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Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2020/03/08
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  ◆フェノール値 & ppm って何だ?

 モルト・ウイスキーの味わいを表現する形容詞に、スモーキー(smoky)、ピーティー(peaty)という言葉があります。そして、「スモーキーさ」「ピーティーさ」の程度を表す数値として、(あまり一般的ではありませんが)しばしばフェノール値という言葉が登場し、「ppm」という単位が使われます。最近では、ウイスキーのパンフレットやラベルの説明にもお目見えするようになりました。

 しかし、「フェノール値とかppmとかって何なの?」と聞かれて、正確に答えることが出来る人は、ウイスキーに詳しいバーのマスターやバー業界関係者でも、意外と少ないのが現状です。そこで、自分なりに得られるだけの資料を使って、友人のサポートも受けながら、精一杯まとめてみました
(※お読みになってもし何かお気づきの点があれば、ご指摘頂ければ幸いです)。

 1.ピートが生むスモーキーさ
 スモーキーなウイスキーが誕生するためには、ピート(泥炭)、原材料の大麦、酵母、仕込み水、樽の種類などいろいろな要素が絡んできますが、なかでもピートと原材料の大麦の影響が大きいと考えられています。ピートはヒースなどの野草や灌木などが長い歳月で堆積して炭化したもので粘土状のものです。スコットランドでは昔から、掘り出して乾燥させ、冬季には貴重な燃料源として燃やして暖房に使ったりしています。

 スモーキーなウイスキー造りの際には、発芽後の大麦(モルト)をしばしばピートを燃やしてその煙と熱で乾燥させます(逆に、最終商品として「スモーキーなウイスキー」を造らない場合は、ピートは使いません)。ピートはスコットランドの北部や南部、島部など広い地域で採掘されますがその成分は産地によって違います。アイラ島などはピートに海藻や貝殻、海の生物、海水が結構含まれているため、燃やすと燻製香、ヨード香が強く出ます。一方、内陸部のピートは灌木や草花(ヒースなど)といった植物系の成分が多いのでスモーキーさも穏やかです。ピートのどの部分(成分)が、どのようなスモーキーさを生み出すのかは、まだよく解明されていません。

 2.製麦はほとんどがモルトスター頼み
 ただし、スコットランドでも現在はほとんどの蒸留所が、大手のモルトスター(製麦会社)から乾燥済みの原料大麦を購入しており、フロアモルティング&乾燥を自ら行っているところは稀です(ボウモア、ラフロイグ、キルホーマン、ハイランドパーク、スプリングバンクなど7~8カ所程度です)。そして、フロアモルティングしている蒸留所でもウイスキー造りに使う大麦の全量の製麦はできないため、多かれ少なかれモルトスターから購入しています。

 モルトスターは蒸留所からの注文に応じて、ノン・ピーティド大麦、ピーティド大麦を販売し、ピーティド(焚き込み)のレベルも、例えば「40ppm程度で」などの注文に応じています(自社生産している蒸留所は、過去の経験値からピートを燃やし乾燥させる量や時間を調整し、目指すppmレベルに近づけます)。

 3.スモーキーさの「一つの指標」
 ウイスキー造りの世界では、このピート由来の香り=「スモーキーさ」はフェノール値の数字「ppm」という単位で表されます。すなわち、ppmは「スモーキーさの指標」であり、「フェノール化合物の濃度」です(ppmは「parts per million」の略。1ppmは0.0001%、1%は10000ppmに相当します)。

 ピートを燃やして乾燥された大麦は、そのピートの種類や量、乾燥時間などで一般的に、ライト・ピーティド大麦(一般に5ppm以下)、ミディアム・ピーティド大麦(6~19ppm)、ヘビリー・ピーティド大麦(20ppm以上)、スーパー・ヘビリー・ピーティド大麦(概ね80ppm以上)と分けられます。

