2020年のアメリカ大統領選挙の前哨戦・トランプ現大統領の対戦相手を決める民主党の予備選挙は最大の山場・スーパーチューズデイを終えて構図がはっきりした。
バーニー・サンダースとジョー・バイデンの一騎打ちになったのだ。大方の予想はサンダースが大勝して一強状態になるというものだった。しかし実際はバイデンが14州のうちの10州で勝つという快進撃を見せ、一気に情勢を逆転させた。
勝者を決めるポイントともいえる獲得代議員数はメディアによって誤差はあるが大体、バイデンが600前後サンダースは500前後であり、80人ほどの差がついている。しかし勝負はまだまだ続く。
何しろ全米の代議員の総数は約4,000人であり、まだその3分の1しか決まっていないのだ。
一方で、バイデンは今回の大勝利でトランプとの大統領選ではサンダースよりも勝ち目があると見られるようになった。また、誰が民主党候補になってもトランプには勝てないという意見はずっと根強く残っている。
果たしてそれは本当なのだろうか。ここからは今後の民主党予備選と続く大統領選挙の行方を徹底的に掘り下げたい。
1:バイデン圧勝の最大の要因はトランプのサンダースへの支持表明
なぜ、ジョー・バイデンがここまで大躍進したのか。 これについてはアメリカでも日本でもメディアの見方は一致している。
スーパーチューズデイの前にバイデンがサウス・カロライナ州で快勝したことで勢いに乗り、さらには他の2人の中道派の候補者たちが撤退して共にバイデン支持を表明したことで情勢が変わったというのだ。
要するに民主党の中道派が結束したことで急進左派のサンダースを打ち負かしたということだ。確かにそれも大勝の大きな要因ではある。だが、私はバイデンの最大の勝因を別のところに見ている。
スーパーチューズデイの前、トランプは地方演説でサンダースを大統領選の相手に見立てた。トランプは、サンダースのあまりに過激な政策を示すため彼をいつも「クレイジー・バーニー」と呼んでいる。
その演説でもそれを連呼して挑発し、支持者もそれを歓迎していた。それは実質的にトランプによるサンダースへの支持表明ともいえる。
それによってサンダースは
スーパーチューズデイの前に
トランプによって戦いやすい相手、
つまり“大統領選では勝てない人”
というイメージを背負わされてしまった。
さらにいえば、トランプに気に入られたことで
サンダースは彼と同類の
過激な政治家だというイメージまで
押しつけられてしまったのだ。
それがバイデンの圧勝に繋がった最大の要因だといっても過言ではない。実際、スーパーチューズデイに投票した人の60パーセント以上はトランプに勝てる候補という基準で選んでいる。
つまりバイデンを選んだ多くの人はサンダースとの比較ではなく、トランプとの大統領選挙の相性の良さで決めたということだ。
2:トランプの岩盤支持層を切り崩せる可能性を持つサンダース
では本当に、大統領選挙においてサンダースよりもバイデンの方が勝つ可能性は高いのだろうか。アメリカと日本のマスコミは共通して、バイデンの方がトランプの相手としていいと見て次のような理由をあげている。
バイデンは民主党の中でも中道派なので、トランプの属する共和党の穏健派からの票もうばえる可能性を持つ。また、オバマ大統領の元で副大統領だったことで黒人票などマイノリティからの支持も厚く、トランプの支持基盤である無党派層からの支持も得られるかもしれない。
対するバイデンはあまりにリベラルなので民主党派の票も失うかもしれない。当然、共和党派からの支持も得られず、リベラルとは正反対のトランプの支持基盤・無党派層も崩せない。こういった筋は確かに理にかなっている。
だが、私はこの根拠が完全に
的外れだと見ている。
大統領選挙でトランプを倒すには
バイデンよりもサンダース
の方が圧倒的にいいに決まっている。
なぜか。それは今からの時代、選挙の勝敗は党派によって左右されなくなるからだ。それはすでに2016年のアメリカ大統領選の勝利でトランプが証明したことだ。
トランプにしたってサンダースのように、敵対する党派・民主党派の人たちからの支持はまったくない。さらに自身が属する共和党派の穏健派からの支持さえもない。だが、彼は大統領選挙に勝利したのだ。
なぜか、それは普段、投票に行かない政治に無関心な無党派層・浮動票を手に入れたからだ。サンダースもそれと同様である。
彼もトランプと同様、党派を超え、政治的な垣根を超えてもっと広い層に訴えかけられる人だ。共に何のイデオロギーも持っていない。そのあまりに政治家らしくないスタイルこそが、国民的な熱狂を生み出している。
しかしサンダースとトランプでは決定的な違いがある。トランプは国民に寄り添ったふりをしながら私欲を満たすポピュリストに過ぎない。
サンダースの方は私欲にも政治的な利害関係にも縛られず、本当に国民・とりわけ社会から置き去りにされた人たちに寄り添っているのだ。
サンダースが大統領選挙に出れば
間違いなくトランプの岩盤支持層である
政治的な無関心層・無党派層を
切り崩すことができる。
彼らの多くは愛国主義者や宗教右派でありながら、
共通して貧困に苦しんでいるからだ。
富裕層優遇のトランプ政権に対して不満を
抱いている人は数多くいるだろう。
深読みかもしれないが、トランプがサンダース支持を打ち出したのはむしろバイデンを自身の対戦相手にしたかったからではないだろうか。
自分がサンダースに好感を持てば、民主党派の人々はバイデンに集まると読んだのかもしれない。つまりサンダース支持は彼得意のフェイクニュースだった可能性もある。
3:民主党候補がカンガルーでもありえないトランプ大統領の2期目
今後、民主党の予備選挙は実質的に、バイデンというよりは民主党の主流派とサンダース1人との戦いになる。
サンダースは党の主流派を既得権益層と呼ぶが、まさにその通りだ。民主党や民主党派の中にも1パーセントの富裕層がいて、99パーセントの庶民を今後も食い物にしようとしている。
結局、4年前のヒラリー対サンダースの予備選挙の構図とほぼ同じ状態になったといえる。
マイケル・ムーアは映画『華氏119』の中、この戦いについて、民主党が自ら負けを選んだと解釈していた。実際の勝利者はサンダースだったが、不正によってヒラリーが選ばれたのだ。今回もまた、既得権益層の闇の力が大きく働くだろう。
ただし、ジョー・バイデンが民主党の候補になったとしてでも大統領選の結果は変わらないだろう。ほぼ間違いなくトランプに勝利はない。
2年前の中間選挙の結果がすでにそれを示している。マイケル・ムーアも指摘するよう、アメリカには元々保守よりもリベラルの方が一割ほど多い。
リベラルがこぞって投票に行けば、
どんなときも保守には勝てる。
2016年にトランプが勝ったのは
リベラル派の多くがトランプを甘く見て
「勝てるわけがない」と思って投票に
行かなかったからだ。
2018年の中間選挙ではその反省を生かし
大勢が投票してみごと民主党を
大勝利に導いた。
アメリカでは今「カンガルーが民主党の大統領候補になったとしても投票するだろう」という言葉がよく聞かれるそうだ。決してこれはジョークではない。誰が民主党候補になったとしてでもトランプの2期目はないのである。
ただそれでもサンダースが候補になることの意義は大きい。バイデンが大統領になっても、アメリカと世界はオバマ政権時代のようにほとんど何も変わることはないだろう。
サンダース対トランプの大統領選挙になったら、もしかすれば2008年のオバマのときのような歴史的な圧勝もありうる。
そしてその先にはオバマも果たせなかった、格差拡大と気候危機への抜本的な改革が始まるはずである。■