56~59年録音。ビーチャムの管弦楽の小品をあつめたアルバム、ロリポップス、続編のモア・ロリポップスから編集されたディスクです。ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団。ステレオ初期にあたり、イギリスのオーケストラですが、雰囲気よく暖かな音色を聞かせる一枚です。ロリポップ、つまりペロペロキャンディにあたる大衆消費財としての娯楽性を備えたもの。ビーチャムを代表するグーセンス編のヘンデル「メサイア」、あるいはプッチーニの「ボエーム」、ビゼーの「カルメン」といった歌劇録音、ハイドンの交響曲集、ディーリアスの管弦楽曲集といったものがビーチャムの評価を決定づけるものですが、遊びにあたる音楽、musicの娯楽性では表現や個性が強くにじみでるものです。小品にも完璧主義を貫いたトスカニーニ、カラヤンの扱いは時に大芸術ともいえるものだったかもしれません。ビーチャムの場合のよい意味での緩さは大づかみで豪放なものです。大手製薬会社であったビーチャム製薬(現グラクソ・スミスクライン)の三代目として生まれ、裕福な家庭に育ったビーチャム。正式な音楽教育を受けずして指揮者となりました。資金を投入して幾つものオーケストラを設立。音楽好きという趣味性と、馴れるように指揮をものにしていきました。広大なレパートリーをほこり、ディスクの数も膨大なものです。ドイツの三大退屈男として「バッハ、ベートーヴェン、ブラームス」の三大Bを挙げた有名な発言があります。イギリスという中欧とは別天地、ドイツ音楽、ここには挙げられていませんが、ブルックナー、マーラーといった音楽を嫌いました。自身の好みを優先し、それが許されたのもまたビーチャムです。音楽性は同時に人間性を伝え、こうした破格な人物を他に見出すこともまた難しい。
 
ロリポップスは管弦楽名曲集ではなく、あくまでもロリポップス。とりあげれらたベルリオーズ、サン=サーンス、チャイコフスキー、グノー、シャブリエ、グリーグに、ディーリアスなど国も選曲も一貫性はありません。さらによく知られた曲ばかりを収めているわけではありません。自身の愛した曲を選び、聴かせどころをとらえた娯楽性。ビーチャムは巨匠というより変人扱いされることも多いものでした。こうした楽しみを見出す志向は、大作である歌劇録音の中にも反映しています。往年の巨匠のうちにも奇行の逸話で知られる変人は大勢いました。一人、ビーチャムだけがそうであったわけではありませんが、破格も許されるよき時代でありました。
 


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