 ピートの使用量は一般的に、ヘビリーの場合で麦芽1トンに対して20~30kg、ミディアムで15kg、ライトで10kgくらいです(この部分の出典:集英社新書「日本のウイスキー 世界一への道」輿水精一&嶋谷幸雄 共著から。※ちなみに、日本国内の蒸留所は現在、ウイスキー用大麦麦芽のほぼ全量を海外から=主にスコットランドから=輸入しており、国産大麦を一部使っているのは秩父蒸留所のみ、国産ピートはニッカの余市蒸留所や新興の厚岸蒸留所が使用していますが、採掘規制もあり、使用量はごく一部です)。

 なお、ピートで乾燥させない大麦は「ノン・ピーティド大麦」と呼ばれますが、ノン・ピーティドでも、ウイスキーの製造過程でピート層を通った仕込み水を使ったりするので、アイラ・モルトなどでは1~5ppm程度のフェノール値が検出されることがあります。

 4.「スモーキーさ」を生む化合物
 ppmは「フェノール化合物の濃度」と先ほど書きましたが、この化合物には様々な種類のものが存在します。代表的なフェノール(phenol)、クレゾール(cresol)以外にも、エチルフェノール(ethylphenol)、グアヤコール(guaiacol)など。いわゆる「スモーキーさ」を生むのは、クレゾール、エチルフェノール、シリンゴル(syringol)、キシレノール(xylenol)、ビニルグアヤコール(vynylguaiacol)という化合物が要因です。

 通常は、出来たてのウイスキーのフェノール値を測定する場合、様々なタイプの検査機器、例えばHPLC(High Performance Liquid Chromatography=高効率液体クロマトグラフィー)や、GC/MS(ガスクロマトグラフィー<GC: Gas Chromatography>と質量分析計<MS: Mass Spectrometry>を組み合わせた測定機器)などを使いますが、上記のような様々な化合物の含有量の総量がフェノール値としてppmで表示されます。

 5.フェノール値(ピートレベル)は何で測るのか
 フェノール値は、完成したウイスキーの液体そのものではなく、通常、ピートの燻煙で乾燥させた大麦麦芽を使って測ります。フェノール化合物はそれぞれ特有のにおいを持っていますので、含まれる割合によってウイスキーのにおいも異なります。それがウイスキーの個性とも言えます。ただ、フェノール値だけで「どの化合物がどれくらい含まれているか」を判断(数値化)することはできません。また、フェノール値(ppm)が高いからと言って、最終商品としてのウイスキーの「スモーキーさ」が強くなるという訳ではありません。

 この理由には、いくつかの要因が指摘されています。例えば蒸留後、冷却して出来上がった原酒は通常、最初に出て来る部分と最後の残りの部分はカットされて、真ん中の部分(ミドルカット)のみ樽熟成に回されます。「前後の部分」をどの程度カットするかは、各蒸留所の製造方針によって違います。また、どのような種類の樽でどのくらいの期間、どのような環境で貯蔵・熟成するかによっても、最終商品のスモーキーさは変わってきます。

 従って、(大麦麦芽段階での)フェノール値が高いほど「よりスモーキーな(臭い)ウイスキーになる」というのは迷信・誤解です。フェノール値100ppmのモルトウイスキーより、50ppmのモルトウイスキーの方がスモーキーだったということもしばしば起こります(例えば、フェノール値が軒並み100ppm以上の「オクトモア」より、50ppmのアードベッグの方がよりスモーキーさを感じるように)。

 6.フェノール値(ppm)は、麦芽の乾燥時間で経験的に決めている?
 ここで私の友人で、職業柄「サイエンス・ライティング」に詳しい、ウイスキー愛好家の安部祥輔氏の示唆に富む見解を紹介しましょう。

 安部氏は「私の中での仮説でしかないのですが、(各蒸留所が目指す)フェノール値は『ピートで麦芽を※時間乾燥させたから**ppm』というふうに乾燥時間で決めているような気がしています」と話します。
 海外サイトを見ていると、フェノール値は「麦芽の乾燥の度合い」とか「ピートを焚きこんだ度合い」といった記述がけっこう見受けられます。安部氏ならずとも、単位がppmなので、濃度にばかり意識が向きます(実際にほとんどのサイトは濃度について言及しています)が、「なぜ乾燥度合いがppmなのか?」と疑問に思います。

