従業員の幸福(EH)を後押しし、働く幸せの歩留まりを高める企業の役割

 従業員は幸福を搾取されているという話ばかりすると、従業員幸福度を高める努力をしている企業や、従業員を大切にしようと日夜心を砕いている経営者の方々には、気分の悪い話が続きますし、企業を全面的に敵視していると誤解されるといけません。企業は幸福を搾取している側面もありますが、「従業員幸福度(EH)」生産システムでもあるのです。
 そこで今回は、逆に企業が従業員の幸福度向上を大いにサポートしている側面もあるという話をしたいと思います。
 もし働く人々が、従業員として雇用される制約を嫌がって、独力で自分の理想とする仕事で働こう、経済的基盤を確立しようとしようとすると、残念ながら、その望みが叶う確率は低いものとなります。パレートの法則に従うとして、成功する確率は 、せいぜい二、三割にとどまるでしょう。つまり大半の人は思い描いたような働く幸せを実現できない可能性が高いと推察されるのです。

働く幸せの揺籃としての企業、護送船団の一員としての従業員

 この問題を解決してくれるのが、働く幸せのセーフティネットとしての企業の役割です。従業員にとって働く幸せの揺籃とも言えるでしょう。独力でやりたい仕事を事業にしようとしても、能力的にも、資金その他必要な資源を調達するにも大変な苦労を伴いますが、資本を蓄積し、一定の経営資源を有する企業であれば、自分のやりたいことを実現できる可能性が飛躍的に高いのです。
 もちろん従業員として雇用されるわけですから、様々な制約があります。自分の働きの付加価値は、 一定の額を上納することは必要です。これを経済的搾取と言っているわけですが。 しかし、スキル開発の機会も提供してくれて、企業の有するネットワークを通じて、人的交流を広げることもでき、企業の有する様々な資産を活用して、一人ではできない大きな仕事にチャレンジできます。 
 このように考えると、従業員として雇用されることは、自分という種が、企業と言う鉢で囲った土壌の中にしっかりと根を下ろすことだとも言うことができます。
 反面、無限の大地ではなく、 あくまで限られた鉢植えの中での可能性です。手狭になったと考えたら、リスクを取って飛び出すこともできます。しかし、自分一人では心細いと思ったら、固い鉢の囲いで守ってくれて、水も肥料ももらえます。制約や限界はあるけれど、安全・安心な環境で、花を咲かせ実をつけることもできるのです。
 共に働く従業員は、護送船団の一員に例えることもできます。船団の一員として自由はないけれど、 みんなで航路を守り船足を揃えていけば、護衛艦が守ってくれます。

幸福を再分配する仕組みとしての企業 

 企業によって報酬体系は異なりますが、 大半の企業では、従業員一人ひとりの産み出した付加価値の差異よりも、格差が緩やかな報酬体系を構築しています。特に伝統的な日本の会社では、その傾向が強く、見直しが進んだとはいえ、かなり年功的、平等的賃金体系を賃金体系を維持しています。 
 これは、企業が経済的な幸福を再分配する仕組みとして機能しているということです。すなわち従業員全体が経済的にウェルビーイングであるために、高い付加価値を上げる従業員が、付加価値の少ない、 あるいは自分の経済的報酬以下の価値しかあげられない従業員を扶養する関係が成り立っているということです。 
 これによって、企業という従業員社会が、 全体として維持されているということです。 あたかも国家と国民、社会福祉の縮図のようです。 これには一定の合理的根拠があります。 新人の教育期間など、将来のリターン、回収の可能性を期待して、先行投資しているとも考えられるからです。ただ、働いているふりをして付加価値を上げない従業員、ピーターの法則によって無能化した管理職など、しばしば、フリーライダー従業員も抱え込むことになります。
 また多様な人々、労働意欲が高いにもかかわらず、独力では働くことが困難な様々の制約条件を抱えた人たち、障がいを持った人、子育て中の夫婦、 出産をする女性、シングルマザー、介護が必要な家族を抱えている人、高齢者等に働きやすい環境を提供するという機能も持っています。

 企業によって差はありますが、そのような懐の深さを持ったソーシャルサポートの仕組み、幸福のセーフティネットとしての役割も、企業は果たしているということです。
 企業とは、幸福のリターンに一定の制約(幸福の搾取等)や経営のリスクはありますが、真面目に職務に精励する従業員、多様な人びとに対して、精神的な達成感、幸福感も、経済的な福利(Well-being)も、ほぼ確実に提供する、幸福獲得システムと言えるでしょう。 

 

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     (松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役)

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