浮き沈みしているような、素のままの女を感じてしまう。…断っておくが、私にはストーカー的性癖は全くない。もちろん、これは、我が美醜は棚に上げての話である。 
 つまり、自らを「美女」と思っているような女は、鏡に向かって、初めから答えの分かった「世界で一番美しいのは誰?」なんて高慢な愚問を投げかけているようなところがあって、興ざめで鼻持ちならない。…ときにハリウッドのあらん限りにきらびやかな映画より、インディーズの貧乏っぽいギクシャクした拙いつくりの方に、不思議な魅力を感じてしまうのは、人は本能的に、噓っぱちとホントの匂いを嗅ぎ分けているからではないのか。
 そもそも、この前説は、私自身が恐る恐る鏡をのぞき込むのが、このところ、朝のはじまりになっているからで…寄る年波に歴然と刻み込まれた自らのエイジングなんてのは、正直何ほどのことはないのだが、恐いのは、そこに異形の“私”が、ニヤリと笑って饒舌にしゃべり出す瞬間があることだ。まッ、異形と言えば、人は、なぜこんな形をしているのかこそが、不思議でならないのだが…。
 「一体どこのどいつだ!」って、私のいる、こちら側を見回してみるのだが、もとより誰もいない。これはきっと、鏡を見ている私を、私の背後から盗み見ているヤツがいるに違いない。もしかして、ヤツこそ“私”なのかもしれない…しかも、ヤツは、恐らく私の「正体」を知っている。
 時というのは、やり過ごした側から来たるべき方向へと空間をたぐりこみながら流れているわけで、何かちょっとしたきっかけ(次元のゆらぎのような)さえあれば、例えば誤作動で巻き込まれていくビデオテープが、スルスルと逆回転を始めるように…、時を遡ったりも、今の私には、さほど難しくはないように思える。
 タブレット純が「巻き戻せるなら巻き戻したい」と、願望を唄ったけれど、私は、それは可能だと頑なに信じている。
 現に、あたかもそのような具合に、体内のどこかに取り込んできた“過去の時”を、私は過ごしたりもしているのだから…。決して白昼夢などではなく、いわゆる夢とも違う感覚である。「デジャヴ」といえば、うん、それがもっとも近い感覚かもしれない。
 恐らく、ヤツである“私”は、ちょっと格好良く言うと「時の旅人」に違いない。
LA-HOKI ところで、LAの“パブクラブHOKI”で過ごした「時」も、“私”にしてみれば、なんだか「メビウスの帯」のような具合に、明らかに「今」なのである。
 LAにはちょっと不向きなBALLYのブーツを履くと、ブルージーンズに白いTシャツ、薄いアンコンジャケットを羽織って、ホテルの一室をいそいそと出る。ウェラコートの中庭を、靴音高くスター気取りで横切り、待ち受けていたように開くエレベーターに乗り込む。
 窓のイラストレーション(ホキにと和田誠さんが描いた)を、乾いた日差しが微かに浮き上がらせる頃、耳元で囁くバッカスの誘惑に私は抗うことができないのだ。
 ホキとオスミ、そしてボブさんたちもいたっけか…私の部屋で飲み明かしたはずなのに、昼下がりには、すっかりアルコールは抜けて、さわやかである。
 入ってすぐの、カウンターに座ると、バーテンダーのケイスケが、要領よくグラスにビールを注いでくれる。
 いつとはなく、女の子たちが集まってきて軽やかに会話が弾む…。
 そんな私に、「あなたは、これからどんな風になるのかしら…」ホキは、ちょっと不満のニュアンスを含ませて言う。
 私は、口元でキュッと結んだ笑いに矜持を含ませてホキに返す。
 すると、あたかも「これから」が裏返って繋がるように、私は、ズドンと「今」に落ちる。
 鏡の中の私に重なるような具合に、ニヒルな笑いを浮かべている異形の“私”が、そこにいる。
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