世界的にきな臭い出来事が続いています。また、日本を取り巻く環境が、多くの日本人に現在の自衛隊の置かれている状況に関心を寄せる契機となっています。この映画は、かわぐちかいじ原作のベストセラーコミック「空母いぶき」を実写映画化したものです。
私自身は、この映画が封切られて間もなく見ました。映画自体を楽しみたいという欲求よりも、この映画が社会に与える影響の方が気になりました。原作と映画で最も異なる点は、原作では尖閣諸島の中国との領有権争いを契機に、武力衝突が起きるという現実的な課題が取り扱われています。しかし、映画では架空の国家から軍事的行動を受けるように変更され、緊迫感が薄まっています。様々な考慮をした結果なのでしょうが、そのために取り扱う課題に観客の関心がフォーカスされない映画となっています。
憲法と自衛隊の位置づけの矛盾。理想と現実の乖離。戦争体験伝承の希薄化。ネット右翼の活発化。・・・今回の映画のような、将来起こりえる紛争を提示されると、フィクションであることを超えて強い恐怖を多くの人に与えます。世界的にナショナリズムが強くなっている時代背景も踏まえ、日本においても社会全体が右傾化する傾向があります。
この映画では、政府も自衛隊幹部も現実にはあり得ないほど武力行使について、躊躇し苦悶します。したがって、この映画が直接的に憲法九条を否定し、再軍備化を促しているわけではありません。けれどもこの映画が、日本を取り巻く現状を踏まえて、日本の再軍備化を支持する世論が高まることを促す結果となる可能性はあります。
ヘリ搭載の「いずも」を、戦闘機「F-35B」を搭載できるようにして、事実上の空母とすることが決まっています。ただ、ヘリ搭載「いずも」を建造する時点で、空母化を前提にしていたと考えるべきでしょう。このように、国民の知らないところで、着々と軍備化が進行しているという現実は、注目していかなければなりません。