これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

濃霧のせい

2020年11月29日 21時53分30秒 | エッセイ
 11月26日の朝は霧が濃かった。
「うわっ、ミラーが曇って見えない。ゆっくり行こう」
 私は自転車通勤なので、カーブミラーに頼らず目視で安全運転に努めた。だが、生徒が一人、交通事故で乗用車と接触したと聞き、ヒヤリとしたが、それだけではすまなかった。
「笹木先生、外線です」
 呼ばれて受話器を取ると、教員からの電話である。
「おはようございます。実は朝、出勤途中で車に轢かれまして……」
「ええっ!」
 彼は元気にジョギング通勤をしている。家を出てすぐ、前方不注意の乗用車が自分の方に向かって突っ込んできたから、よけきれなかったという。タイヤに足を踏まれ、救急搬送されたそうだ。不幸中の幸いで、職場の至近距離にある病院に運び込まれた。生徒だけでなく、教員も交通事故に遭うなんて、濃霧は怖い。
「もう検査は終わりました。骨は折れていないって言われたから、これから出勤します」
「なんとっ!」
 大丈夫なのかと首を傾げていたら、10分後、彼は本当に出勤してきた。
「いやあ、近くの病院でよかったですよ。まだ試験範囲が終わっていないので、今日は休むわけにいきません」
「歩けるんですか」
「痛いけど何とか。足の上にタイヤが載りましたが、折れてないのでホッとしました」
 そう言うと、痛めた足を引きずりながら、教科書やプリントを準備し始めた。たしかに期末試験が近いから、休みたくない気持ちはわかる。でも、交通事故に遭ったら話は別だ。私だけでなく、近くにいた教員みんなが唖然茫然とした。
「靴はダメになっちゃった。でも、相手の人が弁償してくれるって」
 彼が隣の席の教員と話している声が聞こえてくる。そういえば、彼は、道具にお金をかける人だった。ウエアもシューズもリュックも、よさそうなものを使っている。シューズはたしか、黄色でこんな感じだったような……。



 今回は、この靴が足を守ってくれたのだ。もっとも、日頃から鍛えている人だから、靴だけのおかげではないと思うが。
 廊下を歩いていたら、生徒たちが、授業を終えた彼に温かい言葉をかけていた。
「先生、大丈夫ですか」
「荷物を持ちますから、無理しないでください」
「お大事に」
 生徒の優しさと気配りに感心した。職員室に戻ってきた彼も、痛みを忘れたような表情で、楽しそうに笑っている。
 こういう子たちが試験で不利にならないように、彼は必死で職場に駆けつけたのだと理解した。
 やりとりを見つめながら、「試験ガンバレ」と心の中でエールを送った。


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8 コメント

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はて? (ZUYA)
2020-11-29 22:07:43
「私は自転車通勤なので、ミラーに頼らず目視で安全運転に努めた」

とありますが...

ミラーって道路の「カーブミラー」のことなのですか?自転車のミラーとはいかがなもので?
軽傷でよかったです (白玉)
2020-11-30 10:41:02
濃霧怖いですよね。晩秋は特に多い気がします。
砂希さんは、自転車にミラー付けられてましたっけ?
以前そんな記事があったような。
足を轢かれた先生、心のダメージも大きかったでしょうね。
生徒の優しさ、先生との絆が温かいです。
カーブミラーです (砂希)
2020-11-30 21:24:15
>ZUYAさん

車を運転しないもので、サイドミラーは眼中にありませんでした。
本文も修正し、誤解のないようにしないといけませんね。
ご指摘ありがとうございます。
つけていません (砂希)
2020-11-30 21:31:08
>白玉さん

自転車にミラー?
私じゃないですね。
別のどなたかなのではありませんか。
非常時にこそ、人の温かみがわかります。
松葉杖をついて通学していた生徒が雨に降られたとき、いつも怒ってばかりの先生が傘に入れてくれたと驚いていました。
助けようとする気持ちが大事ですね。
濃霧 (ヤッギー)
2020-12-01 02:05:50
すごい濃霧だったんですね。

ジョギング中に轢かれた先生は災難でしたね。生徒の心遣いが嬉しいです。
Unknown (鹿島田の純2)
2020-12-02 18:36:45
実は私も原チャリで本線を走ってた時に右脇から安全確認をあんまりしないで出てきた車とぶつかり右足先か車に乗られた状態止まりました。運転手が慌てて降りてきて私の足がタイヤの下にあるのを見て驚いてましてが、私が「とりあえず車をどかして!」と叫びましたよ(笑)指は安全靴を履いていたので平気でしたが指が挟まれていた状態で倒れたので左鎖骨をしこたま道路にぶつけ骨折!いついかなる事があるか判らないのでチャリ運転充分に気をつけてくださいね!
災難 (砂希)
2020-12-02 21:13:47
>ヤッギーさん

毎朝元気に走っていたのに、今はタクシー通勤となってしまいました。
運動不足で体が重くなったみたいです。
困ったときは、人のやさしさが身にしみます。
自分も誰かにしてあげようと思いますね。
足の下 (砂希)
2020-12-02 21:16:28
>鹿島田の純さん

てことは、足の指は無事だったけれど、左鎖骨は無事じゃなかったんですね。
まあ、命があって何よりでしたよ。
ケガは時間が経てば治りますが、車が迫ってくる恐怖は忘れられませんね。
原チャリもチャリも安全運転でいきましょう!

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