「マッキーのつれづれ日記」

進学教室の主宰が、豊富な経験を基に、教育や受験必勝法を伝授。また、時事問題・趣味の山登り・美術鑑賞などについて綴る。

マッキーの随想:映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』

2019年09月14日 | 時事随想

 小学5年の娘と、9月8日に映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観に行きました。この映画は、暁佳奈による日本のライトノベル、およびそれを原作とするアニメ作品です。イラストは高瀬亜貴子が手掛けていて、 KAエスマ文庫(京都アニメーション)より2015年12月から刊行されました。本編全2巻、外伝1巻。「自動手記人形」と呼ばれる代筆屋の少女を中心に繰り広げられるストーリーです。第5回京都アニメーション大賞の大賞受賞作であり、現在までで唯一の大賞受賞作です。観客の多くは、悲惨な京都アニメーション放火事件の無念さを感じつつ鑑賞したことでしょう。一見すると、巷に溢れている少女漫画のようですが、取り扱う内容は軽薄なテーマではありません。

【劇場版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』の報道】
 2019年9月6日より3週間限定で上映。第一報では2週間限定と発表されていたうえ、その後は京都アニメーション放火事件の影響で公開の延期や中止すら危ぶまれていたことから、インターネット上では激励や感謝の声が寄せられた。2019年8月13日にはYouTubeにて予告編が公開されたほか、第1週目・第2週目と第3週目でそれぞれ異なる入場特典が用意されることが発表された。2019年9月4日には京都アニメーションが代理人弁護士を通じて「災禍に見舞われたスタッフを含め、制作に参加した全員の生きた証しです」とのコメントを出したほか、作品が完成したのは前述の事件の発生前日であり、その犠牲者も含めて制作に参加したスタッフ全員の名前を監督の藤田の希望によってエンドロールなどに出す旨を発表した。

 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、手紙の代筆業に就く少女の活動を通して、言葉が人々の心の再生と、主人公の少女が愛の感情を学んでゆく物語です。孤児だった少女が「武器」として戦争に駆り出され、戦闘で両腕を失いながらも、唯一彼女を気にかけていたギルベルト少佐の言葉の意味を知るために自動手記人形と呼ばれる手紙の代筆業に従事します。
 
 しかしながら、戦闘で武器として行動するように教育された彼女は、戦場で多くの敵兵を殺戮してきました。また、戦争の兵器として育てられたヴァイオレットは、心に多くの欠落を抱えています。そうした経験と、特別な教育と訓練を受けた彼女は、自動手記人形の資質に対して、自分自身が疑問を持ちながらも、果敢にチャレンジしていく姿が描かれています。主人公ヴァイオレット・エヴァーガーデンは、悲惨な経験を積んできたにもかかわらず、驚くほど無垢で清純な心の持ち主であり、また容姿も高貴な雰囲気さえ感じさせる女性です。

 「良きドールとは、人が話している言葉の中から、伝えたい本当の心をすくい上げるもの。あなたは今、その一歩を踏み出したのです。ヴァイオレット。あなたが良きドールになりますように。」これはドール育成学校の教官が述べた言葉です。ヴァイオレットは、孤児として親の愛も知らず、戦争の武器として余計な感情が入り込まないように教育を受けてきました。そうした彼女が、手紙を代筆する仕事を通して、相手の境遇や悩みを理解し、その感情に寄り添いながら、言葉の大切さを学び、相手の感情を理解し寄り添えるようになっていきます。ただし、戦闘で多くの兵士を殺戮してきた過去が、彼女が成長し進歩すればするほど、心の内面を傷つけるのでした。観客は、ヴァイオレットの体験を通して、言葉の大切さや相手を思う優しさを同様に体験していく趣向の映画です。

 「少しは理解できるようになったと思っていたのですが、人の気持ちは、とても複雑で繊細で誰もが全ての思いを口にする訳ではなく、裏腹だったり、嘘をつく場合もあり正確に把握するのは、私にはとても困難なのです。」と述懐しつつも、相手の繊細な心理を理解しようと努めるのでした。


 今回の「外伝」は、運命に引き裂かれた姉妹にまつわる物語です。物語は2部構成で、前半は淑女を養成する女学園に入れられたイザベラ・ヨークと、彼女の世話係となるヴァイオレットの関係が描かれます。人里離れ、固く閉ざされた学園はまるで牢獄のようで、イザベラの自由を奪っています。その牢獄と同じように心を固く閉ざしたイザベラの心をヴァイオレットが解きほぐしていきます。

 
後半は、一転して開放的な雰囲気で始まります。透き通る青空を優雅に飛ぶ鳥たちを船に乗る幼い少女、テイラー・バートレットが不思議そうに見つめています。テイラーは孤児院を抜け出し、はるばるヴァイオレットを訪ねてやってきます。郵便配達人になりたいというテイラーとヴァイオレットや同僚のベネディクトとの心温まる交流が描かれています。一見つながりのない2つのエピソードが手紙によってつながり、引き裂かれるはずだった姉妹の運命を変えてゆくというストーリーです。

 本シリーズの主な物語は、自動手記人形である主人公のヴァイオレットが、様々な依頼人と出会い、その人たちの心に共感し、ある時は苦痛を和らげ、ある時は喜びを倍加させる働きをします。特に頻繁に出てくるシーンは、手の温もりを感じさせるものです。ヴァイオレットは戦闘で両腕を失い、金属製の義手をしています。その義手は、高速でタイプを打てるほどの機能を示します。ただ、相手の体のぬくもりを感じ、自分の温かさを伝えることは出来ないはずですが、ヴァイオレットの思いはその義手のぬくもりとして相手に伝わるのです。その義手とシンプルですが魂から発せられた言葉が、理不尽な世界で苦しむ依頼人を励まし勇気づける物語です。

 今年は、NHK連続テレビ小説『なつぞら』の影響で、アニメーションの製作に多くの人たちの興味が注がれました。漠然と見ていたアニメが、多くの優秀なアニメーターの努力によって作り出されていることを再認識しました。そうした状況の中で、京都アニメーション放火事件が起きました。多くの才能あるアニメーターの人たちが亡くなりました。この物語の書籍のイラストを手掛けた高瀬亜貴子さんは、無事だったようですが、映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の繊細で美しい映像作成に関わった多くの関係者が亡くなっています。この映画を観て、多くの感動を受けたことをそうした人たちに感謝したいと思います。アニメに夢と情熱を注いできた才能あるアニメーター達の無念を思うと、やりきれない思いが溢れます。
 
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