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クォークとレプトン―現代素粒子物理学入門:F.ハルツェン、A.D.マーチン

2018年11月22日 17時21分29秒 | 物理学、数学
クォークとレプトン―現代素粒子物理学入門:F.ハルツェン、A.D.マーチン

内容紹介:
本書は、場の理論の知識はほとんど必要とせず、非相対論的量子力学と特殊相対論の基礎的知識だけを前提として、素粒子物理学の全分野を、最新の話題も含めて完全に網羅した初めての書である。 量子色力学(QCD)、Weinberg-Salam理論、大統一理論(GUT)などが、読者自ら具体的に計算してみながら定量的レベルで理解できるよう十分やさしく解説されており、細かな議論抜きでてっとり早く素粒子物理学の実際的な手法を身につけることができる。 また本文中には約200題の練習問題を配し、巻末には詳しい解答を付して読者の便宜をはかっている。
1986年4月刊行、459ページ。

著者について:
Francis L Halzen
https://www.physics.wisc.edu/people/francis-lhalzen
https://de.wikipedia.org/wiki/Francis_Halzen

高エネルギーニュートリノ、発生源をついに特定
40億光年も離れた銀河の超巨大ブラックホールから飛来、サイエンス誌他
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/071500206/

Alan D. Martin
https://www.ippp.dur.ac.uk/profile/martin
https://en.wikipedia.org/wiki/Alan_Martin_(physicist)


理数系書籍のレビュー記事は本書で380冊目。

本書を購入したのは2007年頃。将来こういう本が読めるようになるといいなと単なる憧れで積読覚悟で買ったもの。今では1万4千円の高値がついているが、当時から絶版書でたまたま5000円くらいの安いのを見つけたのでその場で購入。

その後、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究者と知り合い筑波で直接お話を聞く機会があった。その方は当時、加速器実験で得られたデータをもとにしたQCDの計算を担当されていて、本書を持っていることを伝えると「最初は難しくて読みにくいところがあると思うけど、とても良い本ですよ。何度も繰り返しお読みになるといいです。」とおっしゃっていた。

その頃は量子力学を学んでいた頃だから、場の量子論や素粒子物理はまだ見えていない。クォークやグルーオンの物理学が手で計算できるとしても、イメージがまったくつかめていない段階である。そして2007年6月に「湯川中間子論、スパコンが証明 筑波大」というニュースで格子ゲージ理論のシミュレーションでQCDを計算したことや、2017年8月に読んだ「物質のすべては光: フランク・ウィルチェック」で紹介されているCGでもやもやと動くグルーオン場の様子を見て、手で計算するのは神業に近いという思いを強めていた。

クォークとクォークの間で働いている強い力のエネルギーは、次のアニメーションのようにもやもやしたものだ。これは「グリッド」、「格子ゲージ理論」を使って描き出したグルーオン場のCGである。(この画像はアニメーションGIFなのでパソコンだと動いている様子がわかる。解説と動画はこのページ。)



科学雑誌Newtonや素粒子物理の入門書でよく紹介されるのは、こようなイメージである。



しかし、本書の原書が刊行されたのは僕が大学2年の頃の1984年で、当時のスパコンではそのような計算ができるはずがない。「粒子発見の年表」でわかるように、この年までに6つのクォークのうち5つまでが確認され、Wボソン、Zボソンも見つかっていた。科学雑誌Newtonでもクォーク模型が紹介されていた。

だから34年前の古い本ではあるが、本書は実験系の素粒子物理学の理論を学ぶには十分有用な教科書である。本書ではヒッグス機構、ヒッグス粒子を含めて標準模型(Weinberg-Salam模型)が解説され、大統一理論まで視野に入れられている。

本書のタイトル「クォークとレプトン」は標準模型の17種類の素粒子のうち、次の6つの素粒子とそれらの反粒子のことだ。(解説はキッズサイエンティストの「クォークとレプトン」のページを参照。)



昨年「素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」を読み、素粒子物理への苦手意識を払拭することができたから、今なら読めるのではないか?そのような気持ちで読み始めた。

章立ては次のとおり。

1 素粒子物理学概観
2 対称性とクォーク:対称性と群
3 反粒子
4 スピンを持たない粒子の電気力学
5 Dirac方程式
6 スピン1/2粒子の電気力学
7 閉線、くり込み、実効結合定数
8 ハドロンの構造
9 パートン
10 量子色力学
11 e+e-消減とQCD
12 弱い相互作用
13 電弱相互作用
14 ゲージ対称性
15 Weinberg-Salam模型、およびそれを超えて

通読したところ理解度は65%ほどにとどまった。200もある練習問題はとても自分で解けるものではないから、巻末の回答を盗み見ながら理解に努めた。何より途中で投げ出さずに最後まで読めたのがうれしかった。

場の理論で必須のラグランジアンは第14章の「ゲージ対称性」で初めて解説される。「本書は、場の理論の知識はほとんど必要とせず、非相対論的量子力学と特殊相対論の基礎的知識だけを前提として、素粒子物理学の全分野を、最新の話題も含めて完全に網羅した初めての書である。」という触れ込みは、たしかにそうなのだが、場の量子論を前もって学んでおいたほうがよいと思う。そのほうが第14章、第15章がずっとわかりやすくなる。

