昔々のサントリーのTV-CMで、なんとも飄々したふうの人物を描いた木版画が使われたことがありました。

川上澄生描くところの「へっぽこ先生」の図。これが何とも印象深くて、他の作品もまた文明開化の音がする(ような)?、

また異国情緒を醸すような、その素朴な味わいがあって、その時以来、川上澄生を意識しておったわけでして。

 

 

で、このへっぽこ先生の肖像をファサードにあしらった鹿沼市立川上澄生美術館を、

このほどようやっと訪ねることができたのでありますよ。

「明治洋館風の建物は文明開化をこよなく愛した川上澄生の作品を反映したもの」ということで。

 

 

ところで、栃木県鹿沼市に美術館があるということで、

川上澄生という人はてっきりご当地出身かと思いましたら、横浜出身なのですなあ。

明治期の横浜ですし、父親が「横浜貿易新聞」の主筆であったということですので、

おそらくは子どものころからすでにして異国の雰囲気を感じながら育ったのでありましょう。

 

そんな父親の勧めで20代始めの頃にはカナダ、アメリカにも渡っている。

川上作品が醸す異国情緒はこうした環境があったからこそだったのですねえ。

 

しかし、それにしても「ではなぜ鹿沼に?」と思うわけですけれど、

アメリカから帰った川上は県立宇都宮中学(現在の宇都宮高校)の英語教師になったようで。

そのときの教え子のひとりが川上作品の「2000点に及ぶコレクション」を作り、出身地が鹿沼だったことから

その提供を受けて市立美術館ができた…とまあ、そのような経緯であるようで。

 

 

ともあれ作品展示を見ていきますけれど、テーマをもってコレクションの中から選び出す形で年4回の展示替え、

このときは「川上澄生のいきもの図鑑」展と題した企画でしたので、動物などを描いたものが作品がメイン、

「へっぽこ先生」を収めた画集『ゑげれすいろは人物』のようなレトロ感の横溢する作品が見られたら…と思う向きには

少々思惑違いかと。それでも、フライヤーに使われた絵に見える猫からは宮沢賢治童話を思い出させるところもあるような。

 

題材として『イソップ物語』を取り上げているあたり、

ただただ動物を描くのでない寓意を絵からどう見てとるか、そうした楽しみもあるところではありました。

それにしても(いささかステレオタイプな印象ながら)どうしてキツネはずる賢いように見えるのでしょうなあ(笑)。

 

とまあ、川上澄生作品からはほのぼの感を抱くところなのですけれど、

見る人が見れば「それだけではない」ことを感じることにもなるのでしょうなあ。

その一人が棟方志功であるようで。

 

棟方がゴッホの絵に触発されて絵描きになることを目指したとはよく知られていることですが、

その棟方は川上澄生の「初夏の風」という一枚に出会ったことで版画家への舵を切ったというのですから。

 

後の棟方が作り出した作品にみられる熱ではなくして、

それを吹き払う風(タイトルが「初夏の風」ですものね)を思う作品なのですけれどね。

個人的にはモネの「傘をさす女」を思い出したりもするような。

(描かれた女性が傘をさしているのか、閉じているのかは見た目、大きな違いかもですが)

 

残念ながらこの「初夏の風」の展示は季節柄か、毎年5月だそうですので、

機会があったら、またこの美術館を訪ねてみましょうかね。

川上作品の他のバリエーションにも接することができるかもしれませんし。