文豪・泉鏡花×球体関節人形 ~迷宮、神隠し、魔界の女~ | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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この夏、弥生美術館で開催されているのは、
”文豪・泉鏡花×球体関節人形 ~迷宮、神隠し、魔界の女~” というちょっと妖しげな展覧会。




独特な文体と幻想的な世界観で近代小説史に異彩を放つ小説家・泉鏡花、
その作品に登場するヒロインたちを球体関節人形で表現するという斬新な展覧会です。
制作したのは、球体関節人形の草分け的な存在である吉田良さんと、彼の指導を受けた作家たち。
すべて、この展覧会のために制作されたオリジナルの人形です。


例えば、こちらは、泉鏡花の代表作の一つ 『高野聖』 の世界観を、吉田良さんが人形化した作品。


「高野聖」泉鏡花/作 吉田良/人形、写真


主人公の若い僧を誘惑する美女がモデルです。
小説を読んだ方はご存知でしょうが、
この美女の正体は、旅人たちを動物に変えてしまう魔性のもの。
吉田さんの球体関節人形は、それを見事に表現していました。
見目麗しくて、官能的。
少しだけはだけた肩に、思わずドキッとさせられます。
しかし、目を覗き込むと、その奥に不気味な光が宿っていました。
「この世のものでない!」 と本能的に直観。
“蛇に睨まれた蛙” 状態となりました。
(↑あ、蛙に変えられてしまいましたね)

冷静に考えれば、人形なわけですから、この世のものではないのですが。
「この世のものでない!」 と感じたということは、
逆説的に言えば、それだけ血が通った人間のように感じられるということ。
特にそう感じたのは、愛美さんが 『琵琶伝』 をモチーフに制作した人形です。


「琵琶伝」泉鏡花/作 愛実/人形 吉田良/写真


『琵琶伝』 は読んだことがないのですが、なかなかに衝撃的な物語。
主人公のお通は、陸軍尉官の近藤と結婚する。
しかし、お通には、謙三郎という相思相愛の男がいた。
ある日、徴兵されることとなった謙三郎は、一目会いたいとお通のもとへ。
ところが、近藤に幽閉されていたお通には会えず、
さらに、脱営などの罪により近藤に捕らえられてしまう。
謙三郎との仲を知っていた近藤は、お通の目の前で謙三郎を銃殺刑に。
お通は生きる気力を失ってしまう。
その一か月後、お通が謙三郎の墓を訪れると、そこに近藤が現れる。
そして、謙三郎の墓を蹴り飛ばし、唾を吐きかけたのであった。
それを見たお通は、ついに怒りが爆発し、近藤の喉笛を食いちぎったのだそうな。
人形で表現されているのは、まさに、その後のお通。
生きているのに死んでいるような表情。
一線を超え、人間ではなくなってしまったかのような表情が、絶妙に表現されていました。


ちなみに、お恥ずかしながら、人形に疎いため、
球体関節人形=リアルな人形とばかり思っていたのですが。
展覧会に出展されていた球体関節人形の数々を見て、認識を新たにしました。
SFチックなタイプの球体関節人形であったり、


「夜叉ヶ池」泉鏡花/作 橘明/人形 吉田良/写真


ファンシーなタイプの球体関節人形であったり、


「茸の舞姫」泉鏡花/作 ホシノリコ/人形 吉田良/写真

 
いろんなタイプの球体関節人形がいるのですね。
今日の今日まで僕の中で、球体関節人形とラブドールが、ごっちゃになっていました (恥)。

作風として、個人的に一番惹かれたのは、三浦悦子さん。


「化鳥」泉鏡花/作 三浦悦子/人形 吉田良/写真


どこかヤン・シュヴァンクマイエルに通ずるようなところもあり。
どこかムットーニさんに通ずるようなところもあり。
けれど、どの作品も、他のアーティストとは決定的に違う唯一無二の世界観を確立していました。
彼女の作品そのものが、1篇の小説のよう。
物語が紡がれているかのようです。
観る、というよりは、読む人形作品でした。


さてさて、弥生美術館と言えば、挿絵をテーマにした展覧会を多く開催してきた美術館。
今回の展覧会にも、鏑木清方や小村雪岱らによる、泉鏡花の小説の挿絵ももちろん紹介されています。
同じ小説でも、挿絵と球体関節人形とで、
これほどまでに表現が違うものなのかというのを見比べてみるのも、また一興。
チャレンジングながらも、決して単なるイロモノではない展覧会でした。
星星




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