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   われわれは生まれ出ようともがきながら死ぬのだ。
   われわれはこれまでも存在したことはないし、現在も存在していない。
   つねに、何かになる過程にあり、つねに孤立し、つねに切り離されている。
   つねに外側にいるのだ。(ヘンリー・ミラー「梯子の下の微笑」 大久保康雄訳)

夢を 見た 海辺の廃屋に 女と隠れ住んでいる夢だ
私は 逃げている 時が過ぎ去っていくことを ひたすら願っている 空に舞い 無になり 消える 瞬間が 訪れることを 
にび色の海から きりたった崖をつたい上って 這うように吹いてくる湿った風が 窓の木枠の隙間をすり抜け 薄汚れたガラスを微かに震わせ 音を立てる
部屋を満たしている女の温もりが 揺れる
私の乾いた表皮に じっとりとまとわりつき 私の輪郭を悟らせる
觔斗雲に乗った 潮の香り 
Henry Miller「嵐が来るんだ」
「思うつぼね」
 くぐもった女のつぶやき
「いつもあなたが願っていたとおりになるの」
「願ったことなどありはしない」
「成り行きとでも言うつもり」
「動かされただけさ」
「何に」
「時にさ」
「時」
「そうさ時に」
女は ことばを継げないまま 不満げに下半身をくねらせ 秘やかなものを開く
露出した白い臀が ドロリとしたたり落ちる紅色の血の中で 艶やかに輝いている
指先で慰めると、とめどなく体液をほとばしらせ 私の嗅覚をいつものように刺激する
甘美な空間を包み込んでいる漆黒の闇
私は闇の中で 頭を抱え込み ひたすら待っている 青い閃光が一筋
まるで生きる糧を手に入れた者のように 私は 窓際に行き 目をこらす
やがて 夜が明け 海をカンバスにして 嵐が 墨色の絵を描きはじめる
しかし 私は廃屋から動かない ただ 時が 私を 運んでいる

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