クナッパーツブッシュとウィーンフィル。シューベルトの交響曲第9番、通称「ザ・グレート」。剛毅な芸風を伝える57年のライヴ録音です。シュミット作曲の「軽騎兵の歌による変奏曲」と併せ、ウィーンフィル結成150周年特別企画でグラモフォンから出たものを音質を調整のうえ、アルトゥスから登場したもの。先だってのクレンペラーの「運命」もグラモフォンの企画にあったものでした。ほかシューリヒトのブルックナー、ワルターのマーラーなど合計で14枚に及ぶものでした。クナッパーツブッシュとウィーンフィルとの関係は深く、やはり先だって挙げた「ばらの騎士」もリハーサルなしに挙行されたものでした。オーケストラにとっても自家薬籠中のもの。精緻で難易度も高い作品を隅々まで把握していた指揮があっての上演でした。その演奏は大らかで、大きな呼吸があります。表情は個性的なのですが、些末な傷はすぐに問題にならないほどに音楽に包まれてしまう。シューベルト演奏にもそういった特質は生きています。クナッパーツブッシュもまたライヴという一回性の中の音楽家であり、有名なパルジファル録音ほか、観客の拍手や登場時のざわめきなどお構いなしにはじめてしまいます。すぐに、濃厚な音楽が流れ出て、聴衆が包まれる様子もわかる。そのテンポは遅く、たとえば「ザ・グレート」にベートーヴェンと同じようなドラマティックなものを展開させるフルトヴェングラーとは対照的です。実際、長い序奏のあと主部に入るわけですが、多くの演奏がアッチェレランドしていきます。楽譜指定は単にクレッシェンド。つまり、「天国的長さ」に対処するために演出を加える演奏があり、そこに指揮者の見識が反映しているのでした。作品はそういったさまざまな演奏の多様を受容します、ロマンの交響曲の開始を、ベルリオーズの幻想交響曲とともに告げた作品。シューマンに多くの示唆を与え、ブラームスに連なり、おそらくブラームスとは反対の立場にあったブルックナーにも連なるもの。

 

クナッパーツブッシュの十八番はワーグナーとブルックナーにあり、そのテンポは悠然としていました。ブラームスの交響曲は全曲を録音はしていませんが、第3交響曲は複数の録音があります。ブラームスが「小交響曲」とまでしていた作品が、大きい作品へと変貌していきます。管楽器の厚みとスケール。やはりワーグナー、ブルックナーもブラームスも対立の構造にあるのではなく通底するものがあるのです。クナッパーツブッシュの師であったハンス・リヒターもブルックナー、ブラームス双方に通じていました。リヒャルト・シュトラウスもブラームス的な風土の中からたち、ワーグナー、そしてモーツァルト的なものをも合わせていきます。シューベルトのロマンもまたクナッパーツブッシュ節ともいえるもので紡がれていますが、古き良き時代のウィーンフィル。現代には聞かれなくなった豊かなものをたたえた演奏です。

 

 


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