76年。テルデックに残されたアルバン・ベルク四重奏団のモーツァルト、第21~23番から成るプロシャ王セット3曲の録音です。89~90年EMIへの再録音に比べて線が細く、鋭角的ですが、情緒に拠らない精度の高さがあるモーツァルト。作曲家ベルクの名を冠したベルク作品や、ブラームスなどとともに、再録音においても旧盤が古びてこないものの一つです。通称、ハイドンセット、第14~19番の6曲はハイドンの「ロシア四重奏曲」から影響を受けて作曲されました。ロシア四重奏曲は6曲から成っています。一曲いっきょくは独立していますが、6曲をまとまったセットとして考えアイデアを盛り込んだものでした。モーツァルトのハイドン・セットもそうした6曲をセットとする慣例にならい短調作品の配置や、全体の構成を熟考したものでした。終曲が不協和音と呼ばれ、混沌からはじまり平明なハ長調のアレグロ・モルトに収束していくのは、古典としての分野の統合のような強いものを感じるものです。モーツァルトにしては長い時間がかけられ、ハイドンの面前で直接披露もされています。その音楽的実質を求めた作風には同時代人の人はほとんどついてくることができませんでした。ハイドンがモーツァルトの天才を認めたように、音楽家など理解は一部にとどまったのは、ハイドンをモデルとし、その形から大きく逸脱する一般聴衆にはハイブロウな内容だったからです。後続するプロシャ王セットの3曲は、モーツァルトの内的要因ではありません。真偽は定かではないもののプロシャ王の名を冠するように、注文という機会があり、その要望に職人的に応えた作品です。チェロの活躍といったものは、「アリアを歌手に見合ったように仕立てる」とさえしていたモーツァルトらしく、依頼主の肖像をもとどめるものでしょう。チェロを含めた楽器の活躍をモーツァルト後年の特徴として指摘する向きもあります。
 
アルバン・ベルク四重奏団は、ウィーン主日のメンバーによって構成され、その情緒的展開と、20世紀音楽にも及ぶ演奏の精度を目指してきました。テルデック盤は、鋭利なものですが、録音の精度も高く、アナログ期、この盤を含めたものにも強い印象を受けたものでした。後年のものとの比較ゆえに情緒の多少を云々してしまう嫌いはあります。ウィーン由来の、もっと緩い幾つもの演奏にあって、この期の怜悧な感触も捨てがたいのです。
 


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