2019年11月10日13:00
4Lzに対する理解がさらに深まった気がします!
去年あたりからずっと抱いていた疑問に、フィギュアスケートにおいて「4回転ルッツは実は簡単なのではないか?」というものがありました。どの教則本を見ても同じ回転数であればルッツが難しいジャンプだと書いてあるので、これまでずっとそう思ってきたのですが、どうも最近やたらと4回転ルッツがバンバン跳ばれています。
これがひととおりのジャンプが跳ばれるのなら「すごいなー」と思うだけなのですが、「ループ」「サルコウ」「トゥループ」よりも、むしろルッツが勢いよく出てくるのです。ときには「4回転ルッツ」「4回転ルッツのコンビネーション」「3回転ルッツ」「3回転ルッツのコンビネーション」とひとつの演技で4回ルッツを跳ぶことさえ。フリップとルッツの選択だけであればより得点が高いほうを重点的に練習ということもあるのでしょうが、1本だけ選ぶときにルッツが選ばれるという不思議さ。
これだけ跳べるのにはきっと何らかのシステムがあるのでしょうし、そのシステムを駆使すればもしかしたらもっと多くの選手が「難しいとされていた」ルッツジャンプを跳べるようになるかもしれない。そのように思いながら昨今のルッツジャンプを見ておりました。自分が跳べるわけではないので全部想像でしかありませんが……。
そんななかいくつかのポイントが見えてきました。
まず、そもそもルッツジャンプとはという基本からになりますが、国際スケート連盟でもその辺を一応定義しております。前年度の資料にはなりますがメディア向けのスケート解説資料などを見ると、ルッツジャンプは下記のように定義されております。
↓トゥを突いたアシストを受けつつ、バックアウトサイドエッジで踏み切り、逆足のバックアウトサイドエッジで着氷するジャンプです!
↓文章だけだとわからないと思いますの、見本をご参照ください!
踏み切るまでの左足の軌跡がルッツの特徴です!
画面左側にカーブを描くように流れていきます!
動画の選手は反時計回りで跳ぶタイプなので(※以降、この向きを前提に説明します)、左足のバックアウトサイドエッジに乗って滑ってきます。そのため氷の上の軌跡はやや画面左側にカーブ、つまりやや時計回りになっています。しかし、ここで右足のトゥを突きつつ反時計回りに回転します。やや時計回りになっている身体を、反時計回りに変えているわけです。
僕の古い知識ではこのときの回転の向きを変えるためのチカラだったり、最初に時計回りに流れているぶん余計に回らないといけなかったりする大変さがルッツの難しさであり、ゆえに得点も高くなる理由だと思ってきました。古い時代の「ジャンプの見分け方」では、この時計回りの動きを見ることでルッツを見分けられたため「左足で後ろ向きに長く進むとルッツ」なんてコツもあったほどでした。
↓僕の理解ではこういうことだと思っていました!
最初のアプローチのチカラの向きが違うので大変なんですよ、と!
一回右向いてから強引に左に向くのが大変なんですよ、と!
まずこの部分において、昨今のトレンドとしては「身体が逆向きに動く」ことをなるべく抑制するようにしています。そのためにジャンプへの入りではインサイドのエッジで大きく反時計回りに身体をカーブさせておき、左足を身体の右サイドに入れるようにクロスさせます。ちょうどループジャンプを跳ぶときのような構えをするわけです。
その後、跳ぶ直前にチェンジエッジで左足のアウトサイドエッジに乗ります。滑る軌道としてはS字を描くようになります。アウトサイドエッジには明確に乗るようにします。そこがルッツと判定されるポイントなので、思いっ切りエッジを倒すくらいに乗ります。ただ、乗る時間は一瞬です。アウトサイドに長く乗れば、滑る軌道も大きく時計回りになり、身体全体がそちらに持っていかれてしまいます。
そうなると古典的なルッツのように「まわるのが大変」になってしまうので、「明確にアウトサイドに乗りつつ」「右サイドに左足をクロスさせたぶんを戻す距離だけしか進まない程度の短い時間だけで済ませ」「身体全体が持っていかれないように留める」ことがポイントです。最後にちょっとだけ明確にアウトサイドに乗り、すぐ跳ぶ。これが第一のポイント。
↓イメージとしてはこんな感じです!
