本選に進めるか進めないか。
気をもまなかったわけではないが、こうして清永と他愛もない話をしているうちに奏は気持ちが紛れた。
全ての演奏が終わった後、2時間ほど待ってロビーで結果が発表された。
本選に進めるのは6人。
エントリー順だったので、一番最初に呼ばれたのは清永だった。
彼は当然、と言った顔で表情一つ変えなかった。
またさくらはどきどきで、奏の後ろに隠れるように彼の肩にずーっと手を置いたままだった。
一人呼ばれる度にその手にグッと力が入る。
「ちょ・・先生・・痛い、」
もう爪が食い込むくらいになったところで奏は後ろのさくらに言った。
「だって! なんかもう心臓バクバクで・・」
「先生が落ち着いて下さい、もー、」
「だいたいあんたが落ち着き過ぎなのよ!」
「・・・番・・高遠奏さん・・」
思わず聴き逃しそうになって、
「え? あ? 呼ばれた???」
さくらはまた奏の肩に置いた手に力を込めてしまった。
「痛いって! もーーー。 呼ばれた、みたいです、」
「・・はああああ・・よかった・・。 志藤さんは大丈夫なんじゃないかって言ってさっさと帰っちゃったけど。 し、心臓が・・」
さくらは脱力してしまった。
「でも。 15歳でジャパコンの本選に残るなんてすごいよー・・。 よかったー、」
「本選は。 コンチェルト、ですね。 これも初めてだから・・」
「そのために。 ホクトの力を借りなくちゃ。」
そこに
「毎朝新聞のものですが。 高遠くんにコメント頂きたいのですが、」
記者がやって来た。
「え? あ、・・えっと、」
さくらが戸惑っていると、さらに後ろから
「週刊文潮です。 あの、高遠奏くんはあの設楽啓輔さんと『親子』関係っていうのは本当ですか?」
いきなり中年の記者が割り込んで来た。
「え、」
奏は驚いた。
すぐそばにいた清永も驚いて彼らを見た。
「お母さん、設楽さんと『再婚』されたんですよね。 それときみが突然ピアノコンクールに出て好成績を収めたり、あの『広告の日』のCMに出るようになったことは関係あるんですか?」
遠慮なく質問を重ねる彼に奏は驚いて目を見張った。
「ちょ、ちょっと! いきなり失礼じゃないですか?」
さくらがあまりの無礼さに奏を庇うように楯になって記者に言った。
「あなたは・・、」
「私は高遠奏のピアノレッスンをしている者です。 今の言い方。 非常に心外です。 そのような質問にはお答えできません、」
さくらは毅然として言った。
「高遠くんのお母さんと設楽啓輔さんが結婚されたのは事実ですよね?」
記者は全く気にせずさらに質問を重ねた。
それにさくらはカッとなって
「あのねえ!」
一歩前に出た時に後ろから腕をグッと掴まれた。
予選を通過した奏。 しかし設楽との関係をかぎつけたマスコミにいきなり来られて・・
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