今回も皆さんのご参加ありがとうございました。

ご参加の皆さまの一句に感想を書かせて頂きます。

 

1.見るほどに思い出誘ふ桜かな       徒然庵

今回は、初参加ありがとうございました。「桜」と切字「かな」はよく合いますね。ただ、残念ながら芭蕉の句に さまざまの事おもひ出す桜かな という名句があり、掲句はそれをなぞっているだけに終わってしまったかな・・・というのが感想です。俳句は、作者と読者の間にある種の共感できる(リンクする)言葉があって、その言葉の鍵をもとに景の扉を開くものだと感じます。そういう意味では、芭蕉の見た「桜」と「思い出」は現代に生きる私たちの見ているものとは違っているのですが、俳句という「言葉の鍵」は今も健在なのかな・・・と思います。

 

4.アルプスの水音高し花山葵         すなみ

「アルプスの水音高し」このフレーズはやはりご自身の肌で感じた実感でしょう。登山をされるすなみさんご自身の体験だけあって言葉の強さを感じました。そして「花山葵」という季語、これも実際に見た景ゆえのリアリティ感と思いました。 清々しい一句でした。20.子の影のなき公園の桜かな こちらも気になった句でした。少子高齢化がいよいよ進む現代日本の光景・・・。かつては子供の声が湧き溢れた公園を知っているだけにしみじみと寂寞感を誘われました。そ子供の成長を見つめてきた「桜」が残っているというストーリーは惹かれるものがあります。ただ、「子の影のなき」が、これだけだと今しがたまであったものが失くなったのかとも取れなくもない・・・そんなところが弱かったかなと思いました。

 

6.ベランダに長鉢ひとつ雲雀かな       痺麻人

この句は一読、型の例句をきちんと当てはめて詠まれた句と納得しました。先の例句に掲載した、金色の佛ぞおはす〈堂内(室内)のものの状態〉+蕨かな〈堂外(室外)の季語+かな〉をご自身の手近なところで実践されています。ベランダの長鉢の中身とかそれについての説明をとやかく言わず「室外」の季語で「雲雀かな」と詠まれたので、外の雲雀の鳴く季節の到来と、プランターに蒔いた種もそろそろ・・・という期待感などが言外に窺うことが出来ました。 

あと、29.寄り添ふて牧場(まきば)を駈ける仔馬かな まるちゃん2323 もコメントに書いてくださいましたが、「寄り添ふて」は、「寄り添うて(ウ音便)」か「寄り添ひて」が正解です。

 

8.霊柩車静かな山の芽吹きかな        寿々

これは、映画のワンシーンのような映像が脳裏に浮かんだ一句でした。山里の母屋から出て行く霊柩車、それを見送るご親族、大きな悲しみに包まれていても自然は「芽吹き」の季節が到来している。個人的に「静かな」という形容詞があるべきか否かを思ったのですが、この場合「静かな」があることで作者が淡々と生死という営みを、湖の水面が周りの景を映し出すように、自然に受け止め静かに見つめている・・・という印象を受けました。

 

17.陶房の窓開け放つ日永かな        さるぼぼ

この句もとても気持ちのいい句でした。陶房ですから割と山間の質のいい粘土の採れる場所でしょう。木造の小屋の・・・中は粘土色に染まっているようなそんな陶房の、窓を開け光と風を入れる・・・「日永」の季語に表される日差しの暖かさと長閑さ、ゆったりとした感じが工房の主の人となりまで伝えてくれているように感じました。

 

23.落ちてなほ陽をすすりたる椿かな     笑い仮面

こちらは「落椿」の一物句。落椿が美しいのは、落ちてもなお、陽を啜っているからだというこの表現に詩を感じました。もうひとつ気に入った句が・・・2.いつさんに花散りいそぐ一樹かな 基本、「桜」を人一倍愛する私ですので、一句の景に惚れました。ただ「いつさん」という措辞が「一散」、中七の「散り急ぐ」と同じことに思えて・・・というところで引っかかってしまいました。言葉の達人の笑い仮面さんならきっとこの疑問を晴らしてくださることと思います。

 

