デュオ・クロムランク モーツァルト フラグメント集(1984.9&1988.7録音)

モーツァルトが書き散らした、というより、楽想を得ては完成されず、結果そのままになってしまった断片を集めた音盤。短いものでわずか14秒、長いものでも5分28秒、合計40曲という代物。しかし、モーツァルトの音楽はどんなものも飛び抜けた生命力と喜びが宿る。
やっぱり彼はもっと生きたかったのだろうと思う。

1994年7月某日、デュオ・クロムランクの二人が、ブリュッセルで心中したというニュースに僕は衝撃を受けた。あの可憐な、そして弾けるモーツァルトの小品を表現した二人が、またブラームスの濃厚な、そして枯れた交響曲を、透明感をもって見事に演奏した二人が、理由が何であれ自ら命を絶ったのである。

モーツァルトはわずか35歳でこの世を去った。
彼が遺した数多の音楽は、今も世界中で聴き継がれる。その意味で、モーツァルトは今も生きている。デュオ・クロムランクもまた、彼らの録音を通して永遠だ。何だかとても哀しいモーツァルト。それは、まるでデュオの悲惨な末路を予言するかのような断片ゆえなのか。

モーツァルト:フラグメント集(1984.9.11, 13 & 1988.7録音)
・2台のピアノのためのグラーヴェとプレストK.Anh.42(375b)(1782)
・フーガハ短調K.Anh.39a(K6 626b/27)(1780代)
・ピアノ小品集ト長調
・サラバンド
・フーガト短調K.154(385k)
・2台のピアノのためのアレグロハ短調K.Anh.44(426a)(1783.12)
・ソナタ断章ハ長調(1771)
・フーガ変ホ長調K.153(375f)
・モルト・アレグロト長調K.72a(1770.1.6)
・フーガト長調K.Anh.41(375g)(1776/77)
・前奏曲K.624(626a)
・フーガK.401(375e)(1782)
・ソナタ断章ト短調K.312(189i, K6 590d)(1790/91)
・アンハング(追加)・ソナタK.357(497a)(1786)
・アンダンテ
・2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ変ホ長調(1781秋)
・ピアノ小品変ロ長調K.9b(5b)(1764)
・ピアノまたはオルガンのためのアダージョニ短調K.Anh/34(385h)
・ソナタ断章ニ長調K.284(205b)
・フーガニ短調
・運指練習曲K.626b/48(1780代)
・2つのコントラプンクト(対位法)的スケッチ第1番変ホ長調&第2番ハ短調
・ピアノ小品変ホ長調
・2つのフーガ変ホ長調
・ソナタ断章変ロ長調K.400(372a)
・ソナタ断章変ロ長調K.Anh.31(569a)(1787&89)
・ソナタ断章ヘ長調K.Anh.29(590a)(1787&89)
・ソナタ断章ヘ長調K.Anh.30(590b)(1787&89)
・ソナタ断章:ロンドヘ長調K.Anh/37(590c) (1787&89)
・オルガン作品のためのアダージョニ短調K.Anh.35(593a)(1790末)
・フーガホ短調
・アダージョロ短調(1788)
・メヌエットニ長調K.Anh.34(385h II: K6 576a)
・フーガホ長調(第6番)
・幻想曲ヘ短調K.Anh.32(K6 383c)
・オルガンまたはピアノのための変奏曲のテーマK.Anh.38(K.383d)(1782)
・2台のピアノのためのフーガト長調K.Anh.45(375d)(1782)
・2台のピアノのためのソナタ断章変ロ長調K.Anh.43(375c)(1782)
デュオ・クロムランク(ピアノ)
パトリック・クロムランク
桑田妙子

モーツァルトの天才を改めて思う。
断片、あるいは断章であるにもかかわらず、すべてが音楽的なのである。
そこにはクロムランク夫妻の息吹も聴こえるよう。このとき、彼らは生きていた。はっきりと呼吸をしていた。

楽しくまた悲しかりし時の
名残りの音わが胸にひびけば、
喜びと苦しみのこもごも至る中を
ただひとりわれはさまよう。

「月に寄す」
高橋健二訳「ゲーテ詩集」(新潮文庫)P91

音楽は文字通り楽しい。そして、やっぱり悲しい。

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3 COMMENTS

桜成 裕子

おじゃまします。
デュオクロムランクを初めて知りました。
ゲーテの「月に寄す」は、友であったクリスティアヌ・ラスベルクの自殺が動機となって書かれたものだそうですね。そのことも初めてしりました。シューベルト作曲のD259のこの歌曲は、シューベルトの歌曲の中で一番好きな歌です。聴くたびに、口づさむたびに泣けてきます。岡本様のデュオクロムランクを悼むお気持ちが滲む詩なのですね。このCDを聴いてみたいと思います。ありがとうございました。

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岡本 浩和

>桜成 裕子 様

シューベルトのD259は素晴らしい歌ですよね。また、ゲーテの詩が素晴らしいと思います。
デュオ・クロムランクについては30年ほど前はじめてブラームスの交響曲(2台ピアノ版)を聴いたとき感動して以来、ごくたまにですが取り出して聴いております。
今回のモーツァルトは玄人好みの選曲なので、ぜひブラームスの交響曲のCDも聴いてみてください。

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