とまあ、かようなモスクワのガガーリン広場に面した片隅に
ツアーバスで導かれた夕食場所があったのでありました。


レストランというキリル文字

大きくキリル文字で記されているのをカタカナ読みすれば「レストラン」となるのは、
これまた付け焼刃的学習のたまものですけれど、店名は?と思ってこちらをじっくり。


店の名前とシンボルはイリヤ・ムーロメツ

「う~む、イ、リ、ヤー、ムー、ロ、メツ…。イリヤ・ムーロメツ?」
どうやらイリヤ・ムーロメツという、ロシアでは知られた伝説上の人物であるとは、
ロシア人ガイドに尋ねて教わったのですけれど、とまれ、その名が店の名前になっており、
その姿を店のキャラとして使用しているようでありました。


ですが、そのイリヤ・ムーロメツはどんな伝説の人物であるのか。

イリヤが登場するのはロシアの口承叙事詩「ブィリーナ」だそうで、Wikipediaによればその物語はこのような時代背景になると。

実在の人物であるキエフ大公国のウラジーミル1世の治世(10世紀末から11世紀初頭)から、1380年にドミートリー・ドンスコイ率いるモスクワ大公国軍がママイ率いるタタール(キプチャク・ハン国)軍を破ったクリコヴォの戦いまでの史実を下敷きにしている。

ロシアが「タタールのくびき」から解放される端緒となったクリコヴォの戦いなどで活躍するイリヤは
キエフに棺があったりしたこともあり、実在の人物であると見る研究者もあるのだとか。
さりながら、30歳まで動けなかったとか、動き出せるようになってからの化け物退治の遍歴とか、
こうしたあたりはいかにもなおとぎ話と言いますか、神話的なるものと思えるような。


もちろん実在の人物の生い立ちにおとぎ話的な脚色を数多付け加えたのかもですが、
あまりに脚色が過ぎると、どうにも実在性がどんどん希薄になっていってしまう、

そんな気がするのですよね。わざわざそんなふうにするかなあと思ったりしたところです。


それに、やはりWikipediaにあった物語の概要を読む限りにおいて、

他国の伝説との類似性を思ってしまうような。


伝承はとかくそういうものだということは言えなくはないとしても、

何となくフィンランドの「カレワラ」を想起してしまうのはなんとも皮肉なことですな。

ロシアの圧力を跳ね返す民族意識の高まりをフィンランド人に与えたのが

「カレワラ」ですものねえ。


もっとも、イリヤ・ムーロメツが活躍する時代背景に「タタールのくびき」があるわけですので、
後のフィンランドとは主客を換えて、敵を跳ね返すというバックグラウンドには

何かしら似通ったところを感じてしまったりもするのですが。


「歴史に学ぶ」ということにしっかり向き合えば、類似のことが繰り返されるはずはないと
思いたいところのなのですけれどねえ…。


ところで、こうした伝承は得てして作曲家が取り上げて曲を書いたりするものではなかろうかと。
「ブィリーナ」に取材したものとして有名どころはリムスキー=コルサコフの「サトコ」があり、
イリヤを題材としたものではグリエールがそのものずばり、交響曲第3番に

「イリヤ・ムーロメツ」というタイトルを付けておるそうな。

全4楽章で80分に及ぶ壮大な曲らしいとなれば聴いてみたいものですなあ。


…と、そもそも今回の話は夕食場所に案内されたというところで、
レストランの名前がイリヤ・ムーロメツだったことから専らそちらの話になってしまいましたが、
この時に食した料理というのがこちらでありまして。


ロシアで創作された料理・ビーフストロガノフ


皿を逆向きにして撮った方が分かりやすかったでしょうけれど、要するにビーフストロガノフです。
一説によれば、歳をとってビーフステーキを食すに難儀するようになったストロガノフという人が
牛肉を予め小さく切った煮込み料理なら食べやすかろうと考案したてなことでもあるようで。


ロシア料理と言われるものには、実はウクライナ料理発祥と目されるものが多々あるようですが
(国の成り立ちでモスクワ以前にキエフが首都だったりしましたしね)
これは純粋に?ロシアで創作された料理ということができそうだということで。

ま、いかにもツーリスト向けセットメニュー的ですが、おいしくいただきました。