 安部氏は「しかしながらフェノール値は、フェノール化合物が含まれている実際の濃度ではなく、単にピートを使った乾燥時間と考えると、腑に落ちることがたくさんあります。経験的に、製麦業者や蒸留所の製麦職人は、乾燥時間からおおよその数値を類推しているのではないでしょうか。乾燥時間が長ければ、麦芽に含まれるフェノール化合物量が増えてフェノール値が大きくなるのでしょうが、含まれる化合物の割合はこの値からはわかりません」と語ります。

 なので繰り返しになりますが、ppm値が大きいからといってスモーク臭が強いわけではなく、「含まれるフェノール化合物の大半がクレゾールならボウモアのような香り、すなわち消毒薬のような匂い」になる、一方で、「グアヤコールが多ければ(ラフロイグのような)正露丸のような香り」がする、などという合理的な説明ができます。ppmは100万分の1単位という極微量単位だから測定誤差も考慮すれば、乾燥時間でppm値をざっくりと決めたとしても罪はないでしょう。

 7.フェノール値の定義(算出方法)と測定方法は不明確
 「どこを探してもフェノール値の定義と算出方法に関する記述が見つけられない」。ウイスキー愛好家から、しばしばこういう声を聞きます。フェノール値の算出方法としていくつかの手法が考えられますが、個々のメーカー(蒸留所)は、具体的にどのように測定・算出しているのかは公表していません。

 安部氏は、以下のような手法を推測しています。
 議論の前提として、そもそもフェノール値とは、測定対象(モルトやウイスキー)から検出されたすべてのフェノール化合物の濃度をすべて合算した数値なのか、何種類かのフェノール化合物をあらかじめ決めておいて、それらの濃度を合算したものなのか、それが判然としません。どのHPを探しても記述が見つけられません。いずれの方法でもない可能性もあります。

 あるメーカー(蒸留所)が、例えば「以下のようなフェノ―ル化合物の濃度の合計値」を自社ウイスキーのフェノール値とするとあらかじめ決めていて、
 フェノール(phenol)5ppm、 o-クレゾール(o-cresol)4ppm、
 m-クレゾール(m-cresol)2ppm、 p-クレゾール(p-cresol)3ppm、
 グアヤコール(guaiacol)8ppm、
 4-エチルフェノール(4-ethylphenol)9ppm、
 4-エチルグアヤコール(4-ethylguaiacol)10ppm だった場合、
 合計値(合算値)である41ppmがそのウイスキーのフェノール値ということになります。

 一つ手掛かりとなるのは、日本の大手メーカー(蒸留所)の手法です。先に紹介した輿水氏&嶋谷氏の共著のなかでは、「(サントリー社は)輸入された麦芽を、定性的にはガスクロマトグラフィー分析によって、ピーティングの度合いを調べ、定量的には全フェノール値、揮発性フェノール値を用いる」と紹介されています。

 そこで、ここでは前者の算出方法、すなわち「検出されたすべてのフェノール化合物の濃度のすべてを合算」した場合を説明してみましょう。
 ウイスキー中のフェノール値を算出すると、ピート由来だけではなく樽由来のフェノール化合物、さらに双方に由来するフェノール化合物とエチルアルコール(言うまでもなくウイスキーの主成分)との反応物であるフェノール化合物など、すべての製造工程で生成したフェノール化合物の濃度が算出されるわけです。

 だとすれば(樽由来のフェノール化合物はスモーキーさとは縁遠いものもありますので)、フェノール値をもってスモーキーさを議論することはまったく不毛であることは誰にでも理解できることでしょう。

 完成品としての(ニューポットではなく樽熟成後の)ウイスキーのフェノール値に言及している記事も多々あります。しかし、モルト中のフェノール値を算出するにしても、いったい何種類くらいのフェノール化合物が含まれるのか分かりませんが、スモーキーさの要因となる化合物とそうではない化合物のすべての濃度を算出することにあまり合理性が感じられません。従って、モルト(乾燥麦芽)中ではなく完成品のウイスキー中のフェノール化合物を、同じ指標で語ることはナンセンスだということです。

