彼は隅のほうにぽつりと座っていた。
「すみません、遅くなってしまって。」
さくらは彼の所にやって来た。
「いいえ。 さすがに有名な博多人形師さんのご葬儀ですね。 たいへんな弔問客で、」
葦切は穏やかに言った。
そこに一段落した家族や親戚たちがやって来た。
「あらっ・・・。 葦切さん?」
さくらの母が目ざとく見つけてやって来た。
「このたびはご愁傷さまでごさいました。」
葦切は立ち上がって深々と頭を下げた。
「来て下さったとですか・・。 まあまあ、こんな遠いところまで。 ありがとう存じます。」
そこに父も来たので、さくらが
「お父さん。 あの。 前に仕事で一緒に来た・・葦切さん。 わざわざ東京から来て下さったと、」
と声をかけた。
「え? ああ・・。」
さくらの父は意外そうな顔をして会釈をした。
「え? だれ? さくらちゃんの彼氏ね、」
親戚がどやどやとやってきてしまい、二人は戸惑う。
「ええっと。 あのですね。 ・・私が、今おつきあいしている方です。 東京のホクトエンターテイメントにお勤めの葦切耕平さんです、」
思い切ってみんなの前で紹介した。
「えっ、」
さすがに父は驚いた。
葦切は困ったように、ただただ頭を下げるだけだった。
「ホクトエンターテイメントって。 芸能社やなかね。 へええ、さくらちゃんそんな人とつきあってるの? さすがやねえ、」
「もう、いい人おるばい。 全く心配して損した、」
「え~、どうやって知り合ったとね、」
とにかく。
さくらの親戚たちは本当に賑やかで。
「まあまあまあ。 飲みんしゃい。 よく来て下さいました、」
あっという間に宴会状態になってしまった。
「ちょっと、おじさん。 宴会やなかよ。 じいちゃんがおれが主役ばいって怒ってる、」
さくらは上座に飾られた祖父の遺影を見て言った。
「よかよか。 父ちゃんも酒の席が好きやったけんねえ。 飲んでりゃご機嫌の人やった。 父ちゃん、とうとうさくらが彼氏連れてきたばい!」
叔父はグラスを遺影に向けた。
「もー・・。」
本当に
ここは通夜の浄めの席なのだろうか・・
葦切はだんだんと異次元の世界に連れて行かれているのではないかと錯覚に陥った。
とにかく。
飲む、飲む、飲む。
親戚は総勢20人ほどだったが、みんな豪快に飲んでいた。
「ほらほら、もっと飲みんしゃい、」
葦切のグラスにもどんどん酒が注がれるが
「ちょっと。 あんまり飲ませんで。 おじさんたちと同じペースで飲ませたら大変、」
さくらが制した。
「それにしても、」
葦切は周囲を見回してあることに気づいていた。
お浄めの席のはずが、どんどん宴会化してきて・・
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