そして第二のポイントが右足です。教則本的にはトゥピックでアシストするということになっていますが、ここはなるべく体重を右足に乗せていきたいところ。左足アウトサイドに乗っていればいるほど身体は外に持っていかれますから、その時間や乗り具合をなるべく短くしたい。そのためには「早く跳ぶ」ことだけでなく、なるべく右足に体重を移したい。
国際スケート連盟の教則ビデオなどでは後ろに構えた右足を身体に引き寄せるようにして突くフォームが紹介されていたりもしますが、体重を右足に移すことを考えるなら、ひきつけて突くよりも一歩バックステップするように突くほうが合理的。右足をやや身体の右側後方にスイングして勢いをつけて突くようにイメージし、その時点で体重を右足側に移動させつつ、同時に左足は素早く抜く。
古典的なルッツであれば左右の足はほぼ同時に離氷するわけですが、体重を右足側に移しつつなるべく左足を素早く抜くことをイメージしているので、左足が先行、右足がやや遅れて跳び出す格好となります。「あらかじめクロスさせておいた左足を時計回りに素早く抜く」ことと「スイングしながら右後方に突いたトゥに素早く体重を移す」ことをスムーズに連動させることで、上体のひねりだけでない強い回転力を生み出していく。これが第二のポイント。
そして第三のポイントがいわゆるプレロテです。「完全に前向きにならない」というルールのギリギリまで右足で回転し、言うなれば「スピンしながら跳ぶ」ようにします。実施する際の意識としてはもしかしたら「プレロテする」というよりも「勢いをつけて強く速く回る」なのかもしれません。あまりに早く回っていることでスローで見るとほとんど前向きに踏み切っているように見えることさえあります。
そのためには、「トゥピック」では不足なのでブレードをつくようにします。チカラを込めて右足で踏み切ってやろうということよりも、勢いをつけて強く速く回るために、まさにスピンするようにしたい。トゥで回るスピンはあまりやっていないでしょうから、普段のスピンの入りのようにエッジに乗って回していきます。高く跳び上がってから腕をふるなど上体のひねりで回すだけでなく、スケートならではのスピンという技術を用いて下半身で回す。これが第三のポイント。
第二・第三のポイントはほかのジャンプ、特に両足を使って跳ぶジャンプには広く応用できるでしょう。体重移動とスピン技術を使って回転力を上げる。そうすれば高く跳べなくても速く回ることで必要な回転数を表現できるのではないだろうか……そんなことを思うのです。そうして見ればルッツは逆足トゥループのように跳ぶことすらできるのかもしれないなと。まぁ僕は1回転もできないので、「簡単そう」も「難しそう」も想像するだけですが……。
という話を書き始めたのは、10日にテレビ朝日で中継されたフィギュアスケートGPシリーズ中国杯での織田信成さんの解説がキッカケでした。圧倒的な得点で優勝を果たしたロシアのシェルバコワ選手のルッツジャンプに対して、「昨シーズンから少しだけ跳び方を変えた」と織田さんは解説していたのです。
何が違うのか中継では言っていなかったので意図したところはよくわかりませんでしたし、正直見比べても何が違うのかよくわからなかったのですが、昨年の映像と今大会の映像とで、昨年は右足のつき方が「トウピック⇒回りながら下ろす」という感じだったものが、「トゥピックからすぐブレードを下ろす⇒回る」という流れで、よりスムーズに体重を右足に移し、素早く回転に入っているように感じられました。
↓昨シーズンの4回転ルッツはこんな感じ!
↓気のせいレベルかもしれないですが今年のほうが右足がストンと落ちている気がする!
「ちょっと違うんですよ」
「……」
「ほうほう」
「……」
「どこがどこが」
「……」
「気になる気になる」
「……」
「って言わないんかい!」
のおおおお、そこを言ってくれないと!
こうして見ていくと、野球のスイングのようにいろいろ奥深いものなのだろうなと思います。跳んだ、跳べないだけでなく、より回転数を表現できる方法や、より回転速度を上げる方法など、テクニカルに工夫できる部分があるのかもしれないなと。そのぶん、一連のモーションがカッチリ決まっていたりして、自由自在な表現は難しくなるかもしれませんが、ポンと置くぶんには単一の成功システムで十分でしょう。次回の放送では織田解説者にも「ちょっと変えた」のあたりをより深く掘り下げていただけるといいなぁと思います。見比べた時間に答えを欲しいので!
「ルッツ案外簡単説」がじょじょに広がりを見せている感じがします!