25.落武者の孤独引き寄せ馬酔木咲く    みなみ

「馬酔木」の花はよく寺社で見かけるものですが、なにかしら平家の落武者に由来の寺社でしょうか?その「落武者の孤独」や難儀があったろうという想像が作者の中の「孤独」と重なってシンパシーが生まれたように思いました。馬酔木の花、いいですね。34.沖晴れて浜辺に映る遍路かな この句もきれいな春の景と思いました。瀬戸内は沖の方まで晴れ渡っている、浜辺には“お遍路さん”の白装束の一行が歩いている・・・。四国ならではのいい景だと思いました。ここで使われている動詞「映る」は白装束という姿を考えれば、『照りかがやく』の意でよいのでしょう。

 

27.還暦に引退の花吹雪かな         絢未来(ああす)

「還暦」=「引退」=「花吹雪」。よくある連想パターンのように思いました。なんだか散り際は潔く・・・とせき立てられるような思いになりました。

『人生百年時代』と言われる昨今ですから、「老後」を詠むにしても、少し発想を転換して、「老後の再就職だけれど選択肢は沢山ある」みたいな活気づけるようにして頂くと元気をもらえる一句になったかな?・・・と思いました。「花吹雪」の季語、お見送りから、再活動のエールに変ると一句が引き立つと思いますよ。40.動物園出産ラッシュいぬふぐり こちらも気になる句でしたが、「動物園/出産ラッシュ/いぬふぐり」と三段切れになってしまっている点、「出産ラッシュ」という語が報道用語的(傍観者的にニュースを観ているよう)な気がしてそれが残念でした。上五は字余りになってもいいので 動物園に続く出産いぬふぐり もしくは 動物園に相継ぐ産児いぬふぐり くらいでいかがかなと思いました。欲を言えば、動物園の飼育係になったつもりで“大忙し”の感じとか、こんな日に動物園に居合わせて“ハッピー、ラッキー”みたいな雰囲気が読者に伝わると上級者かな?

 

30.竹の秋天一掃きの広さかな        静可愛

「点一掃きの広さ」という表現がすっきりときれいでいい句に仕上がったんじゃないでしょうか。「竹の秋」という季節感もよく捉えていたように思いました。

 

 

32.若冲の鶏啼くる夜の朧かな        まるちゃん2323

伊藤若冲の絵の中の鶏が啼いているように見えるほど鬼気迫るものを感じる夜、外は朧月夜である・・・このイメージのインパクトの強さが一句を際立たせていたのだと思います。他に申し分がありません。もちろん、絵の鶏が啼くわけでもありませんし、どこかで鶏が夜に啼いたのを聴いたのでもありませんので、作者の心理的な部分でのことですが、それでもそのリアリティさが伝わるというのが凄いですね。

 

35.薄ら陽を集めて咲きし辛夷かな      ねこじゃらし

こちらも「辛夷」の一物句。「薄ら陽」を集めることによってあの早春の辛夷は咲くんだという発見、それをさらっと詩にしたのがよかったですね。デリケートな「かな」という切字、ちょっとした発見かもしれませんが、手近なところから些細なところに目をやって納得できるものを見つけて詠むのがいいのでしょう。

 

38.透きとほる絵硝子の青つばめ哉      日記

この句も室内から室外へと上手に視点を移されて仕上げられました。「絵硝子の青」はステンドグラスでしょうか?その中へ外のツバメが舞い込んできてもおかしくないような綺麗な青なのでしょう。「絵硝子」を漢字表記、青のあとに続くので「つばめ」をひらがな表記、「哉」を漢字と字面を合わせてこられたのも上達の証しですね。10.母の歩に合はせ京都の日永かな こちらも気に入った一句ですが、皆さんも選に入れられていたので控えめに・・・。お母様と京都旅行、普段はこんなにゆっくり歩くことはないのでしょうが、「日永」の一日、孝行ですね。読者まで優しさが感染するような句でした。

 

39.灯の内を閃く夜半の落花かな       マミーエリ

「灯の内を閃く」・・・この句も、この表現の発見が成功でした。灯火に映える夜桜は綺麗ですが、舞い散る花びらが光の中を舞うのはまた風情がありますね。

 

デリケートな切字「かな」の使い方・・・なんとなくでも見えてきたでしょうか?

自分の場合ですが・・・上五・中七のフレーズを受けて、下五の「○○○かな」をリフレインからフェイドアウトさせる感じに捉えています。

「桜かな・・・桜かな・・・さくらかな・・・」とリフレインしながら響きが調和していれば一句として成立かな・・・と考えている次第です。

 

お付合い有難うございました。