カラヤンとフェラス。バッハの協奏曲集、65年の録音。サンモリッツ、サル・ヴィクトリア。カラヤンが夏を過ごしていた地でのセッションです。60年代の録音は高く評価されています。フェラスはフランス出身。パリ音楽院ではカペーに学んだ。エネスコにも師事。そのヴァイオリンは線は細くとものびやかで美しいもの。カラヤンの美学ともよく協調したのです。チャイコフスキー、ベートーヴェン、ブラームス、シベリウスに並びバッハ録音も、その高い評価の一角にあります。病的な飲酒癖があり、のちに投身自殺。自身と共演した独奏者が、その後鳴かず飛ばずとなるジンクス。カラヤンは若きムターとの共演の際にも、影響を受けすぎないように助言したとか。その重なる曲目での管弦楽パートには、独奏者の資質をも生かしながらカラヤンの志向ものぞきます。60年代のカラヤンにはシベリウスの交響曲第4番~7番の4曲をまとめたものがありました。作曲者にも認められていたその演奏は耽美と完全主義が反映したもの。そこにはフィンランディアをはじめとした管弦楽曲も収められ、ヴァイオリン協奏曲もそうした志向のもとに収録されました。夾雑物を排しての純度の高さ。それは余計なものをまとわないストイックなものでもありました。バッハ録音は、それよりわずかに先行するものですが、こちらは純度の高さは同様なものをたたえていますが、そこに厳しさはありません。カラヤンのバッハ録音は、バロックとはいっても壮麗な効果を発揮するもので、より現代に立脚点をもっているものです。ヘンデルや、コレッリ、ヴィヴァルディといった録音。弦は磨かれ、ベルリン・フィルも高い合奏力で再現する。カラヤンが指揮者として出立した折には、巨匠たちはバッハをとりあげ、ヘンデルなどの作品もモダンのオーケストラで壮麗に鳴り響かせていました。室内管弦楽団でも、古楽でもない、独自のバロック。フェラスのヴァイオリンはエレガントなもので、この美音に注目したカラヤンの志向も理解されます。2台のヴァイオリンのもう一人の奏者はシュヴァルベ。たとえばベルリン・フィルは2000年にナイジェル・ケネディのヴァイオリンでバッハの協奏曲集を録音していますが、指揮者主導のカラヤンの前時代的な在り方のものとはまったく違います。

 

古楽を耳にしたあとの当盤は、壮麗に過ぎるものではありますが、この方面での美音の追求では極地にある演奏。その目指すところから奏者は消えて、ときには作曲者も消えて近代的な美しいヴァイオリン音楽を聴いているという感触。多く聞きなれたものとは異質なものですが、そこに音響の心地よさもある不思議な演奏です。

 

 


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