去年あたりからずっと抱いていた疑問に、フィギュアスケートにおいて「4回転ルッツは実は簡単なのではないか?」というものがありました。どの教則本を見ても同じ回転数であればルッツが難しいジャンプだと書いてあるので、これまでずっとそう思ってきたのですが、どうも最近やたらと4回転ルッツがバンバン跳ばれています。
これがひととおりのジャンプが跳ばれるのなら「すごいなー」と思うだけなのですが、「ループ」「サルコウ」「トゥループ」よりも、むしろルッツが勢いよく出てくるのです。ときには「4回転ルッツ」「4回転ルッツのコンビネーション」「3回転ルッツ」「3回転ルッツのコンビネーション」とひとつの演技で4回ルッツを跳ぶことさえ。フリップとルッツの選択だけであればより得点が高いほうを重点的に練習ということもあるのでしょうが、1本だけ選ぶときにルッツが選ばれるという不思議さ。
これだけ跳べるのにはきっと何らかのシステムがあるのでしょうし、そのシステムを駆使すればもしかしたらもっと多くの選手が「難しいとされていた」ルッツジャンプを跳べるようになるかもしれない。そのように思いながら昨今のルッツジャンプを見ておりました。自分が跳べるわけではないので全部想像でしかありませんが……。
そんななかいくつかのポイントが見えてきました。
まず、そもそもルッツジャンプとはという基本からになりますが、国際スケート連盟でもその辺を一応定義しております。前年度の資料にはなりますがメディア向けのスケート解説資料などを見ると、ルッツジャンプは下記のように定義されております。
↓トゥを突いたアシストを受けつつ、バックアウトサイドエッジで踏み切り、逆足のバックアウトサイドエッジで着氷するジャンプです!
Lutz
The Lutz is a toe-pick assisted jump with an entrance from a back outside edge and landing on the back outside edge of the opposite foot. The jump is named after Austrian Figure Skater Alois Lutz, who performed it in 1913.
https://www.isu.org/media-centre/guides/media/17522-figure-skating-media-guide-2018-19/file
↓文章だけだとわからないと思いますの、見本をご参照ください!
踏み切るまでの左足の軌跡がルッツの特徴です!
画面左側にカーブを描くように流れていきます!
動画の選手は反時計回りで跳ぶタイプなので(※以降、この向きを前提に説明します)、左足のバックアウトサイドエッジに乗って滑ってきます。そのため氷の上の軌跡はやや画面左側にカーブ、つまりやや時計回りになっています。しかし、ここで右足のトゥを突きつつ反時計回りに回転します。やや時計回りになっている身体を、反時計回りに変えているわけです。
僕の古い知識ではこのときの回転の向きを変えるためのチカラだったり、最初に時計回りに流れているぶん余計に回らないといけなかったりする大変さがルッツの難しさであり、ゆえに得点も高くなる理由だと思ってきました。古い時代の「ジャンプの見分け方」では、この時計回りの動きを見ることでルッツを見分けられたため「左足で後ろ向きに長く進むとルッツ」なんてコツもあったほどでした。
↓僕の理解ではこういうことだと思っていました!
最初のアプローチのチカラの向きが違うので大変なんですよ、と!
一回右向いてから強引に左に向くのが大変なんですよ、と!
まずこの部分において、昨今のトレンドとしては「身体が逆向きに動く」ことをなるべく抑制するようにしています。そのためにジャンプへの入りではインサイドのエッジで大きく反時計回りに身体をカーブさせておき、左足を身体の右サイドに入れるようにクロスさせます。ちょうどループジャンプを跳ぶときのような構えをするわけです。
その後、跳ぶ直前にチェンジエッジで左足のアウトサイドエッジに乗ります。滑る軌道としてはS字を描くようになります。アウトサイドエッジには明確に乗るようにします。そこがルッツと判定されるポイントなので、思いっ切りエッジを倒すくらいに乗ります。ただ、乗る時間は一瞬です。アウトサイドに長く乗れば、滑る軌道も大きく時計回りになり、身体全体がそちらに持っていかれてしまいます。
そうなると古典的なルッツのように「まわるのが大変」になってしまうので、「明確にアウトサイドに乗りつつ」「右サイドに左足をクロスさせたぶんを戻す距離だけしか進まない程度の短い時間だけで済ませ」「身体全体が持っていかれないように留める」ことがポイントです。最後にちょっとだけ明確にアウトサイドに乗り、すぐ跳ぶ。これが第一のポイント。
↓イメージとしてはこんな感じです!
身体を持っていかれる前に跳ぶ!
キュッと乗ってパッと跳ぶ!