「非相対論的量子力学と特殊相対論の基礎的知識だけを前提」という触れ込みも、もっともであるが、さらに言えば他の本で「ファインマン・ダイアグラム」の計算方法を習得しておいたほうがよい。非相対論的量子力学については散乱断面積の計算、摂動論あたりの復習を集中的にしておくべきだ。

第1章から第9章まではなんとか理解できた。第9章はパートン模型による計算だが、構造関数を導入して陽子内部のクォークやグルーオンを詳しく計算しながら探っていく過程がとても興味深かった。

第10章と第11章がQCD(量子色力学)である。この章がいちばん難しく理解が及ばなかった箇所だ。それでも「このように計算すればクォーク模型の計算と実験結果が合うのか。」という程度のことは理解できる。スパコンのシミュレーション以前の計算と実験を追体験することができただけで満足しておいた。2ジェット・イベントや3ジェット・イベントの計算とファインマン・ファイやグラム、実際の計算の対応関係を理解した。

第12章「弱い相互作用」と第13章「電弱相互作用」は、いくぶん易しく感じた。これは「素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド」や「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」を読んでいたからだ。K中間子の崩壊の観測で確認されていたCP対称性の破れを理論的に説明する「小林・益川行列」の「CKM行列」も詳しく理解でき、1984年の段階ではこの行列の要素の数値のうち一部が現在の値と違っていることを確認した。

1984年の時点でのCKM行列の値(≃(-の上に~)は行列要素は非常に小さいが、まだ決定されていないという意味)


現在のCKM行列の値


第14章の「ゲージ対称性」も読みやすく、本書で僕がいちばん萌えた箇所だ。U(1), SU(2), SU(3)のリー群がQED、弱い相互作用、電弱相互作用、強い相互作用で、どのようにあわられるのか、局所ゲージ不変性、非Abel的ゲージ不変性、対称性の自発的破れ、大域的ゲージ対称性の自発的破れなどは、数理物理好きの者にとっては大好物である。

第15章「Weinberg-Salam模型、およびそれを超えて」の中のヒッグス機構などの質量獲得のメカニズムも、これまでに読んだ教科書よりずっと詳しく解説されていたので、とても有益だった。大統一理論に関しては話が発散しがちである。ざっと読み流すにとどめておいた。


理解度が十分でなかったわりに、充実した気持になれた教科書である。どこに何が書かれているかはすぐわかるようになったので、折に触れて復習するのに使いたいと思う。

本書は相変わらずの高値であるが、もし手ごろな価格のものを見つけたら、ぜひ買ってお読みになることをお勧めする。(先日の神田古本まつりでは明倫館書店の道路側の棚に、表紙がない状態の本書が4000円で売られているのを見かけた。(このツイートを参照)その後、どなたかが買われたようだ。)

日本の古本屋のサイト: 本書を検索する


翻訳の元の原書は1984年に刊行されたこの本である。

Quarks and Leptones: An Introductory Course in Modern Particle Physics: Francis Halzen, Alan D. Martin



関連ページ:

素粒子標準模型入門: W.N.コッティンガム、D.A.グリーンウッド
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/522960c6eb852df961348fee76463852

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa

物質のすべては光: フランク・ウィルチェック
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d592b55383ccecae76959446c0292d7b

クォーク 第2版: 南部陽一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/966d315e9ed9b5391c93c1dd80f6028b

強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63919605c4e5556fb0d12171ce458e8

ヒッグス粒子の発見:イアン・サンプル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/46c46f676c631634b83fb9616161ec4d

超対称性理論とは何か:小林富雄
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/365372dbf8716d6f57b67f58fbaf8722


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クォークとレプトン―現代素粒子物理学入門:F.ハルツェン、A.D.マーチン


序文
日本語版への序文

1 素粒子物理学概観
- 世界は何からできているか?
- クォークとカラー
- カラー:核相互作用の荷量
- 自然単位
- αは素粒子の相互作用に関係した唯一の荷量ではない
- 弱い相互作用も存在する
- Mendeleevの跡をたどる:もっとクォークとレプトンを
- 重力
- 素粒子:実験家の視点
- 粒子検出器

2 対称性とクォーク
対称性と群
- 物理学における対称性:初等的議論
- SU(2)群
- 表現の合成
- 有限対称群:PとC
- アイソスピンのSU(2)
- 反粒子のアイソスピン
- SU(3)群
- SU(3)群のもう1つの例:アイソスピンとストレンジネス
クォーク”原子”
- クォーク・反クォーク状態:メソン
- 3体クォーク状態:バリオン
- 磁気モーメント
- 重いクォーク:チャームなど
- ハドロンの質量
- カラー因子

3 反粒子
- 非相対論的量子力学
- Lorentz共変性と4元ベクトルの表記法
- Klein-Gordon方程式
- 歴史的間奏曲
- E<0の解に関するFeynman-Stuckelbergの解釈
- 非相対論的摂動論
- Feynman-Stuckelberg流の散乱振幅則

