葦切は昼休みに休憩室で昼食を摂っていた。
「あ、おつかれさまー」
そこに南がやってきた。
「あ、お疲れ様です、」
とニッコリ笑う彼の食事を見ると。
梅ひじきごはん
豚肉のピカタ
オクラとキノコの和え物
銀だらの西京焼き
サトイモとにんじんの煮物
ぶどう
という豪華できれいな手づくり弁当…
「おや?」
南はずいっと近づいた。
「え、」
勘のいい彼女は
「あ! さくらちゃんに作ってもらったの?」
ぱあっと明るい顔になった。
「えっ…あー、まあ、ハイ。」
葦切は照れて笑った。
「へー。 彼女、退院したんでしょ? ひょっとして一緒に住んでんの?」
もうそこまで気を回されて
「…部屋が。 レッスン室と繋がっているので。 おちおち休めないみたいなので…」
消え入りそうな声でそう言った。
「は~~~~、そうなんや~~。 へええええ、」
ねちっこく頷かれた。
「さくらちゃん、料理上手でしょ? 何回か彼女の所に遊びに行ったことあるんやけど。 料理もデザートのスイーツも。 手づくりやったの。 ほんと美味しくてさあ。びっくりしたの。 彼女って見た目そういうの絶対やりそうじゃないでしょ?」
「本当に。 とても美味しいです。 冷蔵庫の残り物で信じられないくらいの食事を作ってくれます、」
今度は少し自慢げに言った。
「もーー、愛妻弁当やん。 幸せがにじみ出てる~~~」
南は葦切の肩をぐりぐりと突いた。
「や、愛妻とか! そんな…。 ほんと・・失礼ですから。」
葦切はまた赤面して全否定した。
「え、結婚考えてないの?」
南は思ったことをどんどん聞いてくる。
ついに隣に座ってしまった。
「け、結婚とか。 いや、ほんと。 さくらさん、今仕事にやる気満ち溢れてますから。 奏くんのことも・・本当に一生懸命で、」
「確かに。 彼女が藤堂さんのトコに勤めてた頃より今のがめっちゃキレイになったし、生き生きしてるなあ。 でも。 仕事とプライベートは別じゃない?」
「結婚は。 ただ好きで一緒に暮らしたいからといってするものではないと思うんです。 お互いの人生を負うわけですから。 ・・一度失敗すると結婚の意味も深く考えてしまって。 結婚する理由って人それぞれだと思います。 前の結婚は子供ができたので、子供のためにという気持ちが一番でした。 本当はもっともっときちんと考えないといけないものだと思うんです。 一度きりの人生です。 安易に考えて相手の人生を狂わせたりすることも。 あるかもしれないですし、」
南は葦切の話をじーっと聞き入った。
「・・すごい。 真面目なんだねー。 葦切さんは。 なかなかそういう風に考えられる人、いないよ。 だって自分が結婚したいかどうかって普通は考えるやん。 相手の人生のこと、考えて結婚する人ってそうそういないと思うわ、」
「い、いえ。 やはり一度失敗したからこういう考えになったと思います。」
葦切はうつむいて静かにそう言った。
さくらとの生活は楽しいものの、葦切は『その先』を考えるのも畏れ多く・・
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