そして第二のポイントが右足です。教則本的にはトゥピックでアシストするということになっていますが、ここはなるべく体重を右足に乗せていきたいところ。左足アウトサイドに乗っていればいるほど身体は外に持っていかれますから、その時間や乗り具合をなるべく短くしたい。そのためには「早く跳ぶ」ことだけでなく、なるべく右足に体重を移したい。
国際スケート連盟の教則ビデオなどでは後ろに構えた右足を身体に引き寄せるようにして突くフォームが紹介されていたりもしますが、体重を右足に移すことを考えるなら、ひきつけて突くよりも一歩バックステップするように突くほうが合理的。右足をやや身体の右側後方にスイングして勢いをつけて突くようにイメージし、その時点で体重を右足側に移動させつつ、同時に左足は素早く抜く。
古典的なルッツであれば左右の足はほぼ同時に離氷するわけですが、体重を右足側に移しつつなるべく左足を素早く抜くことをイメージしているので、左足が先行、右足がやや遅れて跳び出す格好となります。「あらかじめクロスさせておいた左足を時計回りに素早く抜く」ことと「スイングしながら右後方に突いたトゥに素早く体重を移す」ことをスムーズに連動させることで、上体のひねりだけでない強い回転力を生み出していく。これが第二のポイント。
そして第三のポイントがいわゆるプレロテです。「完全に前向きにならない」というルールのギリギリまで右足で回転し、言うなれば「スピンしながら跳ぶ」ようにします。実施する際の意識としてはもしかしたら「プレロテする」というよりも「勢いをつけて強く速く回る」なのかもしれません。あまりに早く回っていることでスローで見るとほとんど前向きに踏み切っているように見えることさえあります。
そのためには、「トゥピック」では不足なのでブレードをつくようにします。チカラを込めて右足で踏み切ってやろうということよりも、勢いをつけて強く速く回るために、まさにスピンするようにしたい。トゥで回るスピンはあまりやっていないでしょうから、普段のスピンの入りのようにエッジに乗って回していきます。高く跳び上がってから腕をふるなど上体のひねりで回すだけでなく、スケートならではのスピンという技術を用いて下半身で回す。これが第三のポイント。
第二・第三のポイントはほかのジャンプ、特に両足を使って跳ぶジャンプには広く応用できるでしょう。体重移動とスピン技術を使って回転力を上げる。そうすれば高く跳べなくても速く回ることで必要な回転数を表現できるのではないだろうか……そんなことを思うのです。そうして見ればルッツは逆足トゥループのように跳ぶことすらできるのかもしれないなと。まぁ僕は1回転もできないので、「簡単そう」も「難しそう」も想像するだけですが……。
という話を書き始めたのは、10日にテレビ朝日で中継されたフィギュアスケートGPシリーズ中国杯での織田信成さんの解説がキッカケでした。圧倒的な得点で優勝を果たしたロシアのシェルバコワ選手のルッツジャンプに対して、「昨シーズンから少しだけ跳び方を変えた」と織田さんは解説していたのです。
何が違うのか中継では言っていなかったので意図したところはよくわかりませんでしたし、正直見比べても何が違うのかよくわからなかったのですが、昨年の映像と今大会の映像とで、昨年は右足のつき方が「トウピック⇒回りながら下ろす」という感じだったものが、「トゥピックからすぐブレードを下ろす⇒回る」という流れで、よりスムーズに体重を右足に移し、素早く回転に入っているように感じられました。
↓昨シーズンの4回転ルッツはこんな感じ!
↓気のせいレベルかもしれないですが今年のほうが右足がストンと落ちている気がする!
「ちょっと違うんですよ」
「……」
「ほうほう」
「……」
「どこがどこが」
「……」
「気になる気になる」
「……」
「って言わないんかい!」
のおおおお、そこを言ってくれないと!
見てもわからないから!
こうして見ていくと、野球のスイングのようにいろいろ奥深いものなのだろうなと思います。跳んだ、跳べないだけでなく、より回転数を表現できる方法や、より回転速度を上げる方法など、テクニカルに工夫できる部分があるのかもしれないなと。そのぶん、一連のモーションがカッチリ決まっていたりして、自由自在な表現は難しくなるかもしれませんが、ポンと置くぶんには単一の成功システムで十分でしょう。次回の放送では織田解説者にも「ちょっと変えた」のあたりをより深く掘り下げていただけるといいなぁと思います。見比べた時間に答えを欲しいので!
「ルッツ案外簡単説」がじょじょに広がりを見せている感じがします!