4 スピンを持たない粒子の電気力学
- 電磁場A~μの電子
- ”スピンを持たない”電子・ミューオン散乱
- 不変振幅Mによる断面積の表識
- Mを用いた崩壊率
- ”スピンを持たない”電子・電子散乱
- 電子・陽電子散乱:交叉の応用
- Lorentz不変な変数
- 伝播関数の起源
- まとめ

5 Dirac方程式
- Dirac方程式の共変形:Diracのγ行列
- 保存カレントと随伴方程式
- 自由電子のスピノール
- 反粒子
- スピノールの規格化と完全性関係
- 双1次変形
- 質量0のフェルミオン:2成分ニュートリノ

6 スピン1/2粒子の電気力学
- 電子と電磁場A~μの相互作用
- Mφller散乱:e-e-→e-e-
- e-μ-→e-μ-
- トレース定理とγ行列の性質
- e-μ-散乱とe+e-→μ+μ-過程
- 高エネルギーでのヘリシティ―保存
- e-e+→e-e+、μ-μ+の概観
- 実験室系におけるe-μ-:パートン模型に適した運動学
- 光子、偏極ベクトル
- 伝播関数についての補足:電子伝播関数
- 光子伝播関数
- 質量を持つベクトル粒子
- 実光子と仮想光子
- Compton散乱:γe-→γe-
- 対消滅:e+e-→γγ
- 伝播関数に対するiε処方
- QEDに対するFeynman則のまとめ

7 閉線、くり込み、実効結合定数
- 静的電荷による電子の散乱
- 高次補正
- Lambシフト
- 閉線はまだある:異常磁気モーメント
- 閉線を組み合わせる:Ward-高橋の恒等式
- 電荷の遮蔽とe-μ-散乱
- くり込み
- QEDにおける電荷の遮蔽:実効結合定数
- QCDに対する実効結合定数
- まとめとコメント

8 ハドロンの構造
- 電子で電荷分布を探る:形状因子
- 電子・陽電子散乱:陽子形状因子
- 非弾性電子・陽子散乱:ep→eX
- ep散乱解析に対する定式化のまとめ
- (仮想)光子・陽子全断面積としての非弾性電子散乱

9 パートン
- Bjorkenスケーリング
- パートンとBjorkenスケーリング
- 陽子内部のクォーク
- グルーオンはどこに?

10 量子色力学
- グルーオンの二重の役割
- 非弾性散乱へのγ*・パートン過程の埋め込み
- ふたたびパートン模型
- グルーオン放出の断面積
- スケーリングの破れ:Altarelli-Parisi方程式
- グルーオンによるクォーク生成過程の寄与
- パートン密度に対する完全な発展方程式
- P関数の物理的解釈
- Altarelli-Parisiの方法のレプトンと光子への応用
- Weizsacker-Williamsの公式

11 e+e-消減とQCD
- e+e-のハドロン消滅:e+e-→q(anti)q
- 破砕関数とそのスケーリング
- 重いクォーク生成についてのコメント
- 3ジェットイベント:e+e-→q(anti)qg
- e+e-→q(anti)qgの断面積の別の導き方
- 3ジェット
- e+e-→ハドロンに対するQCDの補正
- 摂動論的QCD
- 最後の例:Drell-Yan過程

12 弱い相互作用
- パリティの破れとV-A型弱カレント
- 結合定数Gの解釈
- 原子核βの崩壊
- トレース定理
- ミューオン崩壊
- パイオン崩壊
- 荷電カレントによるニュートリノ・電子散乱
- ニュートリノ・クォーク散乱
- 弱中性カレントの発見
- 中性カレントによるニュートリノ・クォーク散乱
- Cabibbo角
- 弱混合角
- CP不変性は成り立つか
- CP不変性の破れ:中性Kメソン系

13 電弱相互作用
- 弱アイソスピンとハイパー荷
- 基本的電弱相互作用
- 有効カレント・カレント相互作用
- 電弱相互作用のFeynman則
- ニュートリノ・電子散乱
- 陽電子・電子消滅における電弱相互作用の干渉
- 電弱相互作用の干渉効果をみる他の実験

14 ゲージ対称性
- ラグランジアンと1粒子波動方程式
- Noetherの定理:対称性と保存則
- U(1)局所ゲージ不変性とQED
- 非Abel的ゲージ不変性とQCD
- 重いゲージボソン
- 対称性の自発的破れ:隠された対称性
- 大域的ゲージ対称性の自発的破れ
- Higgs機構
- 局所SU(2)ゲージ対称性の自発的破れ

15 Weinberg-Salam模型、およびそれを超えて
- ふたたび電弱相互作用
- Higgs場の選択
- ゲージボソンの質量
- フェルミオンの質量
- 標準模型:ラグランジアンの最終的な形
- 電弱相互作用はくり込み可能だ
- 大統一理論
- 陽子は崩壊するか?
- 高エネルギー実験としての初期宇宙
- もっと大きな統一理論を

問題解答
各章の参考書
参考文献
素粒子表
訳者あとがき
索引
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