セザール・フランクのオラトリオ「至福」。クーベリック指揮のバイエルン放送交響楽団。独唱にジェシー・ノーマン、ファスべンダー、ルネ・コロ、フィッシャー=ディースカウといった重厚な音響をそろえた74年録音です。仏語のオラトリオとしてはベルリオーズの「キリストの幼時」、オネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」といった諸作に並ぶもの。2時間近い大作で、現在、演奏機会の極めて限られた作品の貴重な録音の一つとなっています。74年の録音。90年のリリング盤の鮮明なもの、フランク作品に注力しているアルミン・ジョルダン盤に比べては歌手の重厚で勝りますが、フランク作品、最大規模の作品には録音の鮮明も必要です。作曲は1869年から79年と10年に及び、サン=クロチルド教会のオルガニストから、ペール・フランク音楽院の教授にあった時期。弟子のダンディは交響詩「贖罪」の創作、普仏戦争の勃発による中断を長きにわたった作曲期の理由としています。1822年生まれのフランク。79年の完成時は57歳で、カンタータ「贖罪」(72年)、ピアノ五重奏曲(79年)、ヴァイオリン・ソナタ(86年)、交響曲(88年)と傑作が並ぶのも人生の後年のことでした。90年の弦楽四重奏曲をもって初演からほどなく亡くなります。早熟、早世の天才も多い音楽家の中、稀にみる晩成の作曲家ともなっています。フランキストとされる後進を残し、音楽的な足跡を残しました。今日、交響曲、ヴァイオリン・ソナタ、ピアノ、オルガンといった器楽、ピアノ五重奏、交響詩を数編といったところが取り上げられ、成功をもたらした弦楽四重奏、そして「至福」も含めて演奏機会は稀です。「至福」もまた作曲者の生前に全曲演奏はなされず、作曲家の死後30年ほどは演奏の俎上にのぼっていた作品でした。弟子のダンディだけでなく、批判的であったドビュッシーもその美しさを認めていた作品で、一部の冗長はあっても全編、美しさは持続するのです。

直近の交響詩「贖罪」はカンタータ「贖罪」の素材から編まれ、宗教的なもの。オルガニストであったフランクの描いた「至福」はマタイによる福音書、「山上の垂訓」から編まれています。プロローグに加え、「心の貧しき者は幸いである」にはじまり、悲しんでいるもの、義にうえているもの---と続く8曲。それは音楽的には苦しみを合唱が描き、バリトンによるキリストが応えるといった形で展開されます。その構成はシンプルで、作品もその単調さと冗長を批難されたのですが、叙情的でまさにキリストが応える幸福の教えも感動的な音楽。そのシンプルな構成からなる基調が心に残る作品です。


 


人気ブログランキング