 8.フェノール値の測定・算出方法とは?
 「フェノール値の定義(算出方法)についての記述が見つからない」と書いているのは、ここまでの考察や推察を含んでの話です。ウェブサイト上でどんなに探しても「フェノール化合物の濃度」とか「ガスクロマトグラフィーを使って測定する」というレベルの域を超える記述は見当たりません。

 もちろん分析化学や環境化学を専門としている研究者の文献を探せば、サイエンスに基づいて厳密に書かれた論文はいくらでも見つかりますし、ウイスキーの成分分析に関する論文もいくらでも見つけられますが、フェノール値の定義(算出方法)はどこにも書かれていません。

 測定方法についても、やや専門的過ぎるかもしれませんが、改めて少し確認しておきましょう。専門家が紹介している様々な情報から推察すると、ウイスキーに含まれる成分の分析では、ガスクロマトグラフィー(GC: Gas Chromatography)単体ではなく、質量分析計(MS:Mass Spectrometry)を組み合わせた「GC/MS」や、高効率液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)と「MS」を組み合わせた「LC/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)」が用いられていることが多いのではないかと思います。GC単体やHPLC単体で調べるよりも、精度が高く分析も簡単だからです。

 ただ、いろんな文献を検索して読んでいると、近年は、「GC/TOFMS(ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計=最新の分析機器です)」もよく使われているような印象です。

 ちなみに、10社近くのモルトスターのサイトを調べてみると、多くの会社が「IoB Methods of Analysis」という測定手法を採用しているようです。これはイギリスの「The Institute of Brewing and Distilling」という業界団体が推奨する方法のようです(同法人のサイトには分析法の詳細が記載されているようですが、会員制サイトなのでIDとPWがなければアクセスができません。残念…)。

 モルトスターは、IoB Method以外にもThe American Society of Brewing Chemists(ASBC)、The European Brewing Convention(EBC)という業界団体が推奨する分析法を使っていることもわかりました。国や業界(ビール、ウイスキー、ワインなどなど)ごとに基準があるようです(以上、測定方法については、しっかりとした「裏取り」はしていないうえでの記述であることをお含みおきください)。

 ただしそもそも、こうしたモルトスターや蒸留所が、どのようにサンプリング(試料採取)しているのか、1回の測定に使用するモルトは何グラムか、どのような試薬を使って対象化合物を抽出するのかなどの測定手順やルールは公表されていません。微量成分の分析を行うのであれば、モルトスター間で分析手法を統一しなければ、測定データのバラツキが大きくなってしまいますが、それも不明です。

 このように考えると、誤解をおそれずに言えば、本当にモルトスターや蒸溜所が(フェノール値の)濃度をきちんと測定しているのだろうか、データの信ぴょう性はどうなのかという疑問すら生じます。

 9.結び
 本稿を締めくくるにあたっては、やはり、安部氏の言葉を紹介しておきたいと思います。
 「個人的には、やはりピートの焚き具合でppm値を決めていると思いたい。そのほうがサイエンスの手法で数値をはじき出すよりも、家内制手工業的なウイスキー製造にロマンを感じるからです。自社でフロアモルティングをやっている蒸溜所に、GC/TOFMSのような最新の分析装置がセッティングされていたら興ざめじゃないですか」。

 私もまったく同感です。ウイスキーは数字で楽しむ(飲む)ものではないと思います。ウイスキーが嗜好品である以上、何でも機械や科学で決めてしまうより、蒸留所の職人たちが長年の経験を活かして、原材料や仕込み水、発酵条件、樽や熟成期間、風土等という様々な「偶然」と向き合いながら造る方が、より魅力的なウイスキーが出来ると信じています。


 【御礼】この稿の作成にあたっては、本文中にも紹介したサイエンス・ライティングに詳しい安部祥輔氏のほか、堀正明氏(ウイスキー文化研究所認定ウイスキーセミナー講師)、大北賜氏(大阪「リトル・バー」マスター、※現在は「マスター・オブ・ウイスキー」)の御三方に貴重な情報、ご助言を頂きました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

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Last updated  2023/12/31 12:05:20 AM
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汪(ワン)@ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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