その透明人間のような私立探偵S氏と話す機会を得たのは、そうですね、ワタシが取材記者としてインタビューした際というふうにでも想像していただければけっこうです。

 

 

 最新探偵技術というのはね、アメリカで発展したものであって、自分もそれなりに学んだものだ、しかしね、よくわかって欲しいのは、このような職業というのは社会において全く認知されていないということなんだよな。

 

 

 要するに何の所属場所というかよって立つマスの部分がゼロなわけで、内閣調査室やら警視庁外事課のような身分保障もないわけだ。

 

 

 ましては、自分ひとりでやっているわけだろ、組織の力を頼るわけにもいかないし、思った程悪どいこともできないわけなんだよね。

 

 

 クールに語る中年紳士であって、正直な話、こんな頼りなさそうな人に人生の一大事なことを頼む人がいるものなのかなと思ったりした私です。

 

 

 しかしですね、なぜなんでしょうか。表裏を問わず日本社会の舞台に名を成す方々との交流がそれなりにあって、相当な大物後援者がついていたり、政財界にも静かなカオを有しているのが不思議だったものです。

 

 

 話を聞いていると、警察やら特殊的国家公務員OBでも裏社会の人間でもなさそうです。

 

 

 一体この人は何者なんだ、そんな興味を抑えて、私は、彼の探偵人生の想い出なんかを聞いたわけですが、その彼にして、忘れ得ぬ想い出の探偵活動三本の指に入るのが数年前のY雄のストーカー対策活動だといっていたのです。

 

 

 若い頃は潜入なり、二重スパイなりと色々やってはきたが、あの仕事だけは印象に残るといっていたものです。

 

 

 表の社会から裏の社会に入り、それを日本のブラックホールだとすれば、いったんブラックホールに入ってしまった以上、なかなかその世界の魑魅魍魎的闇の中から抜け出ることは困難なことだとは思います。

 

 

 これは小説の世界ですが、今でも国士と呼ばれる薩摩長州藩の子孫から成る暗殺集団があるとのことですね。特捜検事なんか逆立ちしても知り得ない経済界を牛耳る闇の集団なんかというのも耳にしたことがあります。

 

 

 しかしですね、得体の知れぬS氏の静かに漂う透明的闇の雰囲気から、私は一つの日本社会におけるホワイトホールのようなものを感じてしまったものです。

 

 

 昔は別にして合法的に紳士に生きる道を歩んでいるS氏にとって、大事な唯一のスポンサーでもある後援者の自宅応接間でH子と対面したとき、彼女はこんなことを口走ったそうです。

 

 

 私は将来の夢を実現するため、女一人で一生懸命働いて400万円の貯金を残した。

 

 

 その400万円の全財産、すべてをSさんに払ってもいいから、どうにかY雄のストーカー行為を止めさせてほしい。そうすれば、私も人生をやり直すことができ、きっとすぐにお金を貯めることも可能になると思うのです。

 

 

 泣きながら、哀願する彼女に、S氏は即座に依頼を引き受けたそうです。

 

 

 S氏に過去どんな栄光やら屈折があったのかは知りませんが、悩んだ末、400万円全額を受け取ることにしたのことです。

 

 

 息子の大学院進学費用に使えるかもしれない、それが大きな理由だったそうですが、それとはまた異次元的に彼女の瞳の中にですね、人生意気に感じるものがあったのかもしれません。

 

 

 なんとかしなければならないが、S氏にとっては生まれて初めて扱う一命を賭した狂気のストーカー男の事件でして、しかも、それを合法的に止めさせなければならないわけですから、今まで扱ってきた探偵活動やらスパイ活動とは随分と勝手が違ったものだったのだろうと思います。流石のS氏にとっても、簡単に解決のできる話ではなかったと思いますね。

 

 

 まるで透明人間のような裏社会をも通り越した得体の知れぬS氏の話はこのくらいにしておきますが、性鬼と化したストーカーY雄の恐怖については、もう少し話をして、それからこの二人の私的には史上最大の激闘とも思えた話に続けたいと思います